第158話 バイト
飲み物が売ってないかみんなに相談して、キッチンカーに行こうとしたところで―――
「あら? 愛羅ちゃんじゃない。こんにちわ」
「あっ! こんにちわ! 栞さん!」
知らない女性が愛羅に気付き、こちらにやってきた。
「愛羅ちゃんも早速ここに来たのね!」
「はい! 友達と一緒にランニングしてたんですけど、景色がめっちゃ良くてテンション爆上げ! って感じでした!」
「ふふふ、よかったわ。それで愛羅ちゃんの友達ってこの子た……お、男の子?」
「はい、男の子の友達とその奥さん達と一緒にランニングしてました!」
「そ、そう。男の子の友人もいるなんて顔が広いわね」
「いやー、男の子でちゃんと友達なのはユッキーくらいですよ」
「奥さん達の前でも愛称で呼ぶ間柄……えっと、初めまして、愛羅ちゃんの事務所で働いてる
「初めまして、大淀雪です。いつも愛羅がお世話になってます」
「いやいや、その言い方だとあーしのお母さんみたいになってるよ」
「男なんだからそこはお父さんだろ」
「それはそう。いや、そういうことじゃなくない?」
「こういった場合どう挨拶する方がいいんだ?」
「普通に、ユッキーでーす。しくよろ!って言えばいいじゃん」
「そんなパリピに見えるか俺が? ただのモブ男だぞ」
「ユッキーをモブ男にするなら世界中の男の子に、ごめんなさいしなくちゃいけないと思うよ」
「マジかよ。世界中の皆さんごめんなさい」
「謝れて偉いねユッキー!」
「貴方達は何で喋るとすぐ漫才になるのよ……福屋さん困ってるわよ」
愛羅と即興コントをしているとジト目の時雨にツッコまれた。
そして福屋さんはポカンとした顔で俺と愛羅を見ている。
「……とまぁ、こんな感じで友人やらせてもらってます」
「マブダチでーす!」
「はぁー……こんな子初めて見たわ。愛羅ちゃんも愛羅ちゃんだけど、この大淀君も大概ね」
「ん? あーし褒められてる?」
「違うと思うぞ」
「やっぱし?」
「……ねぇ、大淀君。ちょっと笑ってもらえる?」
「笑う? えっーと―――ニコッ!」
普段笑顔の練習なんてしてないから、急に言われても困るが、なんとなくでやってみた。
「ユッキー、もっと口角上げないと」
もっと口角を上げろと言われてもなぁ?
指で両端を上げてやるか。
「ぶふっ、くっくっく、い、いいと思うよ?」
「絶対ブサイク顔になってんだろこれ」
「あ、愛嬌があると思うよ」
「ふふ、そうね。爽やかさは皆無ね」
「雪君、顔芸やってる?」
「ユッキー、ナイス変顔!」
「やれって言ったのは愛羅だろ!」
完全にやり損である。
「そこまで極端に上げろとは言ってないよ!」
「なら、お手本見せてくれよ?」
「ニコッー!」
……ズルい。
可愛い子の笑顔は反則だと思う。
めちゃくちゃ可愛い。
可愛すぎて直視するとニヤけるレベルだ。
「くっ……可愛い」
「……へへ、なんかめっちゃ照れんね」
愛羅もちょっと照れくさそうだ。
「ふむ……ねぇ、大淀君。ちょっとだけモデルやってみない?」
「「「「えっ?」」」」
「はい? お、俺がですか? 俺別にイケメンとかじゃないですよ?」
「確かにカッコいい訳じゃないけど、自然な笑顔が出来てるし、妻じゃない女の子とも仲良く出来そうよね? 何より私と普通に一対一で会話出来ているもの」
「コミュニケーションは問題ないと思いますが、それだけでなんとかなるもんですか?」
「出来るわ。だって男の子ですもの」
モデルのハードル低くない……?
「それで、どうかしら? ちゃんと給料も出すわよ?」
「えーっと……」
わかっている。
ここで、はいと返事をして決めると怒られるので、海、時雨、桜の方を見る。
「お兄ちゃんが雑誌に載るなら記念になるから欲しいけど、お兄ちゃんが他の雌猫に狙われる可能性が……」
「ファッションモデルと言うことは、雪に似合う服を選んで貰えるってことよね。私たちが選ぶよりもプロの人に見てもらったほうが、絶対にいいわ。けど、雑誌に載ると発情した女がまた無駄に集まりそうよね……」
「……1回だけならいいんじゃないかな? 私も雪君が載った雑誌欲しいし」
「……今回だけね」
「そうね、1回だけにしておきましょ」
「よし! 奥さんたちの了承も得られたし、明日来て頂戴」
「明日ですか? 急ですね」
「決めたら、即行動が信条なのよ。本当は今日私も休みなんだけど、こうしちゃいられないわ。後で愛羅ちゃんに場所と時間伝えるからよろしくね? それじゃ!」
福屋さんはそれだけ言うと駆け足でどこかへ走っていってしまった。
「いやー、まさかここで栞さんに会うと思わなかったし、なんならユッキーが誘われるとは思わなかったよ」
「ファッションモデルかー……俺出来るかな?」
「ユッキーなら普通にしてれば大丈夫だと思うよ。カメラマンとか事務所の指示聞いてポーズしとけばいいだけだし」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんそんなもん!」
……なんか改めて考えると割と恥ずかしい気がしてきたが、もう遅いか。
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