第16話 小さな1歩①

 「どうしたのそんな難しい顔して」

 舞に顔をのぞき込まれて焦る。


 「いや、週末が憂鬱だなと思って」

 今週末は遠藤さんとの約束がある。

 それだけでは無い。


 姉が久しぶりに帰ってくるのだ。


 遠藤さんと出かけるおかげで家に居る時間は少なくなるが、それでも憂鬱だ。


 姉は帰ってくると必ず私に話しかけてくる。私の気も知らないで……


「そんなことより、君。私に言うことはないのかね」

 鼻を鳴らしながら胸を張って舞がそんなことを言ってきた。


「なにかあったっけ」

 身に覚えがない。


「バスケの試合どうだった?」

 あー……遠藤さんや姉のおかげですっかり忘れていた。


「よかったよ」

 それだけかと言わんばかりに私の首に腕を巻き付けて弱く首を絞められる。


「苦しいからやめてよっ」


「もっとほかにいい言葉はないのかぁ」


 廊下でそんなやり取りをしていたので、色々な生徒に見られた。

 これ以上、注目を浴びるのは嫌だと思い「舞、キラキラしててかっこよかった。なんか、胸が高鳴ったよ」と伝えた。


 これは嘘ではない。あの日、本当に心が動かされるくらい感動した。


 腕を首に回されているせいで、舞の顔が近くにあるからよく見えるが、私がそんなこと言うと思っていなくてびっくりという表情の後に、照れくさそうに頬を赤らめた。


 舞は嘘をつかないし、素直だからそういう所は可愛いと思う。素直に自分の気持ちを伝えて私も少し恥ずかしくなり顔が熱い。


 そんなやり取りをもちゃもちゃしていると視線を感じたので、視線の先に目をつけると遠藤さんが居た。


 舞もそれに気がついたのか、私の首に巻き付けてる手をゆるめて

「陽菜やっぽー」

 なんてふざけた挨拶をしていた。

 珍しく、遠藤さんが微妙な顔をしていた。


「滝沢さん困ってるから離しなよ」

 遠藤さんの少し冷たい声が聞こる。


「陽菜さん今日冷たくないですかー」

 舞が能天気にそんなこと言って、私から手を離す。遠藤さんはすぐにその場からいなくなってしまった。


「星空さ陽菜と知り合いなの?」


 舞の突然の質問に体が飛び上がりそうになった。


「舞が私のことよく話すからじゃない?」

「たしかにー!」


 自分で言っておきながら、何を話してるの?と、気になりつつもこの話題を遠ざけるようにした。


 今日は図書館に遠藤さんが来る日だ。

 なんでか分からないがソワソワするし、緊張する。


「おまたせ」

「おつかれ」


 淡々と挨拶をこなして勉強を始める。

 しばらく集中していると思ったら遠藤さんが勉強に飽き始めた。


「この数式って全部覚えないとダメ?」

「だめです」

「うぅ、簡単には行かないというわけですな」

 …………

「あのっ」「ねえっ」


 あっ…話すタイミングが被ってしまった。


「遠藤さんお先にどうぞ」

「じゃあ…バスケの試合どうだった?」

「楽しかったよ」

「ほんと?結構やってない人だとルールとか訳分からなくない?」

「一応、行く前に少し動画とかでルール頭に入れてた。行くのに何も分からないでみるの申し訳ないなと思って調べたおかげで、だいぶ楽しんで見れた」

「それって私のため?」


 目をきらきらさせて聞いてくる。


「舞のため」

 あからさまに不機嫌な顔になり会話が終わる。


「で、滝沢は何言おうとしたの」


 大きく息を吸って吐く。そして口を開く。


「あんまり学校で私と関わらないでほしい…」

「なんで?」

「私といると遠藤さんが悪い目で見られてたりするだろうし、そもそも私は遠藤さんみたいなタイプあんまり関わりたくないから」


 今は勉強を教えると教えられる関係で成り立っているから上手く話そうと思う。そういったものが無い学校では、何を話したらいいか分からないし、周りの目が厄介だ。


「私は別になんて思われてもいいけど、私みたいなタイプにあんまり関わりたくないって言うのはどういうこと?」

「キラキラ眩しくて、一緒に居たら私が消え去りそう」

「滝沢って吸血鬼かなんかなの」


 一応、遠藤さんが傷つかないように話したのに、遠藤さんは冗談ぽくそんなことを答える。


「学校では静かに暮らしたい。誰からも注目されず、周りに迷惑かけないように」

「……わかった。学校では話しかけないようにする。舞と私そんなに何が違うのか不服だけど…」


 たしかに、舞も遠藤さんもタイプは似ているかもしれない。しかし、舞は1年生の頃から私といるので不自然では無い。クラスの中心にいるような遠藤さんが急に私に関わるようになったら、絶対みんなから注目される。


 それだけは絶対に嫌だ。


 そんな暗い話以降、約束の土曜日がやってくるのはあっという間だった。

 



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 最後まで読んでいたたぎありがとうございます!

 色々辛いことがあって、避け続けたお姉ちゃんに話しかける星空ちゃんはすごい勇気を出したと思います!家族との関わり方についても注目していただけると嬉しいです!


 読者さんに読んでいただけたり、作品フォローしていただけたりすることがいつもモチベになってます!


 評価いただけると泣いて喜びます、、、


 連載中の作品も他にあるので、時間ある時に覗いてもらえると嬉しいです!


 今後もよろしくお願いします!

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