第55話 クリスマスは何も無い

 姉たちのせいで色々なことがあり、十一月の終わりは大変だった。あれ以降は特に大きな問題はなく十二月中旬になる。


 真夜姉から連絡があり、今週から家庭教師のバイトを開始することになった。


 相手は近くの中学校に通う、来年から高校一年生の今野美海こんのみうちゃんという子だ。

 受験期なのに塾にも行かず今までやってきたが、不安になって家庭教師をお願いしてみたいと依頼があったようだ。


 受けたい高校は私と同じ高校らしい。

 合格すれば晴れて春から私の後輩になるわけだ。


 回数は週二回で二時間程度。日数が多くないのでそんなにハードなバイトでなくてよかったと思う。



 

 姉たちと遠藤さんの家に泊まって以降、遠藤さんの様子がおかしい。


 気のせいかもしれないが避けられている気がする。


 あと一週間で舞と遠藤さんとクリスマスを過ごさなければいけないことを憂鬱に思う。

 舞がプレゼント交換をしようなんて言うからプレゼント選びに毎日悩んでいるのだ。



 最近、遠藤さんがそんな態度だから勉強会もしてない。別に会いたいわけじゃないけど、当たり前だったものが無くなるのは少し寂しい。



 そんなことを思いつつ廊下に出るとばったり遠藤さんに遭った。

 こっちから関わるなと言ったくせに声をかけたくなる。それをぐっと我慢して舞のいるところに向かった。


「クリスマスパーティー楽しみだね! 二人のクリスマスプレゼント決まったよ」


 舞はルンルンだが、私は楽しみでもないしプレゼントも決まっていないので複雑な気持ちになる。



「星空、楽しみじゃない?」


 舞が不安そうに私のことを覗き込む。伝わるはずのない私の考えが伝わってしまったのかと思い焦って舞の問いに答える。


「ううん。ただ、友達とクリスマスパーティーとか初めてでよく分からなくて」


「そーなの!」


 舞が目をキラキラ輝かせて

「大丈夫! 私と陽菜で最高のクリスマスパーティーにするから!」なんて言って意気込んでいる。



 何となくだけど、クリスマスパーティーの前に遠藤さんと一度だけ話したい。今のままでは気まずいまま、二十四日を迎えそうだからだ。


 しかし、今日は遠藤さんは部活だ。

 舞と同じ部活なので部活の日は把握している。


 そんなことで落ち込んでいると遠藤さんからちょうど連絡が来た。


「明日、勉強教えて貰える?」


 そう連絡が来たことがすごく嬉しかった。

 なんで嬉しいのか自分でも分からないが、やっと会えると思った。しかし、明日は家庭教師の初バイトの日だ。


 断りたくないが断るしかない。


「ごめん。明日は予定ある」

「なんの予定?」


 秒で返信が来る。


 そういえば遠藤さんには家庭教師のバイトの話をしていなかったと思いつつ、今度話せばいいかと思い、その質問は無視した。



 ***


 次の日、二人のクリスマスプレゼントを決めてから、家庭教師バイトの生徒の家に向かった。


 私の家から十分くらいの近い場所にバイト先の家があり、訪問する。


 今野美海ちゃんはかなりいい子だった。熱心に質問してくるし、私が教えたところで分からないところはすぐに聞いてくれる。だから私の勉強にもなる。


 美海ちゃんはもっと上の高校を狙えるくらい頭がいいと感じた。なのに、家から近い高校を選んだと話していた。

 私の高校に入るのが楽しみらしく、高校の話を少しするとすごい喜んでくれた。


 小動物キャラでみんなから愛されそうなタイプだ。表情はコロコロ変わりわかりやすいと思う。


「星空先生は学校楽しいですか?」


 一年生と二年生の途中までは死にたいと思ってた……なんて言えないが、今は楽しい。


 舞が私のことを楽しませてくれようとするし、それに最近どう答えればいいか分かってきた。だいぶ人との関わり方がマシになってきたと思う。

 そして、遠藤さんと関わるようになってからはなんか心がポカポカする。



「うん。すごく楽しい。だから、あと少し勉強一緒に頑張ろうね」

 そう言って勉強を再開し、約束の時間を難なく終えることが出来た。


 帰る時、「帰らないでよ先生」なんてかわいいことを言っていたので頭をポンポンとして美海ちゃんの家を出た。



 七時からのバイトなので時刻は九時を過ぎていた。


 十二月は寒い。かなり冷えて辺りは静まりかえっている。


 家に帰る途中、遠藤さんの家の近くを通り、横目に見ると家の電気が付いていなかった。


 もう寝たのだろうか?


 いや、遠藤さんはこんなに早く寝ないと思う。それならきっとどこかで遊んでいるかなにかしているのだろう。

 今日は部活が無いはずだ。


 それなら誰と……?


 そう考えていると後ろから声をかけられた。


「滝沢……?」


 それは聞き慣れた声だった。

 後ろを向くと顔を真っ青にして、すごく寒そうにした遠藤さんが居た。


「遠藤さんどうしたの?」

「私のことより滝沢こんな時間まで何してたの?」

「なんでもいいでしょ」


 そう言うと遠藤さんは何も言わずに自分の家に向かっていった。私の言い方も悪いかもしれないけど、いつもの遠藤さんらしくない。


 最近、薄々気がついていた。

 遠藤さんはきっと私ともう関わりたくないのだと思う。


 今日、会ってよく分かった。


 遠藤さんは私と会っても目を合わせてくれなくなった。また、前のように作った顔で私に接してくる。


 だから嫌なんだ。


 思い出を作るのも楽しいことをするのも。


 クリスマスプレゼントを買ったことを後悔する。


 溜息をつきたくなった。



 ***



 クリスマスパーティー当日に舞から予想通りの言葉が告げられる。


「陽菜クリスマスパーティー来れないって。二人で一緒にクリスマスパーティーする?」


 やっぱりだ……。

 舞と二人も楽しいが、やっぱり記憶に残ることをするのは嫌だ。イベントは嫌いだ。


「皆でできる時にまたしよう。明日、舞に渡すはずだったクリスマスプレゼント持ってくるね」

 空元気で舞に告げる。


「じゃあ、私も持ってくるね! でも、陽菜、気の毒だよね。こんないいタイミングで風邪引いちゃうんだもん」


 えっ……?


「最近ずっと具合悪そうだなと思ったらそういうことだったのかと思ったぁ」


 そういうと舞はすぐに違う話題に切り替えていた。


 最近、会ってくれなかったのはそういう事なのか、違う理由なのか。昨日もすぐに家に入ろうとしたのは具合いが悪かったからなのか。


 いや、自分に都合のいいように考えるのは辞めよう。


 クリスマスに風邪を引いてしまう遠藤さんはバカだと思う。バカは風邪を引かないというがあれは嘘だと今日、実証された。



 そうして、私の今年のクリスマスは何も無く過ぎるのであった……?

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