第39話 お泊まり ⑴
片付けが終わるとお風呂に入っていいと言われたので、お風呂に入って自分の持ってきたパジャマを着る。別に大して可愛くない紺のセットアップのパジャマだ。
暑いので一番上のボタンを開けて服をパタパタとして風を送ってぼーっとしてたら、遠藤さんもお風呂から上がってきた。
遠藤さんは薄ピンクの無地のセットアップのパジャマを着ていて、ボタンを上まで締めているからとても暑そうだった。
遠藤さんの部屋に行くと遠藤さんがゲームでも恋バナでもなんでもいいから、何かしようと言ってくる。
私は特にしたいことがないのでなんでもいいと答えたら、遠藤さんが勉強を教えて欲しいと言ってきた。
こんな時まで、勉強がしたいなんて真面目なのか、私に合わせてくれているのか分からないけど、遠藤さんは勉強するというとしっかりと集中してくれる。
二時間くらい勉強し、時計は十一時を指していた。
「今日の勉強おしまい! 今日は何をすればいい?」
遠藤さんが嬉しそうな顔で言ってくる。
私が嫌なことをするとわかっているのになんでこんなに嬉しそうなのだろう。遠藤さんってやっぱりただの変態なんじゃないかと思わされる時がある。
最近、遠藤さんの表情が豊かになってきて、自然な表情が増えてきたと思う。遠藤さんの作り笑顔を壊したいという私の目的は達成され始めている。
あまり私のしたいことはもうない。
別に何もいらない。
何かを与えられなくても遠藤さんになら勉強を教えるけど、それではダメだと遠藤さんは言う。
何かできることはしたいと。
何故そこまで私に何かをしたいと思うのかわからない。そんなことを考えていると、外でドカンと大きな音が鳴った。
雷だ。
今日は雷予報も出ていた。
いつか収まるだろうと思い遠藤さんを見ると、私よりも大きい体がぶるぶると震えている。
「遠藤さんってもしかして雷とか怖いタイプ?」
「怖くない……」
何をするにも完璧な遠藤さんにそんな弱点があったなんて意外だった。
かなりの頻度で雷の音が聞こえる。
その度に顔色を変えて耳を塞ぐ遠藤さんがいた。
今まで雷なんて何回もあったのにその度に一人でこうやって震えていたのだろうか。
遠藤さんの部屋のベットの横に私の布団が引かれていた。
もう寝る時間だ。
「もう寝よう。勉強の対価は今日いらないから」
そう答えると、遠藤さんは無言で電気を消してベットに入った。私も敷かれた布団に体を入れる。
雨は降っているが夏なので冷房がついていてそれが心地よくてすぐ寝れそうだったが、隣を見るとそうもいかない。布団にくるまって大きい塊が暗闇でもわかるくらいぶるぶる震えている。
私も素直じゃないが遠藤さんもかなり素直じゃないと思う。
怖いのなら怖いと言えばいい。
そしたら私にだって何かできることがあるかもしれないのに……。
「遠藤さん、まださっきの勉強のお礼してもらってない」
「えっ……さっきいらないって」
ドン!
また雷が落ちたようだ。
遠藤さんは布団にくるまってこっちを見なくなってしまう。私はその布団を剥がして遠藤さんを見つめた。
「今からすることに口答えしない。それが今日の分」
私はそう広くない遠藤さんのベットに身を忍ばせ、遠藤さんと向かい合わせに横になる。
暗いのに目がだいぶ慣れてきたから顔が見えて、遠藤さんの目はうるうるしていた。
正直、そこまで雷がダメなのかとびっくりだ。
遠藤さんがその顔を見られたくないといわんばかりに反対側を向こうとしたので、その前に遠藤さんの体を自分の体の方に抱き寄せた。
背中をさすると少しだけ体の震えが止まった気がする。良かったと思うと同時に自分の今の行動がかなり恥ずかしいことだと気づき、手が止まる。
遠藤さんの体と触れている部分が熱い。
パジャマが薄いから遠藤さんの肌がじかに触れてるみたいで変な気分になる。手が止まっていたからか遠藤さんが顔を上げて見つめてきた。
「滝沢……?」
さっきよりはましだが、やはりどこか不安そうだ。遠藤さんと目が合うとなぜか余計に恥ずかしくなってしまい口を動かして誤魔化すことにした。
「恥ずかしいからこっち見ないで」
「やだ」
遠藤さんがそんなことを言うなんて珍しい。やだというなら、見えないようにすればいいのだ。
遠藤さんに顔を近づけて、顔の中で一番柔らかい部分に自分の唇を当てる。遠藤さんは少しびっくりしていたが、すぐに大人しく目をつぶった。
従順だと思う。
怖いくらいに。
私の言うことなんて聞かなくていいのに、遠藤さんはいつも言うことを聞く。なんで言うこと聞いてくれるのだろう。
どこまで遠藤さんは私のことを許してくれるのか?
どこからが私のことを嫌になるのか……。
遠藤さんの閉じている口を舌でこじ開けた。自分の舌が遠藤さんの柔らかくて熱いところに当たる。私に答えてくれるように遠藤さんは私のを優しく押し返し、私たちの熱が交わる。
呼吸の仕方がよくわからない。
けれど、遠藤さんのそれが心地よくてやめられなかった。
どのくらい経ったか分からないけど、遠藤さんに肩を押されてしまう。
遠藤さんは苦しそうに息を吐いていて、呼吸を整えようとしている。暗い中でも分かるくらい遠藤さんの頬から耳まで真っ赤だった。
「滝沢のばか」
それだけ言って遠藤さんは私の胸にうずくまってしまった。 なんでこんなことを遠藤さんにしたのか自分でもわからない。
わからないけど、彼女の気持ちが少しでも落ち着いたのなら良かったな、なんて思いつつ遠藤さんの頭を撫でる。
さっきまで怖がっていたのが、少しかわいくて無意識に体が動いていた。
いつの間にか雷は止んでいて、遠藤さんの寝息が聞こえてくる。怖いのは落ち着いて寝れたのならよかったと私の気持ちも少しずつ落ち着いていた。
安心すると私にも急に睡魔が襲ってきて視界が暗くなった。
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