第23話 人間らしい

 いつも通り学校に向かった。


 1日しか休んでいないのに、少し学校に行きにくい。



 舞はいつもどおり普通に接してくれた。

 ただ、彼女には1つ文句を言わなければいけない。


「舞、遠藤さんに私のプリント押し付けたでしょ」

「げっ…ばれたかぁ」

 あははなんて頭をかいて満面の笑みだ。


 むかつくが、昨日遠藤さんが家に来てくれなかったら、私は今も家に引きこもっていたかもしれないから少し感謝している。


 それでも勝手に舞に色々されたので、ほっぺをむにーと引っ張る。


 いつものように舞とじゃれているとクラスの子が舞を呼ぶ声が聞こえた。


「舞ちゃんー隣のクラスの陽菜さんが呼んでるよー」


 その言葉に心臓がドクンとなり廊下をみる。


 〝学校ではお互い関わらない〟


 それが私たちの約束である。

 話しかけられたのは私じゃないと分かりつつも少し焦る。


 廊下にいる遠藤さんはいつも通りの嘘笑いの張り付いた遠藤さんだった。


 舞と何話してるんだろう……2人共、笑顔で話してる…


 遠藤さんのあの笑顔を見てると腹が立つし、何がなんでもそれを壊してしまいたくなる時がある。


 2人を見ていると嫌な感情が湧き上がるので窓の方を見た。


 校庭は誰も居るはずがなく砂埃が立っている。


 

 今日は遠藤さんと勉強会の日だ。

 なにか彼女が嫌がることをしたい。

 遠藤さんがあの作り笑顔以外の顔をするところが見たい。


 元から歪んでいると思っていたが、私の性格はここまで歪んでいたのかと残念に思う。


 次の時間の授業は久しぶりにサボってしまった。


 久しぶりの屋上に懐かしさを感じる。

 下は体育の授業をしていた。


 はぁ…嫌になる…


 なんで遠藤さんをすぐ見つけてしまったのだろう。


 遠藤さんのクラスが体育の授業らしい。


 あと1週間で夏休みということもあり、みんなだるそうに体育をしている。

 そんな中、遠藤さんは真面目に体育の授業をしていた。


 遠藤さんに対する印象はもっとちがかった気がする。もっと不真面目でノリで生きている陽キャくらいに思っていた。


 今の遠藤さんは真剣に授業を受ける真面目ちゃんだ。


 そんなことを思って遠藤さんを見ると目が合った気がした。こんなところにいるのがバレたら面倒だと思い、校庭から見えない位置に移動する。

 

 今日は雲が多い。

 まるで今の自分の心のようだ。

 前が曇って見えない。

 私はどこに向かっているのだろ。


 そんなこと考えているとバタバタと階段を上がる音と屋上の扉を開く音が聞こえた。


 ビックリして体が反射的に起き上がる。


 遠藤さんが信じられないくらい怖い顔で寄ってきた。


「また、危険なことしてたでしょ?なんでそんなことするの?」

 彼女に掴まれた肩が痛い。


「あ、、いや、ただ授業サボってただけで」


 それは本当に事実だ。

 たしかに、遠藤さんとここで会った日はたしかに死のうとしていた。

 今はサボりたいからサボっていただけだ。


「ほんと?」


「うん」


 遠藤さんはほっとした顔をしている。


「授業戻るね」

 それだけ言って遠藤さんは出て行ってしまった。

 なんだったんだろうと思いつつ、次の時間から授業はサボらないようにした。



 放課後、図書館が休館日なので遠藤さんの家で勉強をすることになった。


 初めて遠藤さんの部屋に入る。


 部屋はとても女の子らしい部屋だと思う。

 花柄のカーテンや服が沢山並べられたクローゼット。

 化粧道具が机の上には広がっている。


 床に座ってテーブルに参考書を広げた。


 遠藤さんから出された麦茶が冷えていてとてもおいしい。遠藤さんはオレンジジュースを飲んでいる。よく、オレンジジュースのペットボトルを持っているので好きな飲み物なのかもしれない。どんな味か気になり、勝手に1口飲んでみた。


「甘い…」


「文句言うなら飲まないでよ」


 そんな小さな会話があるが、基本的に勉強の時は教える時以外話さない。



 私にとっては地獄のように長い夏休みが始まる。

 あの家には居たくないけど、図書館だって毎日空いていたり万能では無い。予備校は少し遠いので、夏の炎天下の中歩くのは辛い。


 そんな私の心を汲み取るように遠藤さんが家で勉強会を開くよう提案してきた。


 それならいつでも勉強出来るし、時間に縛られない。

 嬉しいが、その話に乗るか最初迷った。

 

 いくら遠藤さんが一人暮らしとはいえ、そんなに人の家に居ていいものなのか。今まで人と関わることが少なすぎてそんな当たり前のことが私には分からないのだ。


 勉強する時間はあっという間に終わり、遠藤さんが私の言うことを聞く時間になった。


 何をしようと考える。

 そういえば、今日舞と何を話していたのだろう。気になるけど、聞いたら私の事気になるのとかまたからかわれそうだ。

 学校で関わるなと言ったのは私だが、なんか無性に腹立たしくなった。


「今日はなにすればいいの?」

「私の指舐めて」

「また?」

 このお願いは、前にしたことがある。その時、遠藤さんは信じられないくらい嫌な顔をしていた。


 遠藤さんのその顔を見た時に、自分の中で何か変な感情が湧き出て、また見たいと思った。


 遠藤さんは期待通り嫌な顔をしている。


 当たり前だ。

 人の指を舐めるなんてよっぽどの変態じゃない限りできないと思う。


「拒否したら?」


「拒否権はないよ」


 遠藤さんは諦めたのか私の手を取る。


 そのまま口の中に私の指を入れた。

 人の口の中に指が入るなんてそんな気分のいいものじゃない。


 遠藤さんは私のことを恨めしそうに見てくる。遠藤さんのその顔を見ると、私はまともじゃなくなる。


 彼女の舌は動き続けているので、指を少し奥に押し込んだらせて苦しそうにしてた。


 さっきよりも鋭く私のことを睨んでくる。


 今の遠藤さんはかなり人間らしいと思う。


 いつもの張り付いた笑顔なんかより100倍ましだ。



 私が楽しんでいるように見えたらしくて

「滝沢の変態」なんて言われる。

 私のしていることを考えたらその反応は間違えていないと思う。


 遠藤さんはまだ苦しそうに咳き込んでいた。



 姉にも前に似たようなことをしたが姉は顔色一つ変えずに私の要求に応えた。しかも、ずっと笑顔でいたのだ。



 遠藤さんは姉と似ているがやっぱり違う。


 ちゃんと人間らしい所がある。


 遠藤さんの人間らしいところを見たいからってこんなのはやりすぎなのかもしれないけど、これ以外にいい方法が思い浮かばなかった。


 嫌なことをして、離れていったらこちらとしては本望だし、離れていかなくたって高校生が終わればこの関係は終わる。


 遠藤さんは苦しいのから開放されると悲しそうな顔をしていた。


 学校では絶対しない顔だ。


「普通にこういう事されると苦しいし傷つく」

「傷ついたっていつもみたいにヘラヘラしてればいいじゃん」

「友達の前では我慢出来るだけ」

 


 今だけは遠藤さんが遠藤さんでない時間。その事に謎の優越感を感じる。


 こんな崩壊しかけている関係は遅かれ早かれ崩れる。

 そんな関係のまま夏休みが始まった。




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 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 星空ちゃんは作った笑顔の人は嫌いで無性に壊したくなってしまうそうです。仲良くなりたい人や大切な人ほど、自分の前では素でいて欲しいですよね…



 読者さんに読んでいただけたり、作品フォローしていただけたりすることがいつもモチベになってます!


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 連載中の作品も他にあるので、時間ある時に覗いてもらえると嬉しいです!


 今後もよろしくお願いします!

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