第160話 夫婦のように
<SIDE 愛羅>
いつも通りメイクやセットを終えたあーしは一足先にスタジオに入った。
「よろしくお願いしまーす!」
「よろしくー!」
「よろよろ」
「今日もよろしくね、愛羅ちゃん」
スタッフの人達と挨拶を交わして行くと―――
「いつもより輝いて見えるわね」
「愛羅ちゃん可愛いー!」
「今日もバッチリきまってるわよ」
シグシグとサクサク、ルーナさんもこちらでスタンバイしていて、ルーナさんはカメラマンと打ち合わせしていたみたい。
「にしし、あんがと!」
「さて、あとはユッキー君を待つだけね」
「すぐ来ると思いますよ!」
「だと良いわね。時は金なり。時間は有限なのよねー。いつもは男性が気が乗らないだの、それは着ないだの、こっちの注文を聞いてくれずに、無駄に時間が掛かるからねぇ」
「ユッキーはそんなことしないですよ」
「あら? 男嫌いな愛羅ちゃんがユッキー君は信頼してるのね?」
「別にあーし男嫌いじゃないですけどね」
「そうかしら? 何人かの男に妻になれって言われたけど、全部蹴ったでしょ? 貴方」
「別に結婚とか興味ないだけですって」
「んもぅ、枯れてるんだから」
「一緒にいて楽しくない人と結婚して、養わないといけないなんて、あーしは嫌なだけです」
「ユッキー君は? ユッキー君はどうなの?」
「ユッキーは……マブダチです」
「マブダチねぇ? 男女間での友情なんて成立するのかしら?」
「しますよ! 実際ユッキーとは仲良しですし!」
「んふ、そう、その友情が変容した時が楽しみね」
「変容?」
「何れわかるわよ。何れね。」
「はぁ……?」
変容―――あーしとユッキーの友情がどう変容するって思ってんだろ?
悪化した時……ケンカでもした時のことを言ってんのかな?
「あらん、思ったよりも早かったわね。撮影の時間が確保出来て助かるわ」
ルーナさんが入口の方を向いて呟いたので、あーしも入口へ視線を向けた。
そこにはいつもと違うユッキーがいた。
いつもと違う感じに髪がセットされていて、衣装もめっちゃオシャレに着こなしていて―――
「おぉー、ここが撮影スタジオかー」
「お兄ちゃんキョロキョロしない方がいいと思うよ」
「初めて来たんだから仕方ないだろ? 初めての場所ってちょっとワクワクしないか?」
「しない」
「夢も希望もねぇな」
……にしし! 見た目は違ってもユッキーはユッキーだ!
「ユッキー! こっちこっち!」
「おぉ! いつも以上に可愛いな愛羅!」
「にしし! ユッキーもカッコいいよ!」
「ハハ、馬子にも衣装って感じだと思うけどな」
そうかな? いつもシグシグとかサクサクの尻に敷かれてるけど、カッコいい時とかけっこうあると思うんだけどなぁー。
バスケの時のあの真剣な表情とかカッコよくて……
?
カッコよくて…………なんだろう、この気持ち?
「雪、似合ってるわよ。写真撮るからこっち向いて頂戴。携帯の待ち受けにしたいから」
「雪君こっちもこっちも!」
「時雨姉も雌猫姉桜も撮影後にしたら? みんな待ってるよ」
「貴方、自分だけ先に撮ったわね」
「海ちゃんが撮った写真あとで送ってね?」
「はいはい! ユッキー君がカッコいいのは良いけど、先に仕事させて頂戴。 色々撮らないといけないんだから。カメラマンの横でフラッシュを焚かずに撮っていいから、ね? 奥さん達。愛羅ちゃんも仕事よ」
ハッ!? 何考えてたんだろあーし。
「は、はい!」
ここからはちゃんと集中しなくちゃ!
「じゃあ、まずはユッキー君と並んで」
「「はい」」
そこからルーナさんの指示であーし達はポーズを決めたり、衣装を着替えたりして撮影を続けた。
指示の中には手を繋いだり、微笑み合ったりする場面があった。
「愛羅と手を繋ぐって新鮮だな」
「わかる。基本シグシグとサクサクがベッタリだから、こんな距離も久しぶりな感じすんね」
「そうだな。入学式の王様ゲーム以来か、いや、合宿で一緒にお風呂に入ったな」
「あっはは! あったねそんなこと」
「愛羅は茹でダコみたいになって、そのまま寝たけどな」
「あれは恥ずいって!」
「それに比べたら、楽勝だろ?」
「比べるレベルが違いすぎっしょ! 天と地の差があるし!」
「あの微笑んでって言っただけで、そんな諸事を赤裸々に話せって言ってないんだけど?」
「「あっ」」
「はは、すみません」
「サーセーン!」
いつもなら男の子が拒否したり、別のポーズを言ってきたりするんだけど、ユッキーは言われるがまま動いてくれる。
下着姿で抱きついたこともあるから、手を繋いだり、見つめ合ったりするぐらいどうってことない。
なんなら昨日もっとすごいことあーしの前でしてたけど……
ユッキーならそういうシーンでも撮影OKするんじゃ……いや、流石にそこまではないよね?
「良いわよ2人とも! 完璧よ! 次は1人で撮らせてもらうわ。まずはユッキー君から」
「わかりました」
今度は1人で撮る番。
ここもいつもなら時間が掛かって、携帯弄りながら時間潰すんだけど、ユッキーはルーナさんやカメラマンの指示に従って動いている。
ただ―――笑顔がいつもより固いというかぎこち無いというか―――
「ユッキー笑顔が固いよ!」
「笑顔固いって言われてもなぁ。自然な笑顔って難しくないか? こうか?」
「くっくっく、だから指で口角押し上げても変顔にしかならないって!」
「愛羅、俺を笑わせてくれ」
無茶振りすぎっしょ!?
そんな無茶振りする子にはあれしかないね。
あーしはユッキーに近づいて―――
「あははははははは! ちょ!? 擽るのはやめ!?」
「ほらほら! 笑えてるでしょ!」
「ず、ずる、あははははは!」
**********
<SIDE 福屋鳴>
「……もう恋愛漫画の主人公とヒロインみたいな間柄じゃない」
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