第21話 ずる休み
朝6時。
学校の準備を始めないと学校に間に合わない時間になる。
いや、学校に行く準備は全て整っている。
ただ、学校に行くことを考えると足が重い。
今まではこの家に居たくなくて毎朝、学校に早く行っていた。
しかし、今日は違う…
遠藤さんと土曜日に色々ありすぎて、日曜日も引きこもって布団の中でぐるぐると彼女のことを考えていた。
結局、2日くらい寝れなくて今に至る。
やっぱり、遠藤さんに今は会いたくない。
学校を休むことにした。
学校を休んでもやることは変わりない。この息の詰まる家で勉強するのは嫌だが、何もしない方が気が狂いそうだったので教科書を開く。
勉強をして1時間くらい経っただろうか。いつもなら3時間くらい経ってるくらいの長さに感じる。
はぁ……
ため息をこぼす。
遠藤さんは約束を守ったから私も約束は守らないといけないと思う。
自分が言い出したことだ。
今からやっぱりなしとは言えない。
言い訳になるが、遠藤さんがまさか私の要求を呑むとは思わなかった。
あの日、私たちの関係は終わるべきだった。
遠藤さんと居ると心が温かくなる。
それと同時にそれが卒業までの一時の幸せだとわかる。
だから、終わらせようとしたのに…
「遠藤さんのばーーか!」
朝ごはんを食べていないせいか、無性にイライラする。朝ごはんどころか昼ごはんも出てこないだろう。
私が学校を休んでることすら家の人は知らない。
私のことに興味は無いのだ。
ベットの上で寝ようと思った。
制服にシワが着いてしまうが、後でアイロンでもかければいい。
大きく息を吸って、吐いて、目を閉じた。
お腹が空いて胃が痛くて眠れない。
ここ数日ちゃんと寝ていないはずなのに全然眠気がない。
外に食べ物を買いに行ってもいいのだが、お母さんに学校に行っていないことがバレるのは少し嫌で、足が重かった。
ベットに寝転んだまま2時間くらいたっただろうか。
目をつぶっても寝れないし、やはり勉強をすることにした。
太陽が沈み始めて夕日が見えたくらいに急にドアがノックされた。
お母さん……?いや、母親が私の部屋に訪ねて来るわけが無いのだ。
じゃあ、誰……?
もう一度、強くノックされた。
一応、扉を開けてみる。
そこには私が今1番会いたくない人がいたのだ。
「なんで、遠藤さんがここにいるの」
ほんとに訳が分からない。少し落ち着いてきた気持ちがまたかき乱される。
プリントを届けに来たと言う。
なぜクラスの違う遠藤さんが、と思ったが犯人は1人しかいない…明日、舞にはたんまり話がある。
頭を抱えたくなる。
家を開けたのは母親だ、なら私が学校に行っていないのがバレただろうか。
下から物音が聞こえて、急いで遠藤さんを部屋の中へ連れ込んだ。
沈黙が続き、いたたまれなくなり口を開く。
「なんで遠藤さんがプリント持ってきたの」
「体調不良って聞いて心配になったから」
これっとコンビニの袋が渡される。そこには、おにぎりや飲み物が入っている。
その時、私のお腹がぐーっとなった。
顔が熱くなる。こんなの漫画とかでしかないシーンだ。
遠藤さんはいつものように小さい笑い声を堪えて微笑んでいる。
「私に気にしないで食べていいよ」
私は食べる前に遠藤さんに飲み物くらいは出そうと思い、下に向かう。母親に会うかもしれない下の階は極力避けたいが、プリントを届けてくれたことには感謝しているので部屋を出た。
たしか、紙コップは棚にあったと思う。
台所には母親はいなかった。
出かけているようだ。
今の状況に安心し、目的のものを探す。
冷蔵庫を開けると何本かジュースやお茶のペットボトルがあった。なんの飲み物が好きかわからないが、この間ハンバーグを一緒に食べた時、オレンジジュースを飲んでいたなと思い、オレンジジュースを持っていくことにした。
部屋に戻ると遠藤さんが行儀よく床に座っている。
部屋の真ん中の机にジュースを置いた。
「どうぞ。お菓子とかないけど許して」
「そんな気を使わなくていいのに」
静かな部屋の中、遠藤さんの持ってきたおにぎりをじーっと見ていたら遠藤さんにまた笑われた。
「ふふ、食べていいよ。さっきお腹すいたぁって言ってたもんね」
「言ってない」
そんなやり取りをしつつ、私はおにぎりを食べた。
ほんとは遠藤さんに会いたくなかったし、どういう顔をしていいか分からなかった。
でも自分が悩んでいた時間が無駄だったと思うほど、遠藤さんは今までと変わらず接してくれる。だから、思ったよりも遠藤さんと一緒のこの部屋は息苦しくはなかった。
お腹が減っていたからか、あっという間に食べ終わってしまう。ウォークインゼリーも入っていたのでそれも遠慮なく食べた。
食べるのに夢中になっていたら遠藤さんが近くにいることに気が付かなかった。顔をのぞき込まれる。
「顔色良くない。体調大丈夫?」
誰のせいで不眠になっているのか分かっているのだろうか。
まったく…と思いつつ、土曜日のことを思い出して遠藤さんの唇を見つめてしまった。
色つきリップが塗られていて、やわらかそうだ。
「どうしたの?またしたい?」
はっとする。
ニコニコと嬉しそうな遠藤さんが目の前にいた。
むかつく…
絶対からかわれてる。
そりゃ、恋愛慣れしてそうな遠藤さんからしたら、私とのキスなんて呼吸と同じくらい普通なことなのかもしれない。
でも、私にとってはあれが初めてだ。
ファーストキスが学年で人気者な遠藤さんだなんて笑えない話があるもんか。
睨んでいても遠藤さんの作り笑顔は変わらない。
帰れと言ってもいいが、遠藤さんは帰ってくれなそうだ。
「勉強する?」
「いいの?」
遠藤さんが驚いた顔をしている。このまま無言が続くよりは勉強している方がよっぽどましだ。
「その代わり、約束覚えてるよね」
遠藤さんから笑顔が消えて、珍しく眉間に皺が寄っている。
「うん。覚えてたんだ」
「忘れるわけない」
「わかった。勉強教えて」
遠藤さんは私の向かいに座って勉強を始めた。
今日は宿題の分からないところをやたら聞いてくる。
もしかしたら、この交換条件のおかげで遠慮なく聞けるのかもしれない。今までは遠慮させてしまっていたのかもしれない。
2時間くらい勉強したら8時くらいになっていた。
別に何か欲しい訳では無いが、約束だから今から彼女に1ついうことを聞いてもらう。
今だけは、遠藤さんは私の言いなりだ。
「遠藤さん、こっちきて」
ベットを背もたれに寄りかかった私の隣をポンポンと叩く。遠藤さんがニコリともせず隣に座った。少し動きが固くて、脅えてるハムスターみたいでかわいいと思った。
「なにすればいいの?」
「ここにいて、15分だけ肩貸して。」
「えっ?」
「いいから」
私は隣に座った遠藤さんの肩に頭を預けた。
全然眠れていなかったこともあるのか、すぐに睡魔が襲ってきた。
遠藤さんの肩は柔らかくて心地いい。お花の香りと日干しされたタオルみたいないい匂いがする。
たぶん、遠藤さんが隣に来てから5分も起きていられなかったと思う。
中学生の頃、公園で遊んだ後、木の木陰でお姉ちゃんに寄りかかって2人で寝ていた夢を見た。
「真夜おねぇちゃん……」
目を開けると天井が見えた。
あれ、私何してたんだっけ…
遠藤さんに……
はっとして起き上がる。
時計の針は12時を指していた。
私は丁寧にベットの上で布団をかけられて寝ていた。
遠藤さんがきっと運んでくれたんだと思う。
明日、言えるか分からないけどお礼を言おう…
私は明日学校に行くために準備を済ませた。
お風呂に入る時に鏡を見ると、顔色がだいぶ良くなっていた。
___________________________________________
最後まで読んでいたたぎありがとうございます!
私は小・中は1日も休まない健康優良児だったので、友達がプリント届けに来るとかなくて、1度はそういうの経験してみたかったです 泣
読者さんに読んでいただけたり、作品フォローしていただけたりすることがいつもモチベになってます!
評価いただけると泣いて喜びます、、、
連載中の作品も他にあるので、時間ある時に覗いてもらえると嬉しいです!
今後もよろしくお願いします!
___________________________________________
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます