四通目『裏社会からの手紙』
裏社会からの手紙 往信
「カラウリしゃん、カラウリしゃん、たいへんでしゅ!」
フヨウちゃんがテテテと慌てた様子で走ってくる。その小さな手で捧げるようにして、二つ折りにされた手紙を握っている。
なんだろう、こんなにあわてて?
てか、そもそもフヨウちゃんはまだ文字が読めないはずなんだけど。
「慌てなくても大丈夫だよ」
とりあえず手紙を受け取り、おかっぱ頭をくしゃっとなでる。うん。フヨウちゃんの黒髪はいつもサラサラで気持ちのいい感触なのだ。
なんてノンキにしながら手紙を開いてみると、紙面からブワッと炎が上がった。
「あつっ! て……あれ? なんだこれ?」
一瞬、驚いた。けど、冷静になってみると熱くなかった。これはたぶん手紙に宿った怨念みたいなものが火の映像として現れただけだろう。実際に火が出ていたらこの手紙だって燃えていたはずだから。
それはともかく、フヨウちゃんが慌てていた理由もわかった。
「カラウリしゃん、火ぃ、けしますか?」
「ああ、頼むよ。これじゃ中身が読めないしな」
「あい」
フヨウちゃんは唇をすぼめ、それから大きく息を吸い込んだ。
その口に映像の火が吸い込まれてゆき、やがて鎮火した。が、ご丁寧にも煙だけは消えることなく、モクモクとした灰色の煙が辺りに立ち込める。
「はい、手紙。もちろん文字は消えてないからね」
と、フヨウちゃんの声と手紙が煙の中から届けられる。
「お。ありがと……」
煙を手で払いながら、渡された手紙を開いてみる。
大丈夫、文字はちゃんと残っている。
ということで、さっそく手紙を読んでみた。
✉
前置きはナシだ。
おめーを狙ってるやつがいる。
なんで分かったとか、どうして教えてくれるのかとか、くだんねーこと訊くのもナシだ。どうせおれが答えてやれることなんざ小指のさきっぽほどもねえ。
おれがだれか、なんてのも訊くなよ。
おめーはただおれの忠告を聞いておけばいい。
言っておくが、警察に駆け込んでもムダだぜ。
上層部にグルになってるやつがいるからすぐ握りつぶされるだろうし、ヘタすりゃ署内で殺られっちまうのがオチだ。
どうせおめーのことだからのほほんとしてやがるンだろうが、これはマジだ。今回だけはおれの言うことを信じろ。
この件に関しちゃ、おれはおおっぴらに動くわけにいかねえ。利害がごちゃごちゃに絡みまくっていやがるからな。
とにかくおれからの忠告はふたつだ。
あの件からは手を引け。
しばらく家ンなかにでもひき籠ってろ。
といってもどうせおめーは聞かねえンだろ。
なにか言いたいことがあるなら聞いてやる。助けがいるなら、言え。
おめーのことはどうでもいいが、おめーが死ぬと、泣くやつがたっぷりいやがンだよ。まったくめんどうかけやがって。
明日使いをやる。そいつに返事をわたせ。
しちめんどくせーことに巻き込まれやがって、ま、おめーらしいけどな。
せいぜい長生きしろよ。
✉
「ねぇ、どんな返事書くの?」
あれ? かすかな違和感がある。なんかいつものフヨウちゃんの感じと違うし、話し方もしっかりしているし、そもそも声が出てくる位置が高い。
そこでオレはハタと気づいた。
フヨウちゃん、さっきの手紙で
その疑問を晴らすように、モクモクの煙が晴れていき……
現れたのはなんかギャルみたいになったフヨウちゃんだった。
「あー、返信はまだ考えてないんだけど……」
いや、これたぶん、あの吸い込んだ往信の影響だろう。フヨウちゃんがふだん吸い込むのは返信の方、それで往信の郵気が浄化されるのだ。往信の方の郵気を吸い込むと、その手紙の影響がもろに出てしまうのだ。
なんかめんどくさいことになったな……はやく返事書いた方がよさそうだ。
「じゃあ、さっさと書いちゃってよ。どんな味か楽しみっ!」
ギャルフヨウちゃんが八重歯を見せて笑った。
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