第112話 クリスマス会
結局、三人のクリスマス会は舞が自分の家でやりたいと言い出したので舞の家で開かれることになった。
「星空いらっしゃい! 中入って! 陽菜ももう来てるよ」
舞の元気な声に押されて家に入る。
「いらっしゃい。いつも舞がお世話になってます」
朗らかな雰囲気の女性が出てくる。
「いえいえ、こちらこそ舞さんにいつもお世話になってます」
深くお辞儀をする。舞と顔がそっくりということもあるのかあまり緊張せずに挨拶ができた。
「そうそう、私がいつもお世話をしてるよね!」
バシバシと背中を叩かれながら意味のわからないことを言われるが、お母さんの前じゃなければ絶対に首に腕を巻き付けていると思う。
「舞が迷惑かけてるのは知ってるので、今日はゆっくりしていってね」
ニコリと笑って舞の母はリビングに戻ってしまった。
「私の部屋で陽菜待ってるから先行ってて。私飲み物取ってくるね」
舞に言われるまま部屋に向かう。部屋を開けると遠藤さんが居た。
「滝沢、昨日ぶりだね」
「昨日ぶり」
同じ言葉を返してみたら、遠藤さんは嬉しそうな顔をしている。何がおかしいのか、遠藤さんのツボはいつもよく分からない。
「デリバリーするけど、何がいいか決めよう!」
舞はとても張りきっていて、沢山食べ物を頼んだ。チキン、フライドポテト、ピザ、ケーキ……。
ケーキまでデリバリーできる今の時代ってほんとに凄いと思う。たくさん食べてお腹が脹れたところでプレゼント交換が始まった。
「じゃあ、私から!」
舞が元気よくプレゼントの袋を渡してくる。こういう風に友達とプレゼント交換をしたことがないので、このやり取りに胸がくすぐったくなっていた。
「開けていい?」
「もう開けちゃってるじゃん」
「えへへ」
舞がいいよと言う前に遠藤さんは無邪気な子どものように開封していた。その二人のやり取りに癒されてしまう。
遠藤さんが開けているので私も開けてみた。
「わぁ、この匂いめっちゃ好きなんだよね。嬉しいありがとう!」
私も遠藤さんとは違う匂いだが、同じ種類のハンドクリームが入っていた。
さっそく遠藤さんが手に塗って私の鼻にくいっと手を運んでくる。
「いい匂いじゃない?」
遠藤さんが私の顔の近くに手を持ってくるので、嗅がざるを得ない。その匂いは大人っぽくて少しクラりとする匂いだった。
「いい匂いだね」
私がそう言うと遠藤さんは嬉しそうに舞にお礼を言っていた。私も自分の手に貰ったハンドクリームを塗ってみる。
柑橘系の匂いがして心がふわふわとした。
「滝沢のはどんな匂い?」
遠藤さんが勝手に私の腕を掴み顔の近くに持っていく。いつも勝手な遠藤さんには呆れてしまう。
「シトラス系かぁこれもいいね。滝沢はおいしそうとか思いながら嗅ぎそうだけど」
「たしかに」
舞と二人でふふふと笑っているが納得いかない。私のこと大食いかなんかと勘違いしていないだろうか?
「ほらほら、滝沢そんな顔しないの。じゃあ、次は私ね」
次は遠藤さんが私たちにプレゼントを渡した。開けるとオシャレなバスボムが三つほど入っている。
「これ有名なラッツのバスボムでしょ! 自分に買うには高すぎるから買わなかったけど一度は使ってみたかったんだよね!」
「受験期で疲れてるから、頑張った日のご褒美とかに使ってほしいな」
「ありがとうー!」
私はそんな二人の会話を聞きながら一つ一つ匂いを確かめてみる。
一つだけ私の胸が締め付けられるような匂いがあった。これは遠藤さんからする匂いと同じ花の香りがする。遠藤さんはいつもラベンダーの香りがして、大人っぽくて落ち着けて癒される。
遠藤さんの匂いは好きだと思う。
別に今まで人の匂いを意識するほど嗅いだことは無いが、遠藤さんはいつも距離が近いから嫌でも鼻が覚えてしまう。
「星空、その匂いのバスボム気に入ってるね〜」
舞に何気なくそんなことを言われて、急いで袋の中にバスボムを隠した。遠藤さんに見られていなかったかと焦る。
「別に普通」
そう言ってこれ以上、話題を掘り返されるのが嫌だったので私も二人にプレゼントを渡した。
「星空のプレゼント一番楽しみだったかも」
「わかる……。けど、舞は楽しみにしないで」
「なんでよ。陽菜はすぐ星空のこと独り占めしようとする」
「うるさい」
二人がまたお得意の喧嘩を始めたが、私はなんで楽しみだったのか聞きたかった。二人の話す勢いが止まらないので聞けなかったが……。
理由を聞いても買ったものを今更変えられないので、諦めて二人の胸の辺りにグッとプレゼントを押し付けると、二人はいそいそとか袋を開けていた。
「か、かわいい――。星空がこんなプレゼントを選んでくれるなんて……」
ふざけた感じで舞が言っている。
遠藤さんはニヤニヤとプレゼントを見ていた。
「二人ともメイクするからメイクポーチいいかなって。大学生なるしね」
「滝沢っていつも思うけど、プレゼントのセンスいいよね」
遠藤さんが真面目なトーンで話しかけてくるから恥ずかしくなり、私の目は床以外見ることが出来なくなる。
「いつもって星空から他にもなにか貰ったことあるんですか」
舞が悪いノリの時に話すトーンで話している。
遠藤さんのばか――。
舞には遠藤さんの誕生日を祝ったことや去年もクリスマスプレゼントをあげていることを言っていない。
遠藤さんを睨むと、焦ったのか縮こまって舞に何とか言い訳をしていた。舞は変なところが鋭いから後で色々聞かれそうだと気が重くなる。
クリスマス会は楽しく終わり、私たちは家に帰ることになった。
「今日はありがとう! また来てねー!」
舞が手をブンブンと降っているので、遠慮気味に手を振り返す。
帰り道はもちろん遠藤さんと一緒だ。
「今日楽しかったね」
「うん」
「滝沢、ポーチありがと」
「うん」
「一生使うね」
「ばかじゃないの。壊れたら捨てなよ」
「やだよ。大切だもん」
遠藤さんが嬉しそうに微笑んでいた。遠藤さんならほんとに穴が空いても使っていそうだ。
「壊れたらまた買うから、捨てなよ」
「また買ってくれるの?」
壊れたら捨てて欲しいを伝えたかったつもりなのに、遠藤さんはいつもそうやって私の拾って欲しくないところを拾ってくる。
「うるさい」
そう言うと遠藤さんはしょんぼりとしょげていた。餌をもらえると思っていたのにもらえなくなった時の犬みたいな反応だ。
「滝沢って年末年始何してるの?」
「勉強」
「それ以外は?」
「なにもない。遠藤さんは?」
「私も勉強」
「おばあちゃんたちの家とかには帰らないの?」
「うん、私が居てもおばあちゃんとおじいちゃん気を使っちゃうかなと思って帰ってない」
「家に一人?」
私はかなりデリカシーのないことを聞いてしまって後悔した。
「うん……」
遠藤さんが明らかに悲しい顔をしていた。
しかし、すぐにいつもの作った笑顔を作って話を始める。
「今年は受験期だし、一人の方が集中できてちょうどいいなって!」
「その顔やめなよ」
私が持ち出した話のせいで遠藤さんが悲しくなり、無理やり笑顔を作った。私のせいなのに私の言葉はかなり冷たかったと思う。
「ごめん……」
謝って欲しいわけじゃないのに私の言葉が足りないせいで上手くいかない。そんな険悪の雰囲気のまま遠藤さんと別れを告げた。
次会うのは年明けだろう。
その時にまた普通の顔して会えるだろうか。
そんな思いのまま年越しを迎えた。
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