第11話 お招き

「結構暑いですし、カフェでも行って涼みませんか?」


 現代においては、都会だろうが田舎だろうが、真夏であっても熱くなりすぎることはない。

 技術が大きく進歩したのだ。災害すらもかなりの範囲でコントロールが効く。

 たが、それでもやりすぎはよくないとして、夏はある程度暑いし冬もある程度寒い。


 そういうふうになっていた。特に今日はいつもより暑く設定された日だから、引きこもりに近い存在である唯菜はちょっと汗ばんでいた。

 さぬきの方は暑さとか寒さなんてのはどうとでもなるので、汗一つかいていないが……。

 ずっと年下の女性をカフェに誘うなんていうのは中々に気恥ずかしかったが誘えた。


「はい!コラボ始める前にいろいろ話しておきたいですしね」


 今日はひとまず外で遊んでから、さぬきの家に行ってオフコラボをする予定だった。

 家に招くのはさぬきが難色を示した。

『若い女性がこんなおじさんの家に来るのは流石に……』

 だが、唯菜は『肉体的には私の方がお姉さんなんですから、むしろ心配するべきは逆なんじゃ……?』と指摘したことで押し黙った。

 互いの思考的には、たしかにそちらの危険のほうがずっと多いから。


 結局、そういうことになった。


 そして、カフェで涼みながら会話を交わして、唯菜の希望によりショッピングへ。


「その、私のファッションセンスも正直どうかと思いますよ?ゆいちゃんのほうがずっとセンスが有るのも知っています。ですけど、これは流石に……」


「いえ、絶対似合いますから!」


 どこから出てきたのかわからない金、おそらくは異能研究によって得た金により、いろいろな服を買ってもらうこととなった。

 中にはとんでもないセンスのものもあった。

 吸血鬼の令嬢のようなセンスの服があったのだ。銀髪赤目に色白と、連想させる要素は揃っているのでたしかに似合うけど、流石に酷かった。だけど、文句は言えない。

 金を出したのは唯菜なのだから。

 買ってもらった以上は全部一度は必ず着るつもりだが、外で着るのはキツイなとも思ってしまった。


 そして、舞台はついにさぬきの自宅へ。


 普通のマンションにある一室。そこがさぬきの部屋であった。


「お、おじゃましまーす……流石に緊張しちゃいますね……」


「アハハ、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」


「そうはいっても……あ、いつも配信で写ってる部屋です!……へへへ、すっごいいい匂いがするぅ……。甘くていい香り……。甘ったるいくらいに女の子女の子した内装なのに、ところどころにある異質な趣味……かわいすぎ……。うわぁ、一生の思い出になりそうです……!!!」


 そこから、唯菜のテンションはとどまるところを知らなかった。

 嫌われたくないから表側のそれは抑えに抑えたが、内面はもはや狂っていた。

 本人でも何を行っているのかわからなくなるほど前後不覚になり、ついには気絶してしまった。


 そして、数時間後……。


「あれ、ここは……あ、盛大にやらかしちゃってましたね……。というか、ここはさぬきちゃんのベッド?……ウフフ、枕からすっごくいい匂いするぅ……じゃなくて」


 唯菜はベッドから飛び降りて土下座する。


「テンション上がりすぎました!本当にスミマセン!」


「あ、やっと起きたんですね。謝るのはいいですよ。そういう子だっていうのはとっくにわかっていて呼んだんですから、私が悪いんです。それに、こんな可愛い女の子が私の部屋に入ったことでここまでテンションを上げるというのは、決して悪い気はしませんしね」


 さぬきはそう言ってウインクで返す。


「さあ、それよりもうすぐ配信が予定されてる時間ですよ。ギリギリ延期せずに済みそうですし、準備を整えましょうね」


「ありがとうございます!……嬉しかったんだ。恥ずかしいけど、こっちも嬉しい……やくみちゃんすき……」


 小声でつぶやいたその声はバッチリと聞こえていた。

 聞かなかったことにして、準備を整える。

 そして、ほどなくして配信が始まった。

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