第28話 アクセサリーを作ろう

「えっ?じゃあこれから忙しくなりそうなのか」

「うん。しばらくアジトにいれる時間が短くなると思う」

「そんな〜。やっと帰ってきたと思ったのに」


久々のアジトで朝食をとりながらイッカとウノに外に出ることが増えそうなことを伝える。2人は予想通りがっかりしている。


「ん〜。まあ仕方ないか。ヒスイが決めたことだもんな」

「寂しいけど、僕らは応援するよ」


心底寂しそうな顔をしながらも2人は納得してくれた。なんだか申し訳ない気持ちになる。


「そうだ!ヒスイが帰ってきたらやろうと思ってたことがあるんだ。また外に行くことになる前に、今日やっちまおうぜ!」

「?何をするんだ?」

「それはあとのお楽しみ〜」


ニシシと笑う2人はとても楽しそうだ。何をするのか早く聞きたかったがそれ以上は聞かないでおいた。




「ジャーン!これな〜んだ!」


イッカが淡く緑がかった石を見せてきた。


「何って……石?」

「ただの石じゃないよ!これは“ヒスイ”なんだ!」


ヒスイ?………俺?


「バンさんが備品の荷物に紛れてるのを見つけてさ。綺麗な石だからって俺達に見せてくれたんだ」

「そしたらソアラがそれは翡翠じゃないかって。図鑑を見せてくれたらこの石そっくりだったんだ〜」

「それならヒスイにあげたらいいよって、バンさんから預かってたんだよ」


翡翠……そんな名前の石があるんだ。知らなかった。


「なので、今日はヒスイがこの石をいつでも持ち歩けるようにアクセサリーに加工します!」

「します!」


2人で息を揃えて胸を張る。ああ、アジトに帰ってきたって気がするなぁ。


「アクセサリーって。どうやって加工するんだ?」


急に2人のテンションが下がる。


「それなんだよな……アクセサリーなんて作るどころか見たことも触ったこともほとんどないし」

「どうやって作ったらいいか、全くわからないんだよね」


ズーンと落ち込む2人。さっきまでのテンションはどこにいったんだよ。


「………とりあえず色んな人に聞いてみようか」




「アクセサリーの作り方?」


何かを教えてもらうといえばソアラだろうと、まずは学校に行って聞いてみた。


「そう。こないだの翡翠をアクセサリーしたいんだ」

「ああ。そういえばヒスイ君にあげると言ってたね。ネックレスやブレスレットにするなら穴をあけて紐を通せばできそうだけど」

「穴って、どうやってあけたらいいんだろう?」


ウノが首を傾げる。たしかに硬い石に穴をあけるってどうするんだろう?


「何か参考になりそうな本があったかな。本棚に探しに」

「ソアラ〜。ここわかんないよ〜」

「僕もわかんない〜」


ソアラは本棚に向かおうとするが子供達に呼ばれてしまった。


「俺たちは自分で調べるからいいよ」

「みんなのほうに行ってあげて」


子供達の学びを邪魔してはいけないと、俺たちは早々に退散することにした。




「う〜ん。紐を通すくらいの穴かぁ」

「なんだ?3人して変な顔して」


3人して考えながら歩いてるとジャガイモさんに会った。アクセサリーを作ろうとしてることを伝える。


「俺が作ったジャガイモの芽をくり抜く道具は使えないかな?」


ポケットからキリの先端が輪になったものが出てくる。なんで常に持ってるんだろう。というか自作したのか、それ。


「う〜ん。先端が輪になってるから穴を開けるには向いてないかな〜」

「でもキリを使うのはいい案かも!備品室に行ってみようぜ!」


ジャガイモさんに礼を言って備品室に向かう。なんだか楽しくなってきた。




「おや?3人して何急いでるんだ?」

「トーカ!」


備品室に向かう途中でトーカに会った。アクセサリーを作るためにキリを借りに行くことを説明する。


「キリかぁ。う〜ん。うまくやらないと石自体が割れるかもしれないな」

「「「えっ!」」」


上がったテンションが一気に下がっていく。イッカとウノを見ると、2人もわかりやすくやる気が萎んでいっていた。


「あら〜。悪いこと言っちゃったかな」


俺たちの様子にトーカが慌てている。どうしようかとオロオロしているトーカの後ろからバンが歩いてきた。


「あ!いたいた。お〜い。イッカ、ウノ、ヒスイ。こないだの石、アクセサリーにするんだろ」


落ち込みながらも顔を上げると、バンは紐と小さな布を何枚か持っている。


「穴をあけたり金属をつけたりは大変だと思ってさ。アクセサリーにはならないかもしれないけど、これで小さな袋を作って首から下げたらどうかと思って」


イッカとウノが物凄い勢いでバンのところに走る。天啓を得たりという顔だ。


「ありがとうございます!バンさん!」

「これなら俺たちでも作れる!」

「いや〜、役に立てたなら良かったよ。この布はこないだウノが片付けを手伝ってくれた時に出てきたものだから、遠慮なく使っていいよ」


もう一度ありがとうございます!と言う2人の後ろで、俺もお礼を伝える。

アクセサリー作りではなくなったかもしれないが、これでなんとか持ち歩ける形にはなりそうだ。




「紐が白だからな。袋まで白だと面白くないか」

「石の色が緑だし、袋も緑にするとか?」


いざ作ろうというその前に、俺たちは布の色に悩んでいた。


「ヒスイは好きな色とかあるのか?」

「好きな色?」


そう言えば何だろう。考えたことなかったな。


「明るい色がいいかなぁ」

「明るい色かぁ。薄いけど黄色ならあるよ」


ウノが黄色の布を見せてくれる。淡い色で金色には程遠いが、なんとなくナズに渡された金貨を思い出した。


「それがいいかな」

「よし!じゃあ布は決まり!裁縫は俺にお任せあれ!」


あとはイッカがあっという間に縫い上げてくれて、紐を通して出来上がりだ。石を入れて首からかけてみる。


「苦しかったり紐が痒かったりしないか?」

「大丈夫。でも紐が切れたりしたら嫌だから、普段は服の中にいれとこうかな」

「あ、待って!やりたいことがあるんだ!」


イッカとウノが袋を握る。目を閉じて順番に呟いた。


「どうかヒスイを危険なことから守ってください」

「ヒスイが無事に僕らのところに帰ってきますように」


目を開けて手を離し、「はい、いいよ」と笑顔で言われる。


「……ありがとう」

「「どういたしまして」」


こんなに心のこもったお守りを渡されたら、何があっても帰ってこれる気がする。

イッカとウノは凄いなぁと、屈託なく笑う2人がとても眩しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る