第4話 俺は家出を決意した

 親父とお袋は俺を残して部屋を去った。親父は言った。今通っている学校に必要なカネは、当面は出してやる。だが高校の勉強も、ましてや大学の学問も社会に出れば役に立たない。

「こう見えて俺は中学受験を経験し、つるかめ算だの東京でのウグイスの鳴き時などやらされた、が中学に入れば入試の知識なんぞ一度も使わなかった。勉強は時間の無駄だ、1日でも早く社会に出て生涯年収を高くしろ」

親父はそう言い残して、お袋と2人で外に出た。

 別れた夫婦が2人で深夜、これからをどうするのだろうと俺は想像する。少なくとも俺の将来を心配して話し合うような感じではない。すでに夫婦別れした男女のことなど俺に分かる筈がない。

 俺は荷物を整え出した。当面の衣類に寒くなったときの厚めの上着。そして寝袋。寝袋は俺が中学の頃、家出に憧れて安いのを買ったものがある。髭剃りなどに必要な洗面用具もリュックに詰める。少し考えて制服の上下と2枚のワイシャツを修学旅行のために買った旅行用カートに詰めた。

 俺は家出する。早朝に家を出た。Q界隈で生活してやる。

 俺は見納めに親父の部屋を見た。シングルのベッドがあり、そこは親父の寝床兼嬢との研修場所になる。親父は家具を隠すように部屋にカーテンを付けていた。カーテンの向こうには親父のタンス代わりのハンガーラックや衣装ケースがあり、隣には本がぎっしり詰まった本棚がある。松本清張に司馬遼太郎、山崎豊子などの小説が多い。最近は芥川賞小説に関心があるようで、「蹴りたい背中」とか「コンビニ人間」に「推し、燃ゆ」なんかの小説が目立つ。俺は親父が居ない夜は、こっそりとそういう小説を読んだ。これからは本もあまり読めないだろう。

 今の時刻には交通手段がないので朝5時に家を出ようと思う。Q界隈の街が目覚めるまでは隣のP町の安宿のデイユーズを利用しよう。

 俺は親父にメールを送った。18歳になるまで考えたいことがあるので家を出る。学校にも行かない。学校にも同じ内容で休学願いの形でメールを送った。


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