第147話 練習試合
一度撃沈したあと、3人に励まされ復帰した俺は真面目に授業を受けて、迎えた放課後、バスケ部に向かう為に集まったのだが―――
「で、その3人も本当に来るのね」
時雨が視線を向ける先には、賛美とアリスと清香がいた。
今日はいつものメンバーに加え、愛羅と賛美とアリスと清香の7人で昼食をしたんだが、その時に愛羅に3人が一緒に付いてくることを許可して欲しいとお願いされた。
俺自身は許可も何も全然構わないが、俺が時雨と桜に頼み込む結果となった。
愛羅にはバスケ部に行った時に交渉を頼む手前、時雨と桜も断ることを憚られ3人とも一緒に来ることになった。
「雪様はバスケがお好きなのですか?」
「まぁな」
「流石我が伴侶! 体術も出来るとは流石だな」
「魔術と体術、両方極めてこそ最強だ!」
「御主人様は球技がお好きなのですか?」
「そうだな、割と好きだぞ」
「あんがとね、ユッキー!」
「お礼言われることじゃないけど、バスケ部に行ったら頼むぞ?」
「もち!」
そんな流れで7人の団体でバスケ部に向かうことになった。
教室を出て廊下を7人でゾロゾロと体育館に向かう。
「んで、ユッキーバスケがしたいって急にどったの?」
「最近家でゴロゴロしてばっかりだし、青春の汗流したいと思ってさ」
「ふーん? そういや、一緒にランニングする約束してたよね?」
「……入学前にしたな!」
「今度の土日どっちかどう?」
「OK!」
「勝手に約束しない!」
「雪君、メッ!」
時雨と桜に揃って叱られてしまった。
「待て待て! 以前約束したやつだから無効だろ!」
「明確な日時を約束してないから無効よ」
「雪君、お姉ちゃんとの約束破っちゃうのは悲しいなー?」
「シグシグもサクサクも、あの時聞いてたっしょ? 明確な返事はもらってないけど、ランニング位良くない? というか、不安なら一緒に走ればいいじゃん?」
「……そうね。 ランニング位ならいいわ」
「さんちゃんとナナちゃんと清香ちゃんはメッ、ですよ?」
さりげなく私もと目を向けていた3人は桜に釘を刺されてしまった。
「あー……、悪いな賛美、アリス、清香。次の機会にな? 相談しとくから」
「雪様、お願いします」
「ふむ……どのみち我に体術系は厳しいから今回は素直に引いておこう」
「ありがとうございます。御主人様」
愛羅とランニングの約束をして、3人をフォローしながら体育館に近づくに連れ、部活動をしている生徒たちの声が聞こえてくるようになった。
そして、いざ体育館に入ると広い体育館はネットで半分に仕切られ、半分はバレー用、半分はバスケ用に分けられているようだった。
だから俺達はバスケ用のコートでストレッチをしている人達に近づいた。
「あっ、先輩こんちわー!」
「ん? おっ! 愛羅ちゃん!」
愛羅が知り合いの先輩を見つけ、早速話しかけ始めた。
「愛羅ちゃん、この間はありがとう。先日教えてもらったスキンケア使ってみたけど、私の肌に合ったみたいだ。艶が増したようだよ」
「よかったー! ちゃんと先輩の肌に合ったみたいで」
「ふふふ、それで、今日は大勢でどうし……男の子?」
「はい! この男の子……ユッキーがバスケの部活動を見学したいって言ってたんで連れてきました!」
「ユッキー? もしかして噂の大淀君?」
バスケ部の先輩が俺のことを驚いた顔で見たので―――
「はい、大淀雪です。先輩よろしくお願いします」
俺は先輩に頭を下げて挨拶をすると―――
「……本当に、変わってるんだね大淀君は。紗理奈とか紫乃が気に入る訳だ」
「? 紗理奈先輩や紫乃のご友人ですか?」
「まぁね。紗理奈はともかく紫乃は紫乃って呼んでるだ?」
「えぇ、紫乃がそう呼べて」
「ふーん? 気に入られてるんだね」
「そうなんですか?」
「うん。紗理奈とかは基本好きに呼ばせてるけど、紫乃は気に入った人にしか名前を許してないからね」
「そうなんですね。嫌われてはないようなので良かったです」
「……ふふ、初めてこんなに男の子と喋ったよ。部活動の見学をしたいんだよね? じっくり見て行ってくれ」
「先輩、ユッキーが出来ればボールに触ってバスケがしたいって言ってるんですけど、少しだけシュートとかさせてもらえませんか?」
「大淀君が?」
「はい。俺バスケ好きなんで!」
「ほう……いいよ。部長と先生には私が言っておくから少しだけやるといい。今ストレッチしてるから、そのあと軽くランニングして練習を始めるから少しだけだけど」
「ありがとうございます! 愛羅もありがとう!」
「にしし! 良かったね、ユッキー」
ちょうどバスケ部員がボールが入ったカゴを持ってきていたので、先ほどの先輩がボールを1個こちらに放り投げてきた。
俺はそれを受け取り、ドリブルを始める。
ダムダムダム―――
懐かしい―――高校3年の最後の大会以来だな。
俺はそのままドリブルをして、ゴールポストを目指す。
そのままスリーポイントラインまで移動して、シュート―――!
ガン!
……リングに弾かれて外してしまった。 うーん、流石に一発では入らないか。
**********
<SIDE 愛羅>
ユッキーがシュートを外してボールを拾い直し、スリーポイントラインまで移動してシュートを繰り返し始めた。
最初は入らなかったシュートが何度かやっている内に徐々に入り始めた頃―――
「愛羅ちゃん、大淀君は昔からバスケしてたの?」
ボーっと眺めてると先輩が話しかけてきた。
「んえ? いやー、あーしも詳しくは知らないんですけど、今日バスケがどーしてもしたいから、付き合ってくれって言われて」
「そうなんだ? 彼、フォームがいいね。素人じゃないよ。しかもさっきからずっとスリーポイントラインでシュートしてるし、経験者っぽいけど誰かに習ってたのかな?」
「どうですかね……今度聞いときます!」
「男の子がバスケするだけでも珍しいのに、あのフォームに精度……女の子なら勧誘してるところだよ。立派なシューティングガードになりそうだ」
「あー……本人はバスケ部に入るつもりでしたけど、男子のバスケ部とかないよって言ったら絶望してましたよ」
「へぇ……本当に珍しいね。大淀君は本当に男の子なのかい? 男装とかじゃなくて」
「男ですよ! あ、先輩、図々しいお願いなんですけど……」
「ん? 改まってなんだい?」
「ユッキーが試合がしたいって言ってたんです。もしよかったら、少しでもいいんで試合に混ぜてあげたりとか出来ません?」
「……ふーん。おもしろそうじゃないか。進言してあげるよ。他の子も大淀君に釘付けのようだし?」
先輩に言われて周りを見渡すと皆動きを止めて、ユッキーのシュートを眺めていた。
改めてユッキーの顔を見てみると、真剣な表情をしていて……あーしの心がキュっとなった。
「うん、部活の勧誘にも使えそうだし、ぜひやろうじゃないか! でも、愛羅ちゃん」
「はい?」
「私これでも副部長だから、バスケには真剣だからね?」
先輩は真面目な顔をしてあーしを見てくるけど―――
「……真剣に相手してあげて欲しいです。きっとユッキーもそれを望んでると思います。あの顔見たら……」
「……そうだね。失言だったよ。ちょっと部員に言ってくる」
そう言って去っていく先輩を見送ったあと、あーしはまたユッキーの横顔を眺め直していた。
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