第39話 秘密

「これで協力者は揃ったな。あとは地上に出入りできる人間でサカドという人の情報を集めてもらってる間に、細かな計画を立てていくか」


ロウからの依頼のあと隠れ家に帰ってきた。今は作戦会議中である。


「ヒスイはしばらくやる事もないし、アジトに帰るか?」

「え〜。じゃあ俺もついてく〜」

「お前は俺と作戦の下準備だろ。というか、アジトには連れていかん」

「そうか。俺も一緒に地上に行くんだもんね」

「不必要に大勢で行ってどうする。行くのはヒスイと俺だけだ」

「なんで!ズルい〜」


トーカとクキのいつものやりとりを見ながら、俺は覚悟を決めてある事を伝える。


「あのさ……アジトには行かない」

「え?なんで?みんなに会いたいんじゃないの?」

「会いたいけど、やりたいことがあって………」

「ジンのことか?」


トーカに見透かされる。


「なぜアイツのことを気にする。地上に行く準備は進んでいる。下手にアイツに関わって全てが水の泡になってもいいのか」


厳しい口調だ。それはそうだろう。ここまできて余計なことに関わって失敗なんて、協力してくれるみんなを裏切ることになる。でも……


「わかってるけど、行きたいんだ」

「まずは何で気になるのかを聞いてみたら〜?」


クキがゆったりした空気で聞いてくれる。


「……ハイルのことがあって、心を失う人がいることを実感したんだ。ジンのはりついた笑顔は何かを隠してる気がする」

「そうだとして、お前に何ができる」


トーカは変わらず厳しい口調だ。でもさっきまでとは違う。これは、俺の覚悟を試してる。


「わからない。けど、この赤い玉を渡されたのは、話をしたいんじゃないかと思うんだ。ジンなりのSOSな気がする」


根拠なんて何もない。でもこれがジンの小さな叫びなら、放っておくことはできない。

その気持ちを込めてトーカを見つめる。


「……お前の手は、俺より遥か遠くまで届くのかもしれないね」

「………え?」

「クキ、ジンについての情報を集めるぞ。組織が把握してる分はグライさんにお願いする」

「あいあいさ〜」


クキがビシッと敬礼する。


「トーカ?」

「ジンに無策で会っても意味がない。ある程度の情報が集まるまでは待機だ」


頭に手をポンと置かれる。優しくて温かい。いつもの手だ。


「ありがとう!」

「とりあえずそのクマだらけの顔で会ってもなめられるだけだ。今のお前の仕事はゆっくり休んで万全の状態にしておくこと。わかったね」

「了解!」


トーカが笑顔になる。クキが後ろでやれやれといった顔をしていた。




「ジンの本名はウィド・ジン。下級貴族ウィド家の一人息子だ。両親は慈善活動に熱心で本人もよく手伝いをしていたそうだ」


数日後、俺はリビングでトーカから集まった情報を聞いていた。


「だが10年前。両親は何者かに殺害されてしまう。表向きは強盗の仕業とされている。実際はテラスタワーの内情を知った夫婦が特権を持ってる貴族達に、市民への富の分配を持ちかけたのが原因らしい」


特権を失うことを嫌がった貴族達による犯行。慈善家の両親のもとで育ったジンは何を思ったんだろうか。


「唯一難を逃れたジンは軍に保護されるが、その後すぐに姿を消している。その後の行方は掴めなかったが今から5年前に反乱グループに入ってる。今所属してるグループだな」


5年間。彼はどこにいたのだろうか。そこが知れたら何かを掴めそうなのに。


「始めは目立った活躍もなかったみたいだな。それがこの間の一件で急にリーダーに躍りでた。なかなか頭がきれるらしく、うちも協力関係を維持するのに苦労してるみたいだよ」


貴族の息子から反乱グループのリーダーに。あのはりついた笑顔と悪人への異常な憎悪は、両親の事件が原因なのだろうか。


「思ったより情報が出てこなかったな。どうだ。何か参考になりそうか」

「ありがとう。ジンのアンバランスな正義感がもう少しで掴めそうな気がするんだ。あとは直接話して聞き出すしかないかな………」

「やっぱり行くんだな」

「うん。覚悟は決めたから」


トーカは不安そうな心配そうな、それでも俺に任せようと堪えている顔をしている。ごめん。心配ばかりかけて。


「なら、この話はしておいたほうがいいな」


トーカは決心したようにもう一つ、大切な事を話し始めた。




次の日の晩、俺はジンと初めて会った時に来た空き地にいた。ジンに赤い玉で会いたいと告げると、すぐに場所と日時を指定してきたのだ。

トーカ達は離れた場所で待機している。通信機を持つ事を条件に1人で行く事を認めてもらったのだ。


「お待たせ。まだ時間じゃないのに、随分早く来たんだね」

「遅れるはよりは早く行けって、保護者に教えられてるんでね」


ジンはゆっくりと歩いてやってきた。


「いつものように飛んでこなかったんだな」

「たまにはゆっくり歩きたい時もあるんだよ。今日は君に会える楽しみを噛み締めながら来たんだ。僕に話って何かな?」

「話があるのはお前のほうじゃないのか?」


ジンの笑みが深くなる。こう聞かれるのを待ってたのか?


「ふふ。また質問だ。君は本当に可愛いね。素直で、優しくて、何でも知りたがる。世界の底にどんな暗闇が広がってるかもわからずに」


瞳の奥が暗い。深い深い闇が、こっちにおいでと手招きしている。


「じゃあ、お望み通り聞いてもらおうかな。僕のこれまでの話を」

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