第34話 真夜さんと私 ⑴
夏祭りの次の日、私は布団の中で悩んでいた。
今日は部活も何も無い日なので、普通なら勉強をするために図書館に行くのだが、足が重い。
滝沢に会いたいけど会いたくない。
「はぁ……」
散々はしゃいで迷惑をかけて、平気な顔で会えと言われても無理がある。申し訳なさと滝沢に対する気持ちのモヤモヤが入り乱れ布団から出れなくなっていた。
ダイエットを決意した。
昨日、明らかに滝沢は辛そうだった。
むしろ、いつものテンションで重いくらい言って欲しかった。
わがままだが、優しくして欲しくなかった。
あのまま滝沢が帰っててくれたら、今もこんなにグルグルと悩むこともない。
滝沢に対するこの気持ちは明らかに友達に感じるものとは違う。
「はぁ……悩んでても仕方ないから、図書館で勉強しよう」
滝沢はいつも図書館の四隅のどこかのテーブルに座っている。彼女の姿を探すが今日はどこにもいなかった。
滝沢が勉強していないことなんて珍しいと、ソワソワしながら隅に座る。
午後になっても滝沢は来なかった。
今日は舞と遊んでいたりするのだろうか。
そうだったらなんか嫌だな……。
そんなことを考えいると、私が今一番会いたくないであろう人が目の前に現れる。
「陽菜ちゃんお久しぶり」
年上のきれいなお姉さんが私の隣に座った。
「どうも」
早くいなくなって欲しいので、素っ気なく挨拶をする。
「ひどいなぁ。一緒に勉強した仲じゃないかい」
「私はあの日、滝沢と勉強したんです」
「そうかそうか」
両手を上げて噛みつかないでよ、みたいなジェスチャーをしてくるので余計イラついてしまう。
「星空、今家で寝込んでるんだよね」
「えっ?」
滝沢のお姉ちゃんはニコニコしていた。
滝沢が苦しいかもしれないのになんでそんな笑っていられるのか。
いや……これはただの八つ当たりだ。
原因は確実に私だ。
滝沢の家に入れてもらえるか分からないけど滝沢のお姉さんにお願いすれば会えるかもしれない。
「真夜さん、滝沢のお見舞いに行きたいんですけどダメですか……?」
滝沢のお姉ちゃんは何を考えているか分からない。たぶん、私が家に来るように誘導している気がする。滝沢のお姉ちゃんの思うつぼになるのは嫌だが、滝沢に対する心配の方が勝っていた。
「んーいいけど、私の質問三つ正直に答えてくれたらいいよ」
真夜さんはとても楽しそうだ。嫌な質問をされるのは目に見えているが仕方ないので答えることにした。
「それなら家に向かいながら話しましょう」
私は急いで支度をして図書館を出るなり真夜さんの質問は直ぐに始まった。
「陽菜ちゃんは星空のことどう思ってるの? 普通の友達には見えないけど」
ニコニコとした笑顔の奥には、腹黒さが隠れていると思う。
こういうタイプの人は苦手だ。何が目的なのか分からない。分からないことに対して人間は恐怖を覚えるのだ。正直、この人の質問に答えるのは怖いが、約束は約束なので正直に答えた。
「滝沢には詳しくは話したことありませんが、滝沢は私の命の恩人です。だから、お礼がしたくて自分から関わるようになりました。彼女にはただお礼がしたいだけです」
そうだ。私は滝沢に感謝している。
だから、色々と理由をこじつけて彼女に近づいた。
「質問の答えにはなっていないけどまあいいや。じゃあ二つ目、陽菜ちゃんは星空のこと恋愛的に好きなの?」
「……」
答えられない。
答えられるわけがない。
人を恋愛的に好きになったことなんてない。
だから、恋愛的な好きとかは分からない。
滝沢には感謝しているし、友達になりたい、仲良くなりたいと思った。
いつも助けられてばかりなので恩返しがしたい。
それだけだと思っていた。
ただ、花火大会の後、私が滝沢に対してとった行動は明らかに友達に対するものではない。
大きくため息をつきたくなってしまう。
真夜さんの目的が全く分からない。しばらく沈黙していると真夜さんの方が口を開いた。
「じゃあ、聞き方を変えようか。星空とセックスできる? 性的な目で星空のことを見たことはあるのかな?」
すごいことを聞いているのに、相変わらず表情の変わらない彼女はすごいと思う。
滝沢のことそんなふうに見ていない。
そもそも見てはいけない。
仲良くなりたいなら尚更そうだ。
……ほんとに?
ほんとにそうなのか……?
私は滝沢の下着姿や裸を見てもなんとも思わないのか……?
「一体何が目的ですか……?」
「ただの興味だよ。私は星空に対して恋愛的な好きに近い感情を持っているよ」
えっ……どういうこと……?
次から次へと訳の分からない話をされて、頭の整理が追いつかない。
「だから、陽菜ちゃんみたいに曖昧な子が近くにいるのは嫌だし、あんまり居て欲しくないと思うよ。星空は優しいから陽菜ちゃんみたいな子をほっとけないのかもしれないけど」
真夜さんが真剣な顔で見てきた。
真夜さんの真剣な顔は初めて見たと思う。
いつも何を考えているのか分からない人だが、その真剣な顔から今言ったことが本気だということは分かる。
「だって……あなたは滝沢のお姉さんじゃないですか……」
「じゃあ、最後の質問。私と星空は姉妹に見える?」
真夜さんが何を言っているのか分からない。
いや、分かりたくないのだと思う。
「見えます。少なくとも滝沢はあなたのことお姉さんだと思っていると思います」
「残念ながらそうなんだよね」
遠いところを見ているその顔から、笑みは消えた。
「少しだけ、私たちの家族と私の話を教えてあげるよ」
「そんなの聞かなくていいです。早く滝沢のところに行きたいので」
人には勝手に知られたくないことだってある。
こんなの滝沢が可哀想だ。
勝手に知られたくないことを話されて私に気を使われて。
私なら絶対に嫌だ。
「今、星空は寝てるから起きるまでの暇つぶしだよ」
そういって、真夜さんは私たちの思い出の公園に立ち寄った。
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