第9話 キッズの敵 ―― 大人の男

キッズ達にとっての敵の中には、Q界隈で歓楽する大人の男、が居る。特に女の子にとって、大人の男ほど危険な者はいないだろう。

 セクシー居酒屋の嬢達の中には、男性の酔客に絡まれ、帰りを待ち伏せされることがある。男達は帰り道には化粧もしていない、ジャージ姿の女の子をストーカーし、お札を見せつけ女の子を買おうとする。女の子の中には「パパ活」体験者が多いが、キッズの大事な時間を割いて、いきなり男性に連れられカラオケ屋やホテルに行くのは、お手当が貰えるとしても辛いことだろう。

 Q界隈のキッズは、男女で服装が大いに違っていた。男子のキッズは、Tシャツやポロシャツに普通のパンツを履いている。いわゆるファストファッション、普段着だ。色は暗めのものが好まれていた。茶髪に染めている者は少ない。

 一方の女子はジャージを着ていることが多い。ジャージと体操服ならパジャマにも夜の界隈の遊び着にもなる。洗濯もしやすいし、安価な上着があれば冬場も凌げる。動きやすいからズンバのようなダンスも踊れるし、昼間の街を歩くときはリュックにウェストポーチを身につけたなら、遠征に来た、どこかの運動部の女生徒に見える。

 ジャージ姿の女子に交じって、清楚な余所行きの、ワンピースやツーピースなどを着て、ショルダーバッグに踵の低いパンプス姿の女の子がいる。キッズの少女達の人気の余所行き着は、赤や青空色のセーラ―服風のものであったり、丸襟にフリルのついたパステルカラーのワンピースだったりする。いずれもスカーフやボウタイなどは黒っぽいものが好まれていた。そんなおしゃれ着では踊りにくいし、界隈の路上に座るのは例え段ボール紙が敷いてあっても、気が引ける筈だ。

 俺達が交差点や三叉路で飲食やおしゃべりで時間を過ごしているとき、ネクタイ姿の、あるいはポロシャツ姿の、30代から40代ぐらいの男が近寄って来ることがある。

「この中にイチゴちゃんはいるかい?」

 すると正装姿の女子が立ち上がり、男に連れられて行く。あるいは持っているスマホが鳴る。女の子は電話に出、そのうち俺達の輪から出る。いわゆる「パパ活」だ。パパ活をする女の子は、「パパ」とデートをする日には、パパ活用の、一張羅のおしゃれで清楚な服を身に着ける。「パパ」と一緒にどんな高級店やサパークラブにでも行けるような服を選んでいる。足元はいざとなったとき、早く走れるヒールの低い靴が多い。

 正装をしている女の子の中には、パパ活を夕方5時から10時までやっている子も居る。        

また、正装ではなく、高校の制服の上に薄手のコートを羽織っている女の子も居る。パパが制服でのデートを所望しているからだ。コートはホテルなどに入るときのカムフラージュになる。

 キッズの輪から女の子がこうやって消えて行く姿を見るのは、俺は男の子として寂しい。    

 女の子は深夜のパパ活用に「先パイ」から偽の身分証明書、例えば生年月日が書いてある診察券や、美容院やエステの会員券を貸して貰っている。これがあればホテルなどの年齢確認をごまかし出来る。

 俺は嫉妬の気持ちもあって、俺が大人になったなら、絶対に買春をするまいとその時は思った。


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