第10話 共犯
子供達を攫っていたのは教会の過激派の人間達だったらしい。
過激派というのは、教会がもつ技術の軍事転用を進めて教会による独裁を目指すヤツららしい。そいつらが作った武器の実験をするために子供達を使っていた、というのが今回の事件の真相らしい。
「教会側からしても過激派はやっかいな存在だからね。始末しようと動く前にせめて子供達だけでも逃がそうと仲間が向かったんだけど、子供達はみんな実験で亡くなっててね………」
「そうか………」
「そのあとは教会の人間がきたから過激派のことは教会に任せて、避難してる子供達の保護を優先してもらった。避難先の近くに潜んでた俺に合流してもらってね」
「そう………ん?避難先の近くに潜んでた?」
「うん」
ちょっと待て!
『敵のトコに乗り込む』『ここは頼んだ』って言ったよな!
「全部ウソだったのか!」
「いや〜。避難場所一ヶ所にかたまるより、伏兵もいたほうがいいかなって」
「にしたって、言ってくれてもいいだろ!」
「まあまあ。お前と子供達だけだったから、ゆっくり話せて子供達も安心できたんだろ。お手柄じゃないか」
「それは…そうだけど」
確かにトーカがいたら甘えてしまってたかもしれない。あいつらは俺が守るんだという気持ちがあったから頑張れたのかも。
「にしたって、敵が来た時にすぐ来なかったのは何でだよ」
「それはヒスイがどれくらい強くなったか見ようかと思ってね〜。頑張ってたじゃないか」
「どんなスパルタだよ。………アイツは何なんだ」
侵入してきた男を思い出す。人を殺すことに何の戸惑いもない、恐ろしい目をしていた。
「アイツはハイルって言って、教会の汚れ仕事担当。造反者やら教会に害を為す人間をバッサバッサ殺しまわってる怖いヤツだよ。しかもなかなかに強い。お前、よく戦ったね」
「そんなヤツが来たのに様子見してたのかよ。あれ?でもそいつとちょっとでもやりあえたってことは、俺も少しは強くなってる?」
「いや、閃光弾で目が眩んでたからだと思うよ。でなきゃ君なんて一瞬でやられてたさ」
「……厳しい現実をありがとう。あれは閃光弾って言うのか」
「そ。アジトにある玉の改良版。あそこに入ってるエネルギーを道具に入れ替えることで、色々なことができるんだよ。その道具を作る技術に優れてるのが教会なのさ」
「だから軍事転用ってことか」
大体の事件の真相はわかった。
ただ、もう一つ。どうしても聞かないといけないことが残っている。
「トーカはナズの兄貴なのか?」
「いえ、違います」
「……違う…」
物凄い真顔で返された。
「でもアイツがヤドの兄って!」
「ヤドの兄ってのは本当だよ。先代のだけどね」
「先代?」
そういえば、ヤドは10年ごとに交代するって言ってたっけ。
「そっ。だから俺はナズ君の1つ前のヤドの兄ってこと」
「ヤドに兄弟がいるのか?」
「いるよ〜。ヤドも人の子だもん。まあ産まれてすぐヤドに選ばれて家族と引き離されるから、ほぼ会ったことはないけどね」
「ヤドってどうやって選ばれるんだ?」
「教会にヤドを輩出する一族があってね。そこに子供が産まれると例外なく適性があるか調べられるんだよ」
「ふ〜ん……ん?てことは、トーカもその一族なのか?教会の人間なのか?」
「そうだよ。10年前に家出しちゃったけど」
「なんで!」
「え〜。そこは、まあ今度でいいじゃない。なんでハイルがあっさり手を引いたかのほうが気になるでしょ」
いや、お前の経緯のほうが気になるんだけど。
でもこうなったらトーカは意地でも話してくれないしな。
「ヤドの家族ってね。すっごい手厚く教会に保護されるの。何でだと思う?」
「え?ヤドをこの世に生み出したからとか?」
「正解はヤドの機嫌を損ねないため。ヤドは10年間の役目に入ると世界を自分の好きにできる力を持つわけでしょ。まあその状態のヤドに自我があるのかもよくわからないんだけど、無いとも言い切れない。だから家族や大切な人間に何かあれば世界をコントロールするのをやめて滅亡に導くかもしれない」
「だからヤドの大切な人間は保護者しないといけないってことか」
「そ。産まれてすぐ引き離されるから情なんてあるかもわかんないのにさ。教会ってのは臆病なんだよね。自分達の手に負えないものを無理矢理使ってるからだね」
「前に教会はお前に手を出せないって言ってたのはそのためか。そしてナズに代替わりしたから、お前はもう用無しと」
「だからお前が代わりにならないかと思ったんだよね。実際ナズの名前を知ってたことでハイルは手を引いたし」
「うわ〜。俺、めちゃくちゃ利用されてんな」
物凄く嫌そうな顔をしてるのが自分でもわかる。
まさかあの車でのことがそこまで影響力を持つとは。
「これからも利用させてもらうよ〜。俺の仕事を手伝うって覚悟を決めてくれたんだからね。じゃんじゃん教会への脅しに使わせてもらいます!」
「下心を全く隠す気がなくていっそ清々しいな。まあ乗りかかった船だ。何とでもしてくれ」
「頼もしいねぇ!さすが俺の相棒!」
「お前のふてぶてしさには負けるよ。相棒」
顔を見合わせて笑いあう。
トーカのことは謎も多いし信用もできない。
でも相棒って言葉がしっくりくるくらいには、お互い認め合えるようになったと感じていた。
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