第23話 その優しさを
ジン達が去りトーカと2人きりになった。
「トーカ。ごめん。俺、足手纏いになって………」
見上げたトーカは苦しそうな表情をしていた。
「………お前が無事で良かった。通信ができなくなった時はどうしようかと……」
泣きそうな顔だ。そんな顔をさせてしまったことが何よりツラい。
「………ごめん………」
「………今回のことを相談しに行かないといけなしい、今夜はどこかに泊まろうか。そんな血まみれじゃアジトに帰れないしね」
トーカの表情が優しい笑顔に戻る。
改めて自分の姿を見てみる。ジンの戦闘で浴びた血があちこちについている。先程までのことを思い出して体が震えてきた。
「……何があったのかは後で聞くよ。まずは体を休めないと」
トーカに手を引かれ歩く。ああ、この手は温かい。ジンのことを何度もトーカに似てると感じたけど、手の温かさは全然違っていた。
「ヒスイく〜ん!久しぶり!会いたかったよ!」
トーカに今夜泊まるところだと連れてこられたのは懐かしの隠れ家だった。
「ここは…」とトーカに聞こうとした瞬間、扉が開いてクキが抱きついてきた。
「クキ……苦しい……離して……」
喜びのあまり力いっぱい抱きしめられる。嬉しいけど、潰れる。まじで。
「ごめんごめん。嬉しくてつい。疲れただろう。さあ入って入って」
慌てて俺を離したクキに背中を押されて家の中に入る。後ろでトーカが「俺はほったらかしか」と文句を言っていたが、完全に無視されていた。
汚れたままじゃイヤだろうと、ひとまず風呂に放り込まれる。血まみれの服を脱いで体を洗うと少し気持ちが落ち着いた。
リビングに戻るとホットミルクが用意されていた。甘い匂いがする。
「まずは飲んで落ち着こうか」
一口飲んでみると、口の中に優しい甘さが広がった。初めて経験する味だ。
「おいしい………」
「でしょ〜?花の蜜を少し淹れてあるんだ。俺のとっておき。高級品なんだよ」
そんなもん隠してたのかとトーカが呆れる。あらバレた?とおどけるクキに笑いが溢れる。
笑いながらポロポロと涙が出てきた。
「あれ?ごめん。なんでだろう。止まらない」
手で拭っても拭っても涙が溢れてくる。
クキが横にきてそっと抱きしめてくれた。
「ツラい思いをしたんだね。よく頑張ったね。もう大丈夫。ヒスイくんは帰ってきたんだよ」
優しい言葉に涙が止まらない。クキの体温に安心して、声をあげて泣いてしまった。
向かいのソファでトーカが苦しそうな顔をしていた。
「なるほど。今回はジンに軍が利用されたということだな」
ひとしきり泣いて落ち着いた俺は、トーカに離れていた間のことを話した。
「鎮圧作戦は失敗ってこと?」
俺の隣でクキが質問する。泣き止んだので抱きしめるのはやめたが、心配なのか俺の横にピタッとくっついている。
「いや。どうだろうな。中心になって暴れてたヤツらは捕まったわけだし、ジンの話だと違う組織として活動するみたいだしな。内容によっては軍はうちみたいに見逃すかもしれない」
「ジンってどんなヤツだったの?」
クキに聞かれて、ずっと笑みを浮かべてたあの姿を思い出す。
「どんなって……極端なヤツだったかな。人当たりは穏やかだし困ってる人弱い人はほっとけないって感じだったけど、悪いヤツとみなせば容赦ないというか。俺を襲ってきたヤツらを殺した時も、そこまでしなくてもって思ったけどアイツには甘いって言われたし」
トーカが難しい顔をしている。クキは優しく笑って俺を撫でてくれた。
「ヒスイくんは優しい子だからね。難しい問題だけど、俺はその優しさを大事にしてほしいな」
「………ジンにも優しいねって言われた。怪我を手当した時に。それでグループに入らないかって」
クキが「ええ⁉︎」と大声で驚く。トーカも目を丸くしていた。
「もちろん断ったよ。俺にはここがあるから。居場所はもうあるって言った」
2人がふーっと息を吐く。もう少し信じてくれてもいいんじゃないか?
「そうか。でもジンの手当てまでしてあげたんだね。ホントに優しい子だよ。そりゃ、ジンも仲間に欲しくなるわけだ」
クキに頭をクシャクシャと撫でられる。トーカは優しい目をしてこっちを見ていた。
「さて、軍の動きはともかくとして、うちがどうするかを話し合いに行かないとな」
「お偉方と会議だねぇ。うわ〜。めんどくさそう。お疲れさま」
「会議ってどんなヤツが来るんだ?そもそもうちの組織ってどうなってるんだ?」
素朴な疑問にクキがニヤニヤしてトーカを見る。トーカはめんどくさそうな顔をしている。
「組織のトップがいて、あとは5人の幹部がいる。基本は幹部の指示で作戦ごとに人が集められて動くようになってる。俺は特殊だからそこからは外れて動いてるけどな。他には事務担当やらアジト担当やらラボやらが独立して存在してる。今回はトップと幹部達との話し合いになるな」
人数多そうだとは思ってたけど、やっぱり大所帯なんだな。
「なんかややこしそうだな」
「だよね〜。俺は絶対行きたくない」
「言うなよ。ただでさえアイツらに会うの憂鬱なんだから」
心底イヤそうな顔をしている。よっぽど行きたくないんだな。
「そう言えば、ジンが言ってたテラスタワーの秘密って何なんだ?今回の話し合いで重要になるんだろ」
トーカがかたまる。クキはう〜んと唸って困った顔をしていた。
「テラスタワーについては会議が終わったら話す。それまでは待っていてくれ」
珍しく真剣な物言いのトーカに何も言えず頷く。そのまま話は終わりとなり、俺は食事の用意を手伝うためにクキとキッチンに向かった。
トーカは会議の連絡をするために部屋へ向かう。その顔はいつもより険しい表情をしていた。
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