第120話 始まりの場所 ⑵
「滝沢?」
「なに?」
「ううん。ちゃんといるかなって思った」
「ちゃんと居るじゃん」
滝沢は私の手を握って離してくれなさそうだ。そのことが嬉しくて私の心をくすぐってくる。
私はまだ夢の中にいる気分だった。
滝沢に好きと言われて、逃げられて、追いかけて、連絡も何回もしたけれど通じず、もう二度と私と会ってくれないんじゃないかと不安が何度も押し寄せた。
彼女に会いに行かなければと思い、彼女の家の前に行っては勇気が出なくてインターホンを鳴らせず、この公園に来て勇気をもらって彼女の元に行くを繰り返していた。
だから、まさかここで滝沢に会えると思っていなかった。
頭上に広がる星たちが私達を繋いでくれた。
そんな気がした。
こんな寒い真冬に公園のベンチの上でコートを二人で羽織って身を寄せあっている。手からは彼女の熱が伝わってきた。
ちゃんと隣に滝沢がいる。
その事実は私を喜ばせ、握っている手に無意識に力が入る。
先程まで冷たかった彼女の体はポカポカと熱を放ち始めた。
私たちはただひたすら星を見ている。
「教えてもらったおおいぬ座、遠藤さんみたいだよね」
「え……?」
また、犬か何かと思われていることに不満そうな顔で滝沢を見ると彼女は悪そうな顔をしていた。そんな顔すらも愛おしいと思ってしまう。
もうこの気持ちを抑えなくてもいいんだ――。
「すき……」
「うん」
「だいすき……」
「うん」
「滝沢は?」
「さっき言った」
そう言って好きと言ってくれない。
ちょっといじけて滝沢から目を離すと、顔を滝沢の方にぐっと寄せられて唇に温かいものが重なる。
「――すきだよ」
滝沢の顔は寒いからなのかそれとも私を意識してくれているからなのかわからないけど赤くなっていた。こんな幸せなことってあるのだろうか。
「幸せ……」
幸せが口から溢れてしまう。
明日、死んでもいいくらいだ。
いや、やっと滝沢と想いを通わせられたのだ。したいことが沢山ある。
「遠藤さん、いつから私のこと好きだったの?」
滝沢が真面目な顔をしてそんなことを聞いてくる。そんなことを聞かれると思っていなくて恥ずかしくて目を逸らしてしまった。
「知らない間に心はどんどん惹かれてた。ちゃんと恋愛感情だって気がついたのは二年生のクリスマスの時かな」
「二年生の時?」
「うん」
そうだ、もうなんだかんだ一年間も滝沢に片想いをしていたのだ。
たくさん辛いこともあった。
ただ、今日という日があるのなら、あと何年先だったとしても頑張れたと思う。
「そっか。気がつけなくてごめん」
「ほんとだよ、ずっと意識してもらえるようにアピールしてたのに」
私は頬を膨らまして滝沢を見ると滝沢ぷっと吹くように笑っていた。
「なんで笑ったの?」
「ううん。なんでもない」
「そんな面白そうに笑う?」
「かわいいなって思って」
――かわいい――
たった四文字の言葉に一気に体中に熱が集まる。滝沢が私のことをかわいいなんて思ってくれているのだろうか。そのことが信じられないし、そんなことですぐ顔が熱くなってしまうなんて恥ずかしかった。
「滝沢のばか」
「遠藤さんの方がばかでしょ」
「……滝沢、ほんとに私でいいの?」
不安で仕方ない。
今も夢なのかと何回も頬をつねりたくなる。
滝沢に会いに行くまでの時間だって、何回も頬をつねっていたので、もうパンパンに腫れそうだ。
「陽菜がいいんだよ――」
その言葉に反応し滝沢を見ると逆側を向いていて耳まで真っ赤になっていた。
どうしよう。
彼女に触れたいという思いが膨れ上がって、いつ壊れしまってもおかしくない。
滝沢が私のことを好きなんて夢のようだ。
しかも、滝沢から告白してくれた。
どう考えても私の命日でしかないと思っている。
私はもう一度、
それが偶然でも奇跡でもなんでもかまいはしなかった。一度見つけた星をもう見失わないように私は彼女から目を離すことはないだろう。
私が星に夢中になっていると、滝沢が先程よりも身を寄せて、私の肩には彼女の頭が乗っかっている。
寒さもより酷くなってきてコート一つでは寒さを凌げなくなってきた。
「風邪引いちゃうから帰ろっか」
「そうだね」
「私の家来る?」
「いいの? こんな時間に家に帰るの迷惑になりそうだからありがたい」
私は彼女の小さい手を引いて家に帰ることにした。
まってまって――。
滝沢と付き合って初めての日が家に二人で泊まるって――。
いや、私は何を考えてるんだ。
「遠藤さん顔真っ赤。寒かったよねごめん」
滝沢がほっぺを優しく撫でてくれる。
それだけのことなのに耳から火が吹きそうになった。
「お風呂入ってくるね」
急いでお風呂に駆け込んだ。映画のワンシーンを担当できそうなほどすごい勢いでお風呂にざぶんと飛び込んだ。
湯船に浸かると体が隅々までジリジリと暖かくなり、気持ちいい。
別に何も無い。
何も無いはずなのに滝沢と付き合い始めたと言うだけで変な期待をしてしまう。
これから滝沢と手を繋ぎたい時に繋いでいいのだろうか、触れたい時に触れてもいいのだろうか。
私の中で悪い欲望ばかり出てくる。
のぼせそうになったので、具合が悪くなる前にお風呂から飛び出た。私が上がると滝沢も直ぐにお風呂に入ってしまう。
私はベットの上で彼女を待っていた。
沢山のことがあった。
今まで生きてきて彼女に出会うまでたくさん辛いことも苦しいこともあった。
ただ、今は世界一幸せな自信がある。
「早く滝沢上がってこないかな」
これから先のことに期待で胸がいっぱいだった。
どんな思い出を作っていけるのだろう。
どんな景色を見れるのだろう。
どんなものを一緒に食べれるのだろう。
どんな時間を過ごせるのだろう。
滝沢が隣に居てくれるのなら楽しいことや幸せなことしか思い浮かばない。
楽しいことを沢山考えていたら、知らない間に私の意識はベットの上にはもうなかった。
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