第25話 頑固者

グリーズに担がれ走ること30分。街の外れまで来てやっと解放された。

あ、意外と気持ち悪くなってない。グリーズの運び方が上手いのかなと、俺はどうでもいい事を考えていた。


「あそこがこの辺の民家を荒らしている窃盗団のアジトです。メンバーは5人。この時間は全員揃っているはずです」


グリーズが指差す先にはいかにも怪しい民家がポツンとある。


「というか窃盗団なんて捕まえて、そのあとどうするんだ?」

「信頼できる軍の人間に引き渡します。治安維持は彼らの仕事ですから」


なら捕まえるのも軍がやれよと思ったが言わなかった。うちと軍にも色々とあるんだろう。


「で、作戦は?」

「作戦?そんなものはありません。正面突破です」


は?と言うまもなくグリーズは民家に向けて走り出す。なんなんだ、あの子!




慌てて追いかけると、ちょうどグリーズが民家の入り口を開けた所だった。


「なんだ⁉︎」


グリーズの話通り中には5人の人間がいた。

突然の来訪者に全員が驚く中、グリーズがマントを脱ぎ捨てる。小ささに似合わない筋肉質な体に、背中に金属の長い板のような物を背負っている。


「よっ!」


背中の板を手に取る。板は2重になっていて、畳まれた箱みたいになっている。それを箱を復元するように長い棒に戻し、窃盗団に向かっていく。


「うわ!」


グリーズが棒を振り回す。すんでのところで避けられるが、そのまま木の壁をペキペキと削り取った。


「ほらほら。大人しくしてたら気絶する程度で済ませてあげますよ。抵抗するなら手足の1、2本は覚悟してくださいね」


グリーズは逃げ惑うヤツらに容赦なく攻撃を加えていく。無茶苦茶だ。俺が窃盗団を捕まえるって話じゃなかったのか。


「くそ!お前もアイツの仲間か!」


窃盗団の1人がこっちに向かってくる。腕を掴んで相手の勢いを使って捻り上げ、近くにあったロープで縛り上げてその辺に転がした。

訓練がいきてる。ありがとう、アルア。

師匠に感謝しながら状況を確認する。相変わらずグリーズは暴れたい放題だ。捕まえるだけなら不要な怪我は避けたい。


「おい!こっちにもいるぞ!」


窃盗団の気を引く。1人がこっちに向かってきたところで風の壁を展開して思い切りぶつからせる。うまいこと気絶させられたけど、ちょっと痛かったかな。


あとはグリーズの攻撃に気をつけながら残り3人を捕まえていく。乱戦になりながら、ふと違和感を感じた。グリーズがうまく攻撃を当たらないようにしてくれてる気がする。そもそもとっくに全員捕まえてて良さそうなのに暴れてるだけだ。

チラッとグリーズを見ると目が合う。フッと笑みを見せられた。ああ、そういうことか。




「ご苦労様でした。連絡をいれたので軍の人間がまもなく来ます。引き渡したら帰りましょう」


窃盗団を捕まえたことを連絡しに行ってたグリーズが戻ってきた。武器は背中に戻しマントを羽織っている。


「あの………」

「なんですか?」

「………ありがとう」

「なんのことでしょう。私は自分の仕事をしただけです」


知らんぷりで顔を逸らしたグリーズの頬が切れてることに気づいた。何かの破片ででも切ったのだろうか?


「顔、怪我してる。待って。たしか傷薬が……」

「この程度の傷なんてことありません。これくらいの痛みに耐えられぬようではグライ様の部下として失格です」


………どこかで聞いたセリフだ。なんでどいつもこいつも怪我なんてと軽く言うんだ。だんだん腹が立ってきた。


「お前の大好きなグライ様は部下が怪我しても気にしない冷たいヤツなんだな」

「何っ⁉︎」

「でなければ怪我の治療をわざわざ断る理由なんてないだろ」

「違う!グライ様は強く優しく部下の一人一人まで気にかけてくださる素晴らしいお方だ!」

「なら、部下が顔に傷つくってそのまま帰ったら心配するんじゃないか?」

「それは………」

「はっはっはっ!グリーズ、お前の負けだ!」


急な大声に驚いて声のした方を見る。見上げるぐらい大柄な男と軍服の女性が立っていた。女性のほうは見覚えがある。


「ミリッサ大尉?」

「久しいな、ヒスイ君。前に会った時より随分と逞しくなった」


ミリッサ大尉は笑顔で手を振っていた。横にいた大男がグリーズの前に来て頭を撫でる。


「ご苦労だったな。グリーズ」

「いえ、そんな、もったいないお言葉です……ありがとうございます」


グリーズが顔を真っ赤にして歯切れ悪く返事をしている。さっきまでとは別人だ。


「ヒスイと言ったな。俺はグライだ。今回の活躍はグリーズから聞いている。トーカの拘束もお前の隔離も無しになったぞ」

「あ、えっと、ありがとうございます」

「聞けば窃盗団員達をなるべく傷つけずに捕まえたらしいな。グリーズの傷のことといい、気に入ったぞ」

「ありがとうございます。でもグリーズがうまくサポートしてくれたからです」

「はっはっは。謙虚だな。いいことだ。だが相手を傷つけずになんて言うのは実力差がある時しか通用せん。その想いを貫きたければもっと鍛えなければならんぞ」

「………はい」


強く優しく……か。

グライという人は確かに少し話しただけでおおらかな優しさが伝わってくる。グリーズが尊敬するのもわかる。


「さて、ミリッサ大尉。我々はヒスイを家に送っていかねばならんので、後のことはお任せしてよろしいかな?」

「ああ。彼も疲れているだろう。後のことは我々に任せてくれ」

「よし。ヒスイ。車を待たせてあるから隠れ家まで送ろう」


良かった。帰りは人力じゃないんだな。ホッとしたところで1つ思い出した。


「あの〜」

「なんだ?」

「その前にグリーズの手当てだけさせてください」


全員が目を丸くしている。変なこと言ったかな?


「はっはっは。わかった。待とう。グリーズ、諦めろ。この少年はなかなか頑固だぞ」


グライの豪快な笑い声が響く。グリーズはジトっとした目でこちらを睨み、ミリッサは必死に笑いを堪えていた。

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