第54話 真夜と光莉
「いやぁ、陽菜ちゃんの家楽しかったね!」
「二人はめっちゃ迷惑してたけどね」
帰りの新幹線で光莉とそんなことを話す。妹の星空だけではなく、全然関係のない陽菜ちゃんを巻き込んでしまい申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「今度お礼しないとね」
「そうだね」
「真夜が好きだった人って妹ちゃんでしょ?」
驚いた顔で光莉のことを見るとやっぱりって顔をして笑っていた。
「なんでそう思ったの?」
「今までの話聞いてたのと、星空ちゃんばっかり見てるから真夜わかりやすいなって」
光莉は変なところが鋭い。確かにバレてしまうくらい見ていたのかもしれないがそんなに簡単にわかるものなのだろうか。
ここまで来たら、隠しても無駄だと思い答える。
「うん。そうだよ。でも、今は恋愛感情はないかな。幸せになって欲しいと思うくらい」
「じゃあ、真夜の昨日の夜に話してた敵わない人って誰?」
「昨日、星空の一番近くに居たじゃん」
「陽菜ちゃん?」
「そうなるね」
「ふーん」
自分で聞いてきたくせに興味が無さそうだ。光莉がなんでそんな質問してきたのかは謎だが、私は話を続けた。
「星空とはずっと疎遠でね。もう仲良くなることは無理だと思ってた。でも、何年も疎遠だった星空から数ヶ月前に話しかけられたんだ。絶対に私なんかと話したくないだろうし、自分を変えることなんてそう簡単じゃないのに……」
私は自分で話していて、少しだけ胸が苦しくなったので息を吸って大きく吐く。その様子を見て心配になったのか光莉が手を優しく握ってくれた。
「ありがとう、光莉。それでね、陽菜ちゃんと関わるようになってから星空はどんどん変わったんだと思う。そして、私も陽菜ちゃんがきっかけで変わろうと思った」
陽菜ちゃんと話した日、私は彼女にもっと自分を大切にしろと怒られた。
妹と同じ歳の子に気が付かされるなんて、私もまだまだだなぁと感じた。
「じゃあ、陽菜ちゃんに感謝しないとね」
「そうだね」
「ちなみに、私は真夜の方が素敵な人だと思うよ」
光莉は私の手を離さない。
いつもならいつものことだと流せるけど、昨日の夜のことと朝のことのせいで、意識せずにはいられない。
「私にしときなよ。私なら真夜のこと幸せにできるよ」
「そうかもね。でも、子供ぽい人には興味無いの」
冗談でそんなこと言ってみたら思いのほか光莉が怒りっぽく食いついてきた。
「これから美人になる。料理も覚えて、家事もするし、資格もとって働いて大人になる」
光莉は小さなほっぺを膨らましながらそう言って反対側を向いてしまった。
「楽しみにしてるね」
そういって私は光莉の手を握り返した。
私はきっともう光莉に惹かれている。
彼女は出会った時から遠慮という言葉を知らず、私の心にズカズカと入ってきた。
一緒に暮らして、初めて心の内を全てぶつけられる人に出会えた。
星空に対しても遠慮はしていなかったが、姉なんだからしっかりしなきゃとかどこか無意識に心の全ては見せれていなかったのだろう。
今、光莉に対して持っているこの思いを言ってしまったら、光莉が調子に乗る姿が想像出来て、少し悔しいのでしばらく黙っておくことにした。
「これからも一緒に暮らしていい? お金のこととか何とかするし、家事だって私の方が多く色々するから」
捨てられないか心配そうな子犬を見ている気分だ。
お金なんていらないし、家事をしなくたって光莉と一緒に居れればいいなんて思っている私はもうおかしくなっているのかもしれない。
「光莉は心のお医者さん、私は身体のお医者さんになって多くの人を助けようね」
そういって、さっきまで膨らんでいた彼女のほっぺにキスを落とす。
その部分を触ってぽかんとしている光莉がかわいかったのでつい笑ってしまった。
今日は空が綺麗だ。
こんななんでもない日常がこれからも続きますように。
そう、空に願うのであった。
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