異世界からの手紙 返信
✉
吉森係長
拝啓
あなたからの無事なお手紙が届いてほっとしています。
気にされていた退職などの手続きのこと、わたしの方ですべて進めておきましたので、ご安心ください。
思えば吉森さんにはずいぶんと負担をかけてしまいましたね。入社したてでプレッシャーもあっただろうし、もちろんわたしの指導力不足にも原因があったかもしれません。特に昨今は様々なハラスメントの問題もあり、あなたとの距離感を気にし過ぎて、十分な指導ができなかったと反省しておりました。
あなたが連絡を絶ってからというもの、わたしもただでさえ忙しい通常の業務にくわえ、社内監査への対応、警察とのやりとりなど、さまざまな雑事に忙殺されましたが、なんとか無事に期間内に業務の方は完遂できました。
ペンディングになっていたのは吉森さんの件だけでしたが、それもこの手紙がとどいたことで速やかに解決できそうです。
最後の瞬間にはお気づきだったかもしれませんが、あの日の夜ハイエースのハンドルを握っていたのはわたしでした(一瞬だけどたしかに目が合いましたよね!)。
年下の女性は子供っぽくて興味がない、仕事のできる年上の女性がタイプです、なんて言っていたくせに同期の悠木さんと飲みに行ってましたよね。わたしはあんな時間まで棚卸で得意先を走り回っていたというのに。
でもそれもすべて終わったことです。あなたの無事を聞いて、わたしも心置きなく、浴槽に置いたままのあなたの遺体を処分できます。
だから新しい世界で新しい人生をゆっくり楽しんでくださいね。
敬具
追伸 あの日の子猫はわたしのところで元気に過ごしています。先日は二歳の誕生日を一緒にお祝いしました!
✉
「はい、フヨウちゃん、書けたよ」
書いたばかりの手紙をフヨウに渡す。
「あい」
フヨウは受け取った手紙を眺め、それから大きく息を吸った。
同時に手紙の中から文字だけが浮かび上がり、フヨウの小さな口にスルスルと吸いこまれてゆく。
まぁちょっとした怪異だ。
でもそれがフヨウちゃんである。
彼女の正式な名前は『
手紙を食べるアヤカシなのである。
さて、今回の結果は?
「どうだった?」
「うん、ちょっと苦かった。てへへ」
~ かしこ ~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます