第133話  Money is power


「あら、貴方入学式の子よね? 本当にお姉ちゃんになっちゃったの?」

「? 皆さんお知り合いなんですか?」


 干菜さんは入学式に出会ったが、この中では凪さんだけが桜と初対面だ。


「うふふ、私も玄関で会って驚いちゃった」


「ドッキリ大成功です!」


 桜は胸を張ってドヤ顔をしているが……


「本当に桜が姉になるのか……?」


「そうだよ?」


「……男性保護省の姉妹プログラムで家に来たんだよな? 家庭に事情があるやつだけじゃないのか? 桜の家って家庭に問題があるのか?」


「別にないよ?」


「? じゃあどうやったんだよ?」


「お母さんにお願いして、男性保護省の人を札束で往復ビンタしたの!」


「か、金の力でなんとかなるのか……」

「……それ許されるの?」

「……成金雌猫」


「というか、家族の人はよく許したな?」


「んー、一応ね?」


「そ、そうか。まぁ、家族と問題なさそうで良かったよ。久しぶりだけど、もう足は大丈夫なのか?」


「走ったりはしないで言われてる」


「……さっきめっちゃ走ってきたよな?」


「嬉しくて♪」


「もう走るなよ?」


「痛くなったらおん……お姫様抱っこして?」


「任せろ」


「ちょっと雪、痛くなったら自業自得なんだから甘やかさないで頂戴」

「そうだよ、お兄ちゃん。成金雌猫に騙されちゃダメだよ?」


「いいじゃないか、家族になるんだし。恋人なんだから」


「「はぁー…………」」


 海と時雨が揃って深い溜め息をついた。


「何がダメなんだよ?」


「……お兄ちゃんの妻が増えて行くのが困る」


「どうせ妻増やさないといけないんだからいいだろ? 20前半までに5人だっけ?」


「24歳までに5人だよ。21歳までに3人ね」


「ならまだ余裕あるじゃないか」


「あのさーお兄ちゃん、高校に入って何日で妻が増えた?」


「えっと……桜に妻になってもらう話をしたのは合宿の時だから……んー2週間くらいか?」


「そのペースで行くと一ヶ月に妻が二人増えるよね? 一年で24人も増えるんだけど?」


「待て待て! そんな簡単に増えるわけないだろ!」


「あれだけ愛想振りまいといてよく言えるわね?」


「仲良くしてるだけだろ!?」


「お兄ちゃん、おっぱい大きい人から妻にしてって言われてハッキリと断れるの?」


「……知らない人から言われたら断るぞ?」


「クラスの子に毎日愛想振りまいてるけど、クラスの子から言われたらどうするつもり? ハッキリと断れるの?」


「……な、仲良くなければ?」


「「…………」」


 海と時雨の目からハイライトが消えて、俺のことを見てくる。


「だ、大丈夫だって! 仮に増えても多くなったら流石に無理って断るから!」


「そんなにポンポン増やさないでって言ってるの!」


「何で増やしちゃダメなんだよ!」


「お兄ちゃん、妻のこと大事にするって言うから皆と関わるようにするでしょ? そしたらイチャイチャする時間減るじゃん!」


「妻が増えたら、多少は減るだろうけど……まだ先の話だろ」


「この短期間に成金雌猫捕まえといてよく言えるね?」


「桜はほら、入学前から交流あったからさ?」


「その理論で行くと愛羅さんも増えそうなんだけど?」


「愛羅は……本人が結婚する気ないみたいだし、どうなるかわからんぞ?」


「えっ、そうなの?」


 海が真偽を確かめるために時雨を見ると―――


「中学卒業後にそんな話してたわね」


「そうなんだ? てっきりお兄ちゃんのこと狙ってると思ってた」


「そんなは話してたけど、オリエンテーションで雪の高層ビルをピカピカに磨いてたから怪しいわよ?」


「……お兄ちゃん?」


「いや、あれは「ハイハイ! そこまでにしましょ? 桜ちゃんが来たんだからお祝いしないと!」」


 そういえばそうだったな……

 母さんたちは俺と海と時雨が言い争っている間にテーブルに料理を並べてくれたようだ。

 凪さんと干菜さんは既に席に着いている。

 俺たちも席に着くと、凪さんと干菜さんが皆に飲み物が入ったグラスを渡していく。


「じゃあ、桜ちゃん、自己紹介と乾杯の音頭をお願いしてもいい?」


「はい! 改めまして、今日から雪君の真のお姉ちゃんになった桜です! 合宿の時に雪君に返事を貰って、姉兼第三夫人兼恋人になりました! 不束者ですが、今後ともよろしくお願いします! それでは―――カンパーイ!」


「「「カンパーイ!」」」


「乾杯」

「……乾杯」


 時雨と海はどこか納得がいかないようだが、母さん達にならって乾杯した。


「それにしてもよかったよ。桜と連絡取れないから心配してたんだ」


「お ね え ち ゃ ん !」


「はは、わかったわかった! 心配してたんだよ桜姉」


「連絡出来なくてゴメンね? ちょっと携帯壊れてて、直ったのが昨日だったの」


「そうだったのか」


「うん! だからあとで皆に返信しないと」


「にしても金の力で姉になるとは思わなかったよ」


「! そうだよお兄ちゃん! お金だよ!」


 海が唐突にそんな声をあげた。


「お金?」


「成金雌猫姉桜が金の力で家に来たってことは、成金雌猫姉桜の実家のお金を当てに出来るから、将来安泰だよ!」


「成金雌猫姉桜は長くないか……?」


「……そうね。桜が姉になるのはあれだけど、桜の家から金銭面で支援してもらえるとなると、将来みんなで住む家は簡単に手に入りそうね」


「あー、それは無理だよ」


「「えっ?」」


 海と時雨の期待を桜がバッサリ切り捨てた。


「家族と話をして神藤家の財産を今後当てにしないって話をしたから」


「何してんのさ! 貧乏雌猫姉桜!」

「何の為に姉になったのよ!」


「でも、その方が時雨ちゃん的にも海ちゃん的にもいいと思うよ?」


「どういうこと?」


「見返り無しにそんなお金動かせる訳ないよね? そんなことしたら、私のお姉様2人と雪君結婚することになると思うよ? それどころか、雪君を餌に見返りを求めて、色んな企業の偉い人と合コンセッティングされることになるけど……それでもいい?」


「良くないよ!」

「良くないわ」


「でしょ? だから、実家の支援は受けないことにしたの。でも……」


「でも?」


「別に家族のこと嫌いな訳じゃないから、定期的に帰ることになってるんだけど、その時に雪君も連れて行きたいの!」


「ダメ」

「ダメよ」


「どうして? 家族に紹介したいだけだよ?」


「何か企んでるでしょ? 桜のことだから」


「うん。企んではいるよ」


「素直に吐くんだ? スパイ雌猫姉桜なのに」


「私は雪君の味方だからね! 家族との話し合いで神藤家の財産は当てにできないけど、個人的に仲良くなって優遇してもらうことは出来るんじゃないかなって?」


「つまり?」


「雪君が私の家族と仲良くなったら、何かしらの恩恵はあるんじゃないかな?」


「でもそれってお兄ちゃんが、スパイ雌猫姉桜の姉と仲良くするってことでしょ? そのお姉さんは結婚してるの?」


「してないよ」


「なら狙われるじゃん!」


「でも雪君はお姉様たちのことは選ばないと思うよ?」


「……その心は?」


「お姉様は2人ともおっぱい大きくないから! AとかBだったはずだよ」


「なら大丈夫か」

「安心ね」


「俺が胸だけで妻を選んでると思ってないか君たち?」


「おっぱい星人なのに何言ってるのさ?」

「雪、無理があるわ」

「雪君誤魔化せると思ってるんだ? 可愛い♪」


 ……必然的にそうなってしまっているから何も言い返せないな。


★********★

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