第28話 かわいい妹

 私の妹は世界一かわいい。


 真夜姉ちゃん、真夜姉ちゃんと呼んで後ろを必死に着いてくる。


 私のことを誰よりも慕っていて、私のことを大好きでいてくれた。


 そんな妹と疎遠になったのはいつからだろう。


 家族の関係に大きな溝ができたのはいつからだろう。





 私は物心つく頃から家のことを理解していたと思う。


 だから、上手く立ち回ろうとした。

 しかし、結果は悪い方向ばかりに行った。

 自分の過去の行動を悔やんでも悔やみきれない。


 

 滝沢真夜たきさわまよは人より少し優れた人間だったらしい。


 勉強は先生の話を聞いていれば理解できるし、運動神経も悪くない、手先が器用で芸術関係の才能にも溢れていた。

 特に作ることが好きで刺繍が一番得意だ。


 人の感情の変化に敏感で、人との関わり方も上手で、上手くいかないことなんてなかった。


 小さい頃から医者になれと父親に叩き込まれ、妹と一緒に頑張ってきた。親は私だけではなく妹にもそうだったから、重圧はかなり少なかった。


 星空が居てくれて本当に良かったと思っている。


 私より少しできの悪い星空は、両親に従順で、自分の意思なんて初めからなかったみたいに親の期待に応えようとしていた。


 私から見たら羨ましかった。


 私は自分の決めた道を歩きたい。


 自分の気持ちに素直に生きたいと強く願った。


 心のどこかで、この家の宿命は妹が背負ってくれればいいなんて思っていた。


 だから、バチが当たったんだ。



 私が高校受験で県内トップの学校に入学した頃から私と星空に対する差別が始まった。


 私は何をするにしても優遇され、大切にされ、その分、家の期待を全部背負うこととなる。


 一方、星空は高校受験に失敗した。


 受験なんて受かる人もいるがその分落ちる人もいる。星空は落ちた人だっただけだ。


 そこから、両親の差別はより酷くなったと思う。


 星空が自分たちの子供じゃないみたいな扱いを受けるようになった。自分の子供に対してどうしてそこまで酷い態度を取れるのか今でも不思議で仕方ない。


 私は小さい頃から、大切な妹を傷つける人からずっと妹を守ってきた。理由は、妹のことがかわいくて、大好きで仕方ないからだ。


 そして、妹も私の事を好きでいてくれる。


 それならば、やることはひとつしかなかった。


 全てを背負って生きていく。


 自分の心を殺して、全てを背負って生きていく。


 その時はその道しかないと思っていた。


 星空は両親の期待に応えたいと強く願い、親は自分のことをは裏切らないと信じていたからか、ショックが大きいようで塞ぎ込んだ性格になった。


 昔は私と遊んでくれたのに、遊んでいる暇があるなら勉強をすると言って、星空の目に私は映らなくなった。


 さらに、星空は私のことを嫌うようになり、裏切り者を見るような目でいつも見られる。星空が見せてくれていた大好きな笑顔はもう見れなくなったのだ。


 もう一度、星空を幸せにしたい。


 もう一度、あの笑顔が見たい。


 私は自分の全てを捨ててでも、星空に幸せになって欲しかった。だから、家のことはすべて背負うし、そのためなら手段を選ばない。


 友達も恋人も家族すらも利用すればいいのだ。みんな、愛想良く振る舞えばすぐに顔色を変えて関わり方を変えてくる。


 単純だ。


 私にとって人生は容易で、なんだって少し頑張れば上手くいく。


 

 しかし、どんなに努力しても星空を幸せにすることだけは出来なかったのだ。



 

 だから、今、目の前にいる美人さんに少しばかり嫉妬してしまう。笑ってはいないけど、星空が心を開いていることがわかる。


 何年もずっと一緒に居たのだから、わかるに決まっている。仲が良かった頃の星空が、私に取っていた態度とよく似ている。



 ——星空はいい人と出会えたね。



 目の前にいる子が星空にとって何なのかわからないが、このまま星空に平穏な日々が訪れてくれればいいと思った。





 勉強会が終わり、帰り際、星空が忘れ物取りに行って陽菜ちゃんと二人きりになる。


 さっきいじめすぎたので、陽菜ちゃんは私を警戒しているようだ。



「陽菜ちゃんは星空の友達?」


「友達……ではないかもしれないです……」


 陽菜ちゃんの顔が曇った。

 友達ではないのだろうと分かっていてわざと聞いた。友達だったとしたらあまりにも二人の関わり方が不器用過ぎたからだ。



「星空は不器用だけどいい子だからよろしくね」


 今のふたりにこの質問は早すぎたのかもしれない。



 私は私で妹を幸せにしていこう。


 陽菜ちゃんに負けないくらい、妹を幸せにしたいなと思えた。

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