第45話 冬が訪れる ⑴
自らが発光している。ホタルかなんかかと思うくらいギラギラしていた。
「お姉ちゃん何この生きる蛍光灯みたいな人」
「失礼だぞ星空ちゃん!」
光莉さんはとても楽しそうに答えている。
それに対して、姉は頭を抱えていた。
真夜姉は頭から手を離して、冷静な漢字で話し始める。
時は夏休みの帰りにさかのぼる。
***
「お姉さんも東京ですか?」
「——はい」
話しかけてきた女の子は目をキラキラと輝かせている。見た目は大人っぽい服装だが、顔が子供っぽくて人目では年齢がよく分からなかった。
「今日泊まるところないんです。お姉さんの家に泊めて下さい!」
その少女はとびきりの笑顔で訳の分からないことを言い始めた。何を考えてそんな変なことをこんな公共の施設で大きい声で目立つように話すのだろう。
きらきらとしている彼女とは反対に私は淡々と答える。
「いやなんで?」
「お願いします!」
深々とお辞儀をされて目立っているので
「わかったから静かに座って」と忠告する。
「ありがとうございます! 私、阿部光莉っていいます! よろしくお願いします!」
という流れで私はこの子を一人暮らしをしている家まで連れていくことになった。
新幹線に乗っている間、色々な話をした。
光莉には色々と不思議な力があるというか、聞き方が上手いのか家の状況だったり、今の状況、妹の星空との関係、陽菜ちゃんに言われて気持ちが変わりつつあることまで全て話してしまった。
「じゃあ、私と夜逃げします? 私、真夜さんに一目惚れしちゃいました」
てへ、なんて言うノリで話してくるので、真に受けないように彼女の言葉を軽く受け流す。
光莉はふざける時はふざけるが、真面目な時は年相応な感じで話し始めるからギャップについていけないことがよくあった。
私も彼女についていろいろと聞いてみるともっと厄介な事実が判明した。
光莉は両親と絶縁中らしい。
家出をしているようだ。
家出美少女——。
厄介なのがただの家出ではないということだ。家が貧乏だから、大学の学費は出せないと言われて喧嘩をして家を飛び出したらしい。
彼女はどうしても心理士になりたいし、臨床心理士の資格が欲しいと言っていた。臨床心理士になるには大学四年間と大学院二年間、計六年は絶対に大学に行かなければいけない。
親に負担をかけたくないことや親が反対したことが原因で、一人で生きていくと家を出たとのことだ。
親に秘密で高校生の頃からアルバイトとかもして、お金は貯めていたそうだが、家なんかは決まっていないし、高校の頃に貯めたお金だって無限なわけじゃない。
そこで、私の家に住むことになった。
なかなか酷いことに巻き込まれたと感じている。
ただ、私とは正反対で親とか周りの状況に関係なく自分の道を突き進む光莉を羨ましいと思うし、尊敬している。私が今の状況を変えれるかもと思い始めたのは、光莉のおかげでもあるのだ。
***
姉が淡々とこれまでの経緯を話してくれた。
「それで、生活費は全部、真夜姉が出してるの?」
「そういうことになるね」
「真夜姉、ヒモだけには捕まらないで欲しかった」
「誰がヒモじゃあ! 家賃以外、出せる時は半分出してるわ!」
「家賃の分はどうしてるの?」
「か、からだで払ってる……」
光莉さんは自分の体を抱きしめて真夜姉の方を見ている。その行動に私も姉のことを
「なわけないでしょ。働いてからしっかり返してもらうよ」
「はい! そのつもりです! なんなら、来週からバイト始めるのでそのお金で頑張ります!」
全力で働くと言っているし、ただのヒモを家に置くほど姉も馬鹿ではないと思っているので、私がどうこう口出ししなくてもいいかと思い他に気になることを質問してみた。
「夏になるまではどうやって大学行ってたんですか?」
「泊めてくれそうな人のところに泊まって転々としてたよ。大体嫌がられて、行き場をなくしてたんです。そんな時に真夜さんが拾ってくれたんです」
そりゃそうだ。
ただで家に何日も居ていいなんてよっぽどのお人好しじゃない限り無理だ。そんなの許してくれるのは、真夜姉くらいお世話が好きな人だと思う。
「金魚のふんみたいに勝手について来たんでしょ」
「ふん扱いはなくない!?」
私が見てもわかるくらい仲が良さそうで何よりだ。思ったよりも真夜姉との相性が良さそうでほっとしてしまう。
「あっちの家に光莉を一人で置いとくと心配だからさ……」
真夜姉のその言葉に私は呆れてしまった。
姉は確かになんでも出来るが、それは光莉さんの面倒を全て見るという理由にはならない。家事までやっているのだろうか。あまりにも光莉さんに対して過保護すぎないかと思う。
「光莉さん、家事くらいはしてくださいよ。姉をあんまり困らせないでください」
ちょっとだけ真夜姉に同情してしまう。ほんとにどこまでも面倒見がいいのは昔から変わっていないようだ。
「いや、料理以外はできるんだよ? ただ、料理させたら、この前自分の指切ったからそれから心配で……」
真夜姉が心配そうに光莉さんを見つめていた。
うん。光莉さんの生活面は私とそっくりだ。
だから、真夜姉は光莉さんに甘いのかもしれない。それにしたって甘すぎる。
「連れてきたけどうるさくて親にバレないか心配だよ。昨日バレかけたし。そこで星空にお願いがあるんだよ……。今日、明日さ光莉のこと家に泊めてもらえないか、陽菜ちやんに聞いてもらえる? 無理なら他探すからお願い!」
真夜姉に頭を下げてお願いされた。
いや、遠藤さんの都合もあるだろうし、遠藤さんの家はそういうためにあるものじゃない。
「さっき話してた大学の話も何とかするように動くからさ。こいつの存在がバレるとその話も進めにくくなるし……」
私は遠藤さんに聞く前に断ろうとしたが、姉がほんとに困った顔をしてお願いしてくるので断るに断れなくなってしまう。
はぁ……なんでこいつも事件に巻き込まれるのだろう。
遠藤さんにメッセージで連絡してもいいが状況がややこしいので、電話をかけた。遠藤さんに電話をかけるのは初めてのせいもあって少しだけ変な緊張をしてしまう。
三コールくらいですぐに遠藤さんは出てくれた。
「——滝沢? どうしたの? なんかあった?」
かくかくしかじかと説明をするとすんなりOKしてくれた。
「遠藤さん大丈夫だって」
「よかったぁ」
「お世話になります遠藤ちゃん!」
遠藤さんにはできれば断って欲しかった。
というか、遠藤さんと光莉さん二人であの家に泊まるのか?
光莉さんは人と仲良くなるのが上手だ。二人が仲良くなって楽しく話しているのが容易に想像出来る。
それはなんか…………いやだ。
結局、光莉さんを連れて私も寝巻きを持って遠藤さんの家に向かうことにした。
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