第27話 待ちぼうけ

「寂しいよ〜。俺もアジトに行きたいよ〜」


次の朝、ラボに寄ってからアジトに帰るために支度しているとクキが寂しがってくっついてきた。


「これから地上に行くために忙しくなるし、またすぐ会えるよ」

「でも〜。せめてラボまでは一緒に行っちゃダメ〜?」

「お前、戦闘員じゃないから武器いらんだろ。不必要に大勢でラボには行けん」

「ケチ〜」


溶けそうなぐらいウダウダなっているクキを優しく撫でて説得する。


「地上に行くためにはクキの力が必要なんだ。助けて欲しい時は呼ぶから待ってて。頼りにしてるよ」


俺の言葉が嬉しかったのか、クキは急にシャキッとして「お兄さんに任せなさい!」と張り切り出した。


「お前、どんどん人たらしになってくな」


トーカがボソリと呟いたが、何のことだかわからなかった。




クキに別れを告げてラボへ向かう。

ちなみにグライとグリーズは昨夜、話が終わったらすぐに帰って行った。

2人して待たせていた車に乗らず全力疾走で去っていったので部下の人が慌てていた。大丈夫だろうか、あの筋肉師弟。


ラボではプティ、サリ、ノーマに昨夜と同じ事を話し協力をお願いした。


「そういうことでしたら、ラボは全力でヒスイくんに協力しますよ」

「私も。ヒスイ君のためなら協力を惜しみません」

「まあお前の武器職人としてほっとくことはできんからな」


3人に礼を伝え、ナイフのチェックのためにノーマと技術室へ向かうことになった。トーカはプティ達と話があるみたいなので所長室に残るようだ。

部屋を出る前にサリにブレスレットの礼を言う。


「君の力になれたのなら良かった。ナイフを見てもらってる間にブレスレットもチェックしておきましょう」


サリにブレスレットを渡し、ノーマと所長室をあとにした。




「ん?おい。ナイフにヒビが入ってるぞ」


ノーマに言われて見てみる。たしかに小さな亀裂が入っていた。


「気づかなかった。いつついたんだろ?」

「おい。俺のナイフはこの程度で折れはしないが、武器の状態には常に気を配れ。でなけりゃ取り上げるぞ」

「………すみませんでした」


怖い。やっぱりノーマは怖い。


「しかし、そんな簡単に傷つくわけないんだがな。よっぽど強いヤツとでも戦ったのか?」

「強いヤツ………」


ジンの顔が頭に浮かぶ。そう言えば交渉はどうなったんだろうか。

なんとなくアイツにだけはヤドの存在を知られてはいけない気がする。もしまた会うことがあったとして、俺はあの瞳の前で秘密を隠し通せるだろうか。


「おい。おい!」

「え!あ、ごめん、ぼーっとしてて」

「ったく。ちょっと奥で作業してくるから待ってろよ」

「ああ、わかった」


ノーマを見送って息を吐く。

色々なことがありすぎて疲れたな。早くアジトに帰りたい。イッカやウノやアジトのみんなに会いたいな。




「できたぞ」


ノーマが治したナイフを手に戻ってきた。


「ありがとう」

「次キズをつけたら許さんからな。武器が壊れるのは武器のせいじゃない。お前が弱いからだ。せいぜい死ぬ気で訓練するんだな」

「はは。頑張るよ」


ノーマの迫力に乾いた笑いが出てしまった。でも言う通りだ。俺がもっと鍛えないと。


「相変わらず余計なものばかり背負ってるな」

「へ?」

「上に行くために協力者を集めるんだろ。そんなに自分でばかり抱えていたら誰も助けてくれんぞ。もっと周りに頼ることを覚えるんだな」


言いながらノーマは俺から目を逸らしている。照れてるのかな?


「うん。ありがとう」


ニヤニヤしてしまってたのか、ノーマに「何笑ってんだ!」と怒られてしまった。

でも不器用な優しさが嬉しかった。




みんなに礼を言いラボをあとにして、やっとアジトに帰ってきた。

久しぶりだ。こんなに長く外に出てたのは初めてじゃないだろうか。


「あ、ヒスイにいちゃん!」

「おう。おかえり」

「今回は随分と長かったな」


みんな次々におかえりを言ってくれる。その温かさに嬉しくなりながら、イッカとウノを探す。

でも2人の姿が見当たらない。


「イッカ君とウノ君は昨日から熱を出しててね。部屋で寝てるんだよ」


ソアラが2人を探してることに気づいて教えてくれた。


「そうなのか?なら見舞いに行かないと」

「うつるといけないからね。部屋には入らないように言われてるんだよ」


ソアラの言葉に落ち込んで自分の部屋に戻る。

トーカにどうしたのか聞かれて答えると、「それは仕方ないね。すぐ元気になるよ」と励まされた。




イッカとウノがいないと、こんなに時間って長く感じるんだなと気づく。

子供達と一緒に遊んだり、色々な仕事を手伝ったりしていても、どこか気分が落ち着かない。

夕飯のあと、ぼーっとしているとソアラがやってきた。


「なんだか心ここにあらずだね。ヒスイ君が外に行った時の2人と同じだ」

「……そうなのか?」


ソアラの言葉に驚く。俺がいない時の2人か。そういえばよく知らない。


「近頃は慣れたけど、最初の頃は君がいない間はソワソワ落ち着かなかったんだよ。帰るって連絡が入ったら大喜びしてね」


変な感じだ。仲間になってそんなに日も経ってない俺が少しいなくなったところで何も気にしてないと思ってた。


「私たちも仲良し3人組が揃ってないとなんだか寂しくてね。やっぱり3人揃った笑顔が一番だね」


ソアラが優しく語りかけてくれる。ああ。やっぱり俺はここが好きだな。俺の帰る場所はここなんだ。


「明日には2人とも元気になって部屋から出てくるだろう。ヒスイ君が倒れたら元も子もない。今日は早く寝なさい」

「うん。ありがとう」


ソアラにおやすみを言って部屋に戻る。トーカに「なんだか嬉しそうな顔だね」と言われて笑みを返し、そのまま「おやすみ」と布団に潜り込んだ。




「イッカ、ウノ、おはよう!」


いつもは部屋に迎えにきてもらうので、今日は逆に2人の部屋の前で待ってみた。

昨日までいなかった俺の姿に2人は驚く。


「ヒスイ!帰ってきたのか!」

「ずっと帰ってこないから心配したんだよ」

「うん。ごめん。昨日帰ってきたんだ。2人とも熱はもう大丈夫なのか?」

「そんなんヒスイに会ったらどっか行ったよ!ああ〜、なんで熱なんか出んだよ!出迎えたかったのに!」

「よりにもよってタイミングが悪いよ〜」


2人が頭を抱えて後悔している。体調崩すのは仕方のないことなんだけど。


「それより!まずはこれをしないとな!」

「そうだね!イッカ!やるよ!」


「「おかえり!!」」


「………ただいま」


廊下には3人分の笑い声が響いていた。

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