第11話 突然ですが風邪をひきました

「う〜あつい〜」

「熱が高いね。疲れがでたかな」


見せられた体温計の数値は38度。どうりでダルいはずだ。子供達の失踪事件を解決して、昨夜遅くに帰宅した時は何ともなかったのに


「俺は昨日の報告があるから出るけど、なるべく早く帰るようにするよ。誰かについててもらうかい?」

「大丈夫」

「みんなには熱があること伝えとくから、ゆっくり寝なよ」


お大事にと静かに扉を閉める音を聞いて、脱力する。トーカは心配してたがそんなに重症じゃない。ダルさはあるが寝てれば治りそうだ。




トントントン。

うとうとしかけたところで扉がノックされた。


「ヒスイ〜。風邪だって?大丈夫か?」

「朝ごはん持ってきたよ〜」


イッカとウノだ。返事をすると勢いよく部屋に入ってきた。


「うっわ。顔赤いな」

「ご飯食べれそう?」


起き上がるとウノがお盆にのった食事を見せてくれた。いつもなら喜んで食べるけど、今日は食欲がない。水だけもらうことにした。


「夜中に帰ってきたって聞いたから朝一で部屋に行こうと思ってたのに。熱が出たって?今回は怪我とかしてないだろうな」


イッカに体のあちこち調べられる。今回は大丈夫だよと言ってもなかなか信じてもらえない。一通り調べると納得したのか、やっと解放してもらえた。


「でも熱が出るなんて、やっぱりキツイ仕事だったんじゃないの。トーカさんに聞いても何も教えてくれないし」

「熱があることだけ伝えたらサーっと去ってったんだぜ。冷たいよな」


相変わらずトーカの人気はだだ下がりだな。

仕事の内容や忙しさを考えると気の毒な気もするが、まあ普段の行いが悪い。


「大丈夫。俺はほとんど何もしてないし、慣れないことだったから疲れただけだよ」


肉体よりも精神的なダメージのほうが凄いし。熱が下がったら考えることがたくさんあるな。


「お前はそう言うけどさ〜。まあ今は体調を回復するのが優先だな。また昼飯の時に来るよ。それまでゆっくり休めよ」

「何かあったらこれを軽く握ってね。学校に伝わるようになってるから」


失踪事件で使った玉と同じ玉を渡される。こないだのは黄色だったが、これは緑だ。連絡機みたいな使い方もできるのか。


「ありがとう。ゆっくり休むよ」


おやすみ〜と扉を閉める2人に手を振って、再び横になる。気づくと眠りに落ちていた。




トントン。

再び扉を叩く音で目を覚ます。

今度はソアラが様子を見にきていた。


「熱が高いと聞いたよ。薬はいらないかい?解熱剤ならあるんだけど」

「ありがとう。とりあえずは寝てれば大丈夫だよ」

「そうかい。全くトーカには困ったものだ。熱が出るまで連れ回すなんて。もう一度話をしないといけないね」


目がこわい。トーカはまた散々しぼられるんだろうな。関わりたくないから聞かないけど。


「病人の安静を妨げてはいけないね。私は学校に戻るから、何かいるものがあれば遠慮なく言うんだよ」

「ありがとう」


微笑みながら去るソアラを見送って、三度ベッドに潜る。さあ、昼飯までゆっくり寝るぞ。




ヒスイにいちゃん〜。

子供達の声がして目を覚ます。なんだ?と部屋を見ると子供達が大量に侵入していた。


「あ、にいちゃん起きた。お熱大丈夫?」

「お花摘んできたから、お布団におくね」

「あたしはこないだもらったお菓子もってきた」


わらわらとベッドのまわりで自由に動き回っている。


「お前たち、なんでここに………?」

「お兄ちゃんお熱って聞いて心配したの」

「学校もずっと来ないから寂しかったの」

「だからみんなでお見舞い行こうって」


か……可愛い。天使がいる。ここは天国なんかな。俺、熱で死んだのかな。


「早く元気になってね〜」

「ね〜」


子供達の可愛さにノックアウトされてると、ソアラが慌てて部屋にやってきた。


「こんなところに!ヒスイ君は体調が悪いんだから起こしてはいけません!」

「でも会いたかったんだもん」

「先生だけお見舞いズルい〜」

「気持ちはわかりますが、病人に無理をさせてはいけません。さあ、戻りますよ」


おにいちゃんバイバ〜イと可愛い手を振る子供達にありがとうと伝える。今度こそと横になろうとした瞬間、イッカとウノが昼飯を持ってきた。

………もうそんな時間なのか。




その後も来訪者は後を絶たなかった。

昼飯もあまり食べれなかったので料理担当がおかゆでも作ろうかと聞きにきたり。

備品整理をしてた人が毛布いるか?と持ってきたり。

ジャガイモさんが風邪に効くとジャガイモ料理を作ってきたり。

そして今はアルアが来ている。




なぜだろう。難しい表情をしている。威圧感が凄い。


「あの……どうしたんですか?」

「………先の任務での活躍は聞いている。よく やった」

「……ありがとうございます」


まあアルアの運転する車で話をしてたから、そりゃ全部筒抜けだよね。


「しかし……任務の疲れで熱を出すとは……。私の鍛え方が甘かったのだな」


嫌な予感がする……。


「いや、そんなことは」

「だが安心しろ!今回のことを踏まえて新たなトレーニングメニューを考えた!体調が戻り次第すぐに取り掛かりたまえ!」


ああ、やっぱり……。

トレーニングメニューの書かれた紙を目の前に突きつけられ、確認しておくように!と机に置かれた。そのまま用は済んだとばかりにキビキビした動きでアルアは去っていった。

机に残された紙を呆然と眺めていると、イッカとウノが夕飯を持ってきた。

……結局ほとんど寝れなかったな。




宣言通りトーカは夕飯の終わる頃には帰ってきた。

夕飯は全て食べれたのでイッカとウノが喜んで部屋を去ろうとしてたのだが、お盆を持って出る2人に扉ですれ違いざま思いっきり睨まれていた。ちょっと笑ってしまう。


「なんかまた俺の好感度が下がってる気がするんだけど」

「自業自得」

「はあ〜。今度はかくれんぼでも企画しようかな」

「鬼ごっこの失敗を忘れたのか」

「今度は成功するかもしれないじゃないか」


なぜこの男は同じ轍を踏もうとするのか。反省という言葉を知らないのだろうか。


「熱はまだありそうだけど、顔色は良くなったね」


額に手を当てて熱を確認される。


「まあ、特効薬をたくさんもらったからな」


ニッと笑うとトーカは意味を察して同じ笑いを返してくる。


「それは良かったね。じゃあ早く元気になってお礼を言わないと。今夜はぐっすり眠りなさい」

「そうだな。もう寝るよ」


布団に潜り込みながらある事に気づいてトーカへ声をかける。


「言い忘れてた。おかえり」

「………ああ。ただいま」


そのまま「おやすみ〜」と完全に布団をかぶってしまったが、「おやすみ」と返すトーカの声はなんだか嬉しそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る