第151話 ハーフタイム → やりたい放題
ハーフタイムが終わり、俺はパイプ椅子から腰を上げた。
体力は十分、気力は十二分だ。
この十分間にすべてを掛ける。
審判からボールを受け取り、清香にパスして前へ走る。
相手チームも先ほどより真剣な表情で待ち構えている。
フロントコートに入り、清香が時雨にパスを回すとコートに赤い閃光が現れた。
時雨は前半と違い、数段速い動きで相手を翻弄。
どこぞの赤い機体は三倍速いと聞くが、今の時雨にはその表現が当てはまるだろう。
フェイントを入れまくり、相手の隙を見て抜き去ったあと、ゴール下まで行きレイアップシュート。
ジャンプスピードも速く、相手がブロックするより先にはシュートを打つことでボールは難なく、くぐり抜けた。
打った本人は涼し気な顔でこちらに戻って来るが、ブロック出来なかった選手はポカンと時雨を眺めている。
「ッ! 返すよ!」
呆気に取られた選手をバスケの先輩が、呼びかけ引き戻すと、今度は相手が攻め込んでくる。
こちらのマークを引き剥がしながらパスを回そうとするが―――
バシン!
「くっ!」
「通しません」
清香がパスコースを読んでインターセプトに成功。
ボールが弾き飛ばされた。
弾かれたボールは愛羅が拾い、再度フロントコートへ。
そのままシュートを決めるかと思ったが―――
「させない!」
「ユッキー!」
愛羅をマークしていた選手が正面に立った……ので、俺にパスを回してきた。
注意が愛羅に向いていたお陰で俺はフリー。
スリーポイントラインから悠々とシュートを打ち、3点加算された。
現在スコアは13対20。
勝利も全然ありえる。
「速攻!」
バスケ部先輩が自コートから俺たちのコートに向けてロングパス。
鋭いボールはハーフラインを越え、攻め込んでいた選手に渡った。
ボールを受け取った選手がそのまま確実に点を取るため中に入り込み、シュートを決めようとするが、そうは問屋が卸さない。
バシン!
放たれたボールは桜がここ一番のジャンプ力を見せ、阻止。
バレーボールでスパイクを決めるようにボールを弾き、フロントコートまで戻す。
そしてまた、時雨がボールを拾うと相手のリング目掛けて走り出す。
相手選手もブロックしようと立ちはだかるが、今の時雨は止められない。
そのままシュートを放ち、ボールはリングに吸い込まれた。
このまま前半の取り返しを行いたかったが、相手も馬鹿ではない。
時雨にパスを回さないようにガッチリマークが入ってしまった。
それでも、ここから逆転してみせる!
そこからの7分間は正に激戦だった。
取ったら取り返され、取られたら取り返す。
お互い攻撃特化の形で、入り乱れる。
愛羅や清香も負けじとボールは奪われないようにして、的確にパス回しに徹する。
怒涛の攻め合いになってからは、桜もシュートを意識するようになり、拮抗している。
試合時間は残り30秒
点数は32対35
あと一歩!
時雨が果敢に攻めて、シュートを決めようとジャンプをした時、そうはさせまいと2人係でのブロック。
さすがにこの状態でシュートは―――かと思えば、予測していたのかシュートに使う手をボールの後ろではなく、正面に添えて後ろに打ち出した。
カバー出来るように後ろについてきてたけど、それは予想外だったな。
時雨からボールを受け取ると、俺はは冷静にシュートを放ち、ボールはリングをくぐった。
スリーポイントラインの外から放ったので3点。
これで同点だ!
時間は残り20秒。
勝利は目の前……!
そこに気の緩みがあったのかも知れない。
「ボールゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
くぐり抜けたボールはすぐに相手選手が拾い、エンドラインからパスを回し、コートを横断するロングパスがここで放たれた。
ボールは受け取るのはあのバスケの先輩だ。
「まずっ!?」
俺は全力で走った。
俺に遅れて桜と時雨も走り出しているが、遠い。
清香だけ後ろの方にいたので待ち構えることは出来たが、先輩は鮮やかにロールターンを決め、清香を抜き去り、リングに向かってレイアップシュートを打った。
ボールは上へ上がり、空中で僅かに停止するとそのまま落下してリングをくぐり抜けた。
残り時間は……あと8秒!?
最悪だ……あと8秒で取り返しは…………
諦めかけた俺に呼びかけたのは―――
「ユッキー!」
**********
<SIDE 愛羅>
ロングパスが投げられた瞬間、あーしはバックコートに向けて走り出していた。
先輩は諦めが悪いし、バスケには真剣って言ってたから。
キヨっちは後ろの方にいたから先に戻ることは出来たけど、先輩を止められない。
先輩はキヨっちを抜いてレイアップシュートを決めてみせた。
ボールがリングをくぐり抜け、バウンドする頃にはあーしも戻りきっていた。
「キヨっち! ボール!」
時間はない。でも諦めたくない!
せっかくユッキーや皆がここまで粘ったんだ!
あーしはキヨっちからボールを受け取り―――
「ユッキー!」
ユッキーにすぐにパスを回す。
残り……5秒!
相手コートにはこっちが3人、向こうは4人いる状況。
あーしがパスを回したけど、すぐにユッキーはマークされてしまった。
ユッキーがパスを回そうと周りを見るけど…………
シグシグに2人、サクサクにも1人ついていて、パスを回す余裕はない。
かと言って攻めようにも、ユッキーの位置はちょうどセンターサークルの外側辺り。
ゴールポストまで距離がある。
そうこう状況を把握している内に残り3秒。
手詰まり。
でも―――
ユッキーもあきらめていなかった。
センターサークルの外側……10m以上離れた距離でシュート体勢に入る。
さっきまで打っていたスリーポイントシュートよりも深く沈み――――急浮上!
飛び上がったユッキーはそのままシュートを打った。
ビーーーーー!!!
試合終了の合図。
ボールはユッキーの手を離れ―――
「入って!」
思わずあーしが叫ぶと、ボールは期待に応えてくれたのか―――
ボールは大きな放物線を描いて―――リングをくぐり抜けた。
その瞬間、体育館には歓喜の嵐と万雷の拍手が響き渡った。
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