第53話 きれいなお姉さん
大抵の事は何とか乗り切れると思ってた。
明るく楽しく元気に振る舞い、周りに影響を及ぼすくらい私が頑張ればいいのだ。
しかし、人生はそう簡単にはいかないらしい。
小学生の頃も中学生の頃も男子からも女子からも好かれる人間だった。
しかし、それを妬みいじめてくる人も居る。
そんなの気にしなければよかった。
ただ、家族をバカにされるのは許せなかった。
私は中学生三年生の頃、かなり酷いいじめにあっていたと思う。
ただ明るくてクラスの人気者で男子からは告白なんかもされたけど、みんなのことが大好きだから、誰か一人を好きになって特別扱いするとかは考えられなかった。
それを気に入らなかった人達から虐められるようになった。最初は机に悪口書かれたり、上靴がゴミに捨てられてたりとそんなかわいいいじめだった。
そのくらいなら笑顔で笑い飛ばせる。
ただ、私の態度がいじめる人たちの気持ちを加速させたのか、私の家の扉に貧乏だの親が体を売ってるだの悪口を書かれたり、父と母が頑張って働いてくれて買ってくれたバックが壊されていたりした時に心がポキッと折れてしまった。
父と母は気にしない大丈夫だと言ってくれたが、私は許せなかった。
私が明るいのがいけなかったんだと反省し、塞ぎ込むようになった。
高校生は息を潜めるように暮らし、誰も私の事なんて知らないくらい影の薄い人間になっていたと思う。
たぶん、その時心に大きな病を抱え、人と話すことすらままならなくなった。
人に話しかけられれば怯えていたし、何をするにも後悔や心配がまとわりついて、他のことに手がつかなくなっていた。
母は私を心配してカウンセリングを受けさせてくれた。お金が無いからそんなことしなくていいのに私を気遣ってくれたのだ。私に前のように戻って欲しいと願っていた。
そんなのは意味が無いと思っていたが、カウンセリングを受けるうちに自分の気持ちはどんどん変化した。
私のせいで家族を傷つけたと思い込んでいた。私が明るく楽しく過ごしていたのが悪いのだと心に留めて反省して生きていた。
しかし、それは違うとカウンセリングの先生が時間をかけて私に教えてくれた。
私は私のままでいいし、そのありのままの自分を受け入れてくれる人を見つければいい。
たったそれだけの事が世の中では上手くいかなくて難しいことで大変な事だとも教えてくれた。
ただ、少なくとも先生はその1人だと私のそばにずっと居てくれた。
その時の私の心のよりどころは先生だった。
たった一人そういう人がいるだけで人間はこんなにも強くなれるし変われるのだと学んだのだ。
私もそんな人間になりたい。
自分らしく生きて、そして誰かの支えになれる人間に。
一人でも多くの心の支えになれる仕事をしたいと思い、親の反対も押し切り大学に入学した。
「入学したはいいものの、お金とか生活費がなぁ」
それ以降は優しい人たちの家を転々とした。優しいというか私の体目的みたいな人の家に泊まってしまい、危なくなりそうなところを命からがら逃げてきたこともあった。
大学で出来た友達にも泊めてもらうことをお願いしたりしたが、さすがに長居し過ぎると出ていって欲しいと言われる。
当たり前だ。
何も考えず出てきた私が悪いのだ。
次の宿を探すのはまた大変そうだ。
いっその事、恋人を作ればいいのかもしれないけど、私にそういうのは向いていないと思う。
誰か一人を愛している自分が想像できない。
私は私のことが一番好きだし、仲のいい人は皆同じくらい好きだ。
我ながら壮絶な人生だと思う。
勇気をだして夏休みに地元に帰ると、父と母はあんなに反対していたのに私をすんなりと受け入れてくれた。
お金は出せないけど、やりたいことを頑張って欲しいと。親の協力もあり二年生からは奨学金も受けれそうだ。
もっと早く真剣に相談すれば良かったのかもしれない。
やっぱり家族はどんな事があっても家族で、心の支え所なんだろう。
実家からまた大学に戻る道中、たまたま隣の席に座った人がちょー絶美人のお姉さんだった。
黒髪のショートウルフカットがよく似合い、一人だけ異様な空気を出している。
お姉さんが東京とか言うから宿貸してくれないかなーとかそんなノリで話しかけたら、こんな怪しい私のことをすんなり受け入れてくれた。
新幹線で色々話を聞いたけど、私とは正反対の人だと思った。
自分のことを愛せず、他の人を愛そうとする。
自分に自信がないのに、他人の幸せを願う。
そんなのは無理に決まっている。
自分を大切にする方法も分からない人が他人を大切にする方法なんてわかるわけがないのだ。
ただ、心優しい人なんだろう。
そうして、そんなきれいなお姉さんとの同棲が始まった。どうせ一週間もせずに出ていけとか言われるのかと思ったけど、ひと月住んでても何も文句は言われなかった。
真夜は最初は自分の気持ちを隠す人間だったが、一緒に住むうちにその本性を表し、本当はクソ性格の悪い人間なんだと知った。
でも、真夜がそうやって心を許してくれるから私も本心でぶつかれる。
一緒に生活して、一緒に家事をして、一緒に出かけて、一緒に寝て。
そんなことができる人は今まで家族以外に居なかったけど、真夜とは最初から家族だったみたいに上手く生活ができた。
それは真夜が合わせてくれてるからかもしれないし、たまたまかもしれない。
ただ、一つ言えることがある。
私は心から真夜を幸せにしたいと思った。
今までの境遇、家庭のこと、真夜のことを知って同情したわけじゃない。
真夜という人間を知って、彼女を心から理解し、彼女に心から私のことを理解されたいと思った。
それはつまり、真夜の特別になりたいということだ。
この気持ちには蓋をしておこうと思う。
きっと言ってしまったら、今の生活が終わってしまうから……。
***
「ひかりー、起きて朝だよ」
目を開けると真夜が居る。
真夜のことをぎゅっと抱きしめる。
「ほら、早く起きないと間に合わないよ?」
「——うん」
これから先ずっとこの生活が続けばいいと強く願った。
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