第24話 力を示せ
翌朝早く、トーカは会議に出席するための準備をしていた。
「外を出歩くなよ。必ずクキといろよ。できるだけ早く帰るからな」
俺は小さい子供かとツッコミたくなる言葉を残して、トーカは足早に隠れ家をあとにする。クキは「過保護だね〜」とのんきに欠伸をしている。昨日のことが嘘みたいな平和な光景だ。
「クキ、もう怪我はいいのか?」
トーカを見送りソファに落ち着いたので気になっていたことを聞いてみた。バタバタして聞けずにいたことだ。
「ん?ああ。もうすっかり治ったよ〜。ここにいたのは次の仕事待ちだったからだよ」
「そうか。昨日の仕事にいなかったからまだ治ってないのかと思ってた」
「ああ。俺は戦闘担当じゃないからね。昨日みたいな仕事は行っても役に立たないよ」
このまま仕事が入らなきゃいいのにね〜と笑いながらソファでくつろぐ姿は完全に気が抜けている。俺もつられてソファにもたれかかる。昨日の緊張がまだ残っていたのか、ふーっとため息と一緒に力が抜けてくのを感じた。
その日はクキとゆっくり過ごした。
家の掃除をしたり、好きな本を教えてもらったり。クキとこんな風に過ごすのは初めてで楽しかった。クキもなんだか嬉しそうだ。
「トーカ帰ってこないね〜」
次の日になってもトーカが帰ってこない。会議が長引いてるのかとも思うが、連絡もないので心配になる。
クキが大丈夫だよと励ましてくれていると、玄関の戸がノックされた。
「あ、ほら。帰ってきたんじゃない。も〜。連絡くらいしてほしいよね」
クキが扉を開けようと歩いていくが、外の様子を確認してそのまま止まってしまう。
「どちらさまですか」
明らかに警戒した声で扉の向こうに問いかける。トーカが帰ってきたんじゃないのか?
「クキ殿ですね。私はグリーズと申します。グライ様の命でヒスイ殿への伝言を預かって参りました」
声が高い。子供だろうか?
クキが何か問いかけて相手が答えると、警戒しながらも扉を開けて訪問者を招き入れた。
「失礼します」
入ってきたのはやっぱり子供だった。俺より5歳くらい下かな?体がすっぽり隠れるマントのようなものを着ている。
「で、ヒスイくんへの伝言って何?」
クキが俺のそばに戻ってきて問いかける。まだ警戒は解いてない。
「あなたがヒスイ殿ですね。単刀直入に言います。トーカ殿が幹部達によって拘束されました」
どういうことだ⁉︎
グリーズに駆け寄って問い詰めそうになるのをクキに止められる。
「幹部達は今回ヒスイ殿が危険な目に遭われたこと、また反乱グループと単独で接触されたことを深く憂慮しておられます。トーカ殿を保護の任から解き、ヒスイ殿を安全な場所へ隔離すべきだとの意見が出ております」
なんだそれは!俺は物じゃないぞ!
今度こそグリーズに掴みかかろうとした瞬間、「ですが!」と急に大声をあげられた。
「心優しいグライ様が今一度チャンスを与えてはどうかと進言なさったおかげで、ヒスイ殿に力を示す機会が与えられました」
グライとか言うヤツの名前を出す時うっとりと心酔していた。大丈夫か、この子?
「ヒスイ殿にはこれより私に同行していただき、窃盗団を捕まえていただきます」
「………ん?」
トーカを拘束したやら俺を隔離しろやら色々ありすぎて混乱していたが、え?つまりどういうことだ?
「え〜っと。つまりヒスイくんが窃盗団を捕まえるくらい強ければ、隔離しないしトーカも帰ってくるってこと?」
「そういうことですね」
クキがわかりやすくまとめてくれた。なるほど。そういうことか。いや、なんか勝手に決められてて納得はいかないけど。
「ヒスイくんだけじゃ心配だよ。俺も行く」
「あなたは戦闘員ではないでしょう。それに私は結構強いですよ。安心してください」
胸を張って言われるが、小さな体でされてもあまり説得力がない。
「さあヒスイ殿。すぐに出発しますよ。準備してください」
「え?いや、え?」
「何をモタモタしてるんですか。トーカ殿が心配ではないのですか?」
「は?いや」
「今まで散々守ってもらって、今こそ恩を返す時でしょう」
「お、おん」
「それともあなたは誰かに守ってもらわないと何もできない弱虫なんですか?」
「よ、弱虫?」
「ヤドの庇護に頼らずとも人を救いたいなんて口だけなんですか?」
「………あー!もう!」
なんなんだよ、この子。地味に腹立つんだけど!微妙〜に痛いところを突いてくるんだけど!
「わかった!行くよ!行けばいいんだろ!」
「えっ?ちょっと、ヒスイくん!」
クキが慌てて俺を止めようとするが、振り切って部屋に戻りナイフとブレスレットを持って戻ってきた。
「ほら!用意できたぞ!」
「ふむ。やる気満足ですね。では参りましょう」
「クキ!すぐ戻るから待ってて!」
ちょっと!とクキが手を伸ばそうとした瞬間。俺の体が宙に浮いた。
気づくとグリーズが俺を肩に担いでいた。
「ではクキ殿。終わり次第ヒスイ殿はお返ししますので」
そのまま玄関の扉を開けて外に出る。
グリーズが俺を担いだまま猛スピードで駆け出した。
「またこのパターンかぁぁぁぁぁぁ」
叫び声は風に乗って消えていった。
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