第40話 お泊まり ⑵
「遠藤さん……」
滝沢が私を見つめて唇を重ねる。私は目をつぶってそれを受け入れる。
触れている部分が熱を帯びている。
滝沢のあたたかいものが私の唇と歯の間を通って口の中に入る。滝沢の熱く柔らかいそれは元から私の口の中にあったかのように私の中に溶け込んで馴染んでいる。
ずっとこのまま時が止まればいいのに――。
キスに集中していると私の服が上にまくられてお腹の辺りを触られる。滝沢に触られたところがどんどん熱くなる。
その手はどんどん上の方を撫でてくる。
「星空……」
そう名前を呼んだら滝沢は微笑んでくれた。
「陽菜……」
滝沢にずっと呼んで欲しい名前が呼ばれて、また唇を塞がれる。その行動に胸がぎゅっと締め付けられる。
上の方に来た滝沢の手は私の感じやすいところを撫でている。
「滝沢……それ以上は…………」
日差しが顔に差し込んできた。
重たい目を開ける。
顔の近くに紺色の柔らかいものがある。
我ながら恥ずかしい夢を見て顔が熱い。
私は滝沢とそういうことがしたいのだろうか。昨日のことも思い出し、余計恥ずかしくなってしまう。
昨日、滝沢にあやされて寝た。
雷は嫌いだ。音が大きくて不安になる。
自分のところに落ちてくるんじゃないかと。
ただ、いつも一人だったのに昨日は滝沢が隣に居てくれた。居てくれるだけでもありがたいのに、隣で寝てくれて、背中をさすってくれた。
小さい頃、雷が怖くて寝れない時、お母さんに頭を撫でてもらいながら寝て以来、そんなことは誰にもされたことがない。
滝沢はいつも私が困っている時に助けてくれる。私にとってのヒーローで、きらきらしていて、学校で見かけるとつい目で追ってしまうくらい眩しい存在だ。
目の前にいる滝沢を見ていると昨日のことをまた思い出してしまった。
昨日はただ一緒に寝ただけじゃない。
その前になぜか滝沢にキスされた。しかも、いつもとは違うその行動に私は困惑して今も悩まされている。
なんであんなことをしたの? と聞いても滝沢は答えてくれないだろう。滝沢が私にするキスは興味とかそういうものの延長だと思っている。
しかし、昨日のようなキスは……。
考えるのをやめとこう。
今はこの状況をどうするかだ。
目の前にあるそう大きくはない胸を触りたいが、多分触ったら一生口を聞いてもらえなくなる気がする。というか、私も私でなんで触りたいのだろう。
そう考えていると、滝沢がモゾモゾと動き出した。滝沢の方を見ると、半目になったまま「遠藤さん、おはよぉ」と言われる。
ただ、挨拶をされただけなのに心臓がうるさくなる。
「滝沢、おはよう」
そう言って滝沢の方に身を寄せて滝沢を抱きしめた。
毎日、滝沢におはようと言いたい。
滝沢は好きな人はいないと言っていたが、いつかは好きな人ができるのだろうか。その時まで私は滝沢の隣にいれるのだろうか。
無意識に彼女を抱きしめる腕に力が入る。
「遠藤さん苦しい……もう雷鳴ってないよ」
滝沢が不機嫌そうにそう言って布団から出ようとした。
「もう少しだけこのままがいい……」
昨日から滝沢が優しいからそれに甘えたくなっていた。
「はぁ……少しだけね」
そう言って滝沢は布団にそのまま居てくれる。
「滝沢のこと
滝沢のことをそう呼びたい。もっと仲良くなりたい。そして私も名前で呼んで欲しい。
夢の中の時のように……。
「別に今のままでも困らないでしょ」
呆れた顔でそう告げられる。
確かにその通りだ。でも、少しくらい私のわがままを聞いてくれてもいいと思う。
ムッとした顔をしているとまたキスされる。
なんでキスするの……?
そう聞きたいが聞いたら滝沢が不機嫌になりそうだ。結局、私は何も聞けず滝沢のことは何も分からない。
「朝ごはん作るけど食べたいのとかある?」
「ない」
「そっかぁ、私、毎朝散歩してるんだけど一緒に来ない?」
「やだ」
滝沢はインドアな感じだからそういうのは嫌いそうだ。無理に誘っても来てくれないと思うので諦めて一人で外に行くことにした。
「わかった。散歩ついでに朝ごはんの材料買ってくるから、布団で待ってて?」
そう言って、布団を出ようとすると腕を掴まれる。
「やっぱり行く」
どういう心境の変化だろう。
私たちはパジャマからジャージに着替えて外に出た。
起きるのが早かったので、夏ではあるがまだ涼しい時間帯だ。少し冷たい風が心地いい。
滝沢といても基本、無言が多い。
別にそれが気まずいわけではないが、滝沢と話したいことが沢山ある。
「明日からさ、一週間夏合宿で滝沢に会えないのがちょっと寂しい」
「そうなんだ」
どんな言葉を投げかけても滝沢の回答は淡々としている。しかし、そんな会話すらも私にとっては楽しい時間だったりする。
「滝沢はこの夏休みの思い出とかある?」
「遠藤さんを家まで運んで疲れたことかな」
「ごめん……頑張って五キロくらいは落とします」
滝沢に比べたら確かに私は重い。太っているとは思っていないが一応運動もしているので筋肉とかいろいろあるのだよ……と心の中で訴えておいた。
「遠藤さんはそのままでいい」
「いやだって、遠回しに重いって言ったの滝沢じゃん」
「それも、遠藤さんだから……」
滝沢が珍しく訳の分からないことを言っている。気まずい雰囲気になってしまったので会話を変えることにした。
「朝ごはんトーストにベーコンと目玉焼き乗せてベーコンエッグにしようとしてるんだけどいい?」
「なんでもいい」
今日の滝沢は、いや、いつも彼女は会話をする気が全然なさそうだ。なんで着いてくると言ったんだろう。
こんなの楽しいだろうか。
色々と疑問点はあるが、話すことを諦めて少し滝沢に身を寄せて歩く。
「遠藤さん夏だから暑い」
「じゃあ、冬ならいいの?」
「そういう事じゃない……」
滝沢の回答は夏でも冬並みに冷たかった。
冬は嫌いだ。
寒いし、家に帰ると冷えきった家を一から温めなければいけない。今年の冬は滝沢と一緒に過ごせたりするだろうか。
――滝沢と一緒に過ごしたい。
滝沢に文句を言われないくらいの距離で横に並んでそんなことを願った。
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