第152話 違う! そうじゃない!


 ブザービーター。

 

 今までバスケはしてたけど、ブザービーターは初めてだ。

 勝利自体も嬉しいがこっちも地味に嬉しい。

 

 俺のシュートが決まると同時に、体育館の窓ガラスを割れんばかりの歓声が俺達に押し寄せた。

 ザワザワと聞こえてくる声には耳を傾けると―――


「男の子のチームが勝っちゃった!」

「めっちゃカッコよかった! 周りの子は妻? まだ妻枠空いてるかな?!」

「あの男の子誰!?」

「知らないの? 大淀雪よ! 会長が生徒に勧誘してるって!」


 俺のことばかりを見ているかと思えば―――


「赤髪の子、どこの部の子? 見たことないけど、もしかして一年とか帰宅部の子? 確保に動いて!」

「金髪の背が高い子のジャンプ力欲しい! 我がバレー部に勧誘しないと!」

「あの青髪の子、目立たなかったけど、けっこういい動きじゃなかった? どこかに拾われる前に―――」


 と、時雨や桜や清香も部活の子に目を着けられたようだ。

 他に聞こえて来た声で―――


「最後やばかったよね! あの距離入れちゃうんだもん!」


 最後の最後、入ったのは完全にマグレ、奇跡だ。

 

 ぶっちゃけ入るとは思っていなかった。


 だけど、そのマグレや奇跡を引き寄せた人物に俺は感謝の言葉を送りたい。

 割れんばかり歓声の中、俺はその人物に近づき―――


「愛羅!」


 俺は思わず、愛羅を抱きしめた。


「ゆ、ユッキー!?」


「ありがとう、愛羅! 愛羅のおかげで勝てたよ!」


「……ユッキーがあきらめなかったからだよ! その……カッコよかったよ!」


 抱きしめた愛羅が頬を赤く染めながらいつもと同じ様に、にししと笑いながら褒めてくれた。


「ちょっと雪、抱きしめるのは今回は許すけど、こっちも労りなさいな」

「雪君最後すごかったね! お姉ちゃんびっくりしちゃった!」

「流石御主人様です」


 俺たちが称え合っていると、他の三人もやって来た。

 愛羅と同じ様に、3人も抱きしめる。


「ありがとうな、皆。皆が頑張ってくれたから勝てたよ」


「報酬として帰りにアイス奢って頂戴。2人で別々の物頼んで食べ比べするわよ」

「アイスなのか? クレープとかじゃなくて」

「動いたから冷たいのがいいのよ。両方でもいいのよ?」

「なら両方しようか。あー、でも帰りが遅くなるか?」

「大丈夫よ。海には連絡しておいたから」

「そっか。なら海が拗ねることはないな」


「雪君、帰ったらいっぱいヨシヨシですね!」

「ははっ、なら俺も桜をヨシヨシしなきゃな!」

「はい! 色んなところヨシヨシしてあげますね!」

「ヨシヨシは頭だけで十分だぞ?」

「じゃあ、上はヨシヨシ、下はぎゅうぎゅうコースがいいかな?」

「それで!」

「ふふふ、はーい」


「御主人様、わたくしはあまり役に立てませんでしたが、勝利おめでとうございます」

「そんなことないぞ? 清香もインターセプトしたりしてたじゃないか」

「時雨様や桜様ほどの活躍は――」

「十分活躍してたよ。本当にありがとうな清香。今度埋め合わせできるように話つけとくから」

「……ありがとうございます。雪様は本当にお優しいですね」


 それぞれと報酬の話やお互いを称え合っていると、バスケの先輩もこちらもこちらにやってきた。


「やるじゃないか、大淀君。予想以上だったよ」


「先輩も強かったですよ。一緒に大会に行けなくて残念です。先輩たちとなら全国優勝も夢じゃないと思うんですけどね」


「何を言っている。一緒に全国行こうじゃないか!」


「えっ、俺バスケ出来るんですか!?」


「マネージャーとして!」


「それはちょっと……」


 自分はバスケが出来ないのに、試合だけ見るとか虚しさが増すわ!!


「もちろん、練習には参加していいよ? 機会があれば他校との練習試合にもねじ込めるように話をするよ?」


「それ全国関係ないですよね?」


「ダメかな……? 君が居てくれるとやる気上がる子がいるだろうし、部員も集まるだろうから」


「客寄せのマスコットになるつもりはないですよ……」


「君にもメリットがあるよ。部員の中から妻を探してもいいし、なんなら斡旋するよ? 2年で可愛い子、綺麗な子もしょうか「ちょっと待ったあああああ!!」!?」


 バスケ部の先輩と話していると、周りから部活動のユニフォームを来た子達が集まってきた。


「大淀君だよね? マネージャーならソフトボール部はどうかな!? 歓迎するよ!」

「バレー部にあの金髪の子と一緒にぜひ来てほしい! マネージャーとして気持ちよく参加できるように待遇は約束するから!」

「テニスに興味はありませんか!? 赤髪の子と一緒に入部して欲しいの! マネージャーで入部しても一緒にテニス出来るようにするから!」

「サッカーはどうですか!? 世界的に盛り上がっているサッカーで全国、いや世界を一緒に目指しましょう! マネージャーとして! 先程バスケしてた子全員一緒に入部させますよ?」


「いや、マネージャーじゃなくて普通に参加したいんですけど……」


「陸上部はどうだい!? 一緒に走ることは出来るよ! 赤髪の子と一緒に入って全国を目指そう!」

「あの、新体操などいかがでしょうか? 体が柔らかくなりますよ。あの青髪の子と一緒にぜひ」

「水泳部で一緒に泳ぎませんか? 泳げないのなら手取り足取り教えますよ? もちろん合間にマネージャーの仕事がありますが……」


「だからマネージャーじゃなくて部員としてですね―――」


「うちはマネージャーではなく、部の一員として参加できますよ!」


「!? 何部ですか?」


「美術部です!」


「残念ながら美的センスは……」


「もしかして文系も勧誘OK!? なら、ぜひ我が茶道部に来て頂けませんか!?」

「吹奏楽部はどうですか? 舞台で演奏を……」

「舞台というなら演劇部だろう! どうだい、大淀君。一緒に演劇しようじゃないか! もちろん部員として舞台に立たせて上げるし、ちゃんと練習するなら主役も任せるよ」

「あの、秘湯部に良ければ……一緒に温泉……」

「ヒヒヒ、オカルト研究部兼科学部はどう……?」


「運動部以外はちょっと……」


 今のところバスケ部以外に興味はない。

 というかオカルトと科学を一緒にするなよ……

 でも、秘湯部だけちょっと気になる!

 確実に将来の気分転換に役に立つだろ!


「ちょっと雪、逃げるわよ」

「雪君、ダッシュ!」

「ユッキー、逃げよ!」

「御主人様ここは危険です。逃げましょう」

「雪様、ここは引きましょう」

「我が伴侶、ここは『三十六計逃げるに如かず』だぞ」


 押し寄せる人の波を6人に守られながら、俺は体育館を後にした。

 

 うん……今後バスケは機会があった時だけにしよう……


**********


<体育館を去ったあとの声>


「っていうか、傍に居たの愛羅ちゃんだよね?」

「男の子の紹介は無理って言ってなかったっけ?」

「さり気なく交流持ってたってこと……?」

「今度紹介してもらうように聞きましょう」

「次会った時はフォーメンションAで確保よ」


「「了解!」」


 後日、愛羅が俺だけでなく他にも男性と交流があるんじゃないかと問いただされるのはまたの話……


★********★

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