第131話 会えない日々に募る思い

 愛羅が先生に伝えてくれて、どのみち今日で終了の為、俺と時雨と愛羅は先に帰ることになった。

 けっきょく来る時には乗らなかった男の子専用の黒塗りの車で3人とも送ってくれることになり、車内に乗り込むと3人に揃って爆睡した。


 起きた時には俺の家の前に着いていて、運転手の人に起こしてもらった。

 産まれたての子鹿のようになった俺を時雨と愛羅の肩を借りて部屋に移動し、愛羅が帰ったあと時雨に足を冷やしてもらいながら、二人でベッドで横になった。


 そして寝ていると、帰ってきた海から叩き起こされ、説教されるハメになった。


「お兄ちゃん! 一人で行動しないでっていつも言ってるよね! どれだけ心配したと思ってるのさ! お母さんもママも干菜さんもずっと連絡がないか待ってたんだよ!?」


 激オコの海の前で俺は床に正座をして、ずっと謝り続けている。


「……本当に悪かった。反省してる」


「お兄ちゃんが雌猫のところに行っただとか、部屋に連れ込んだとかなら百万歩譲って、今後家から出さないように縛り付けて許すけど、死んじゃったらどうしようにも無いんだよ! だいたいお兄ちゃんは―――」


 海のお説教は中々にきつかった……

 俺が悪いから素直に聞くけど……所々に他の女を相手する暇があったら私を構うべきだと言っているように思えたのは気のせいだろうか?

 俺が森に入ったことと、他の女の子と仲良くすることは関係ないよな……?

 

 一通り俺に説教したあとは、時雨と一緒に俺に甘えまくりだった。

 そのあと帰ってきた母さんや凪さんや干菜さんからも軽めのお説教を受け、抱きしめられた。

 ちなみに俺の携帯にはみんなからの着信が合計で500件を越えており、Beamにもメッセージが山の様に届いていた。

 俺が思っている以上に皆に心配されていたんだな……

 桜を救う為とはいえ、今後はもう少し考えて行動しよう。


 そして――――――合宿が終わってから2週間が過ぎた。


 それなりに楽しい日々を過ごしているが……そこに桜の姿はなかった。


 愛羅が定期的に桜に連絡を入れているが、反応がないようだ。

 先生に聞いても、無事だとしか言われない。


 今頃どうしているのだろうか……?


「どうしたの雪? ボーっとして」


「ん? あぁ、桜どうなったかなって」


「そうね。足にヒビか折れたかだけなら命に別状はないでしょうけど」


「だとしても、連絡も取れないのはな……」


「あーしも毎日Beam見てるけど、既読すらつかないんだよねー」


「……そっか」


「ほら雪、授業始まるわよ」

「サクサクから連絡きたらユッキーにも教えてあげるから!」


 予鈴と共に戻った二人を見送り、俺は机に次の授業の教科書を広げた。


 桜に会えない日々に、俺の中で沈んだ気持ちが募っていく。


**********


<SIDE 桜>


 救助されてすぐに病院に運び込まれました。


 検査した結果、ヒビが入ってるとのことでした。


 軽度のヒビなので入院は不要で、少し休んでから学校に行こうと思っていましたが、過保護な母と姉達に止められ自宅に軟禁状態です。


 雪君達に連絡を取りたいですが……帰ってきた時に携帯を服ごと剥ぎ取られ、一緒に持っていかれて、一度捨てられました……

 携帯のことを伝えて無事に回収して頂きましたが、画面がバッキバキに割れてしまい映りません。

 修理に出しましたが……どれだけ時間がかかるでしょうか?


 シンプルに暇を持て余しています。


 学校の授業に置いて行かれないように実習をしますが……私の心はふわふわしていて、あまり進みません。


 雪君は元気にしているでしょうか?


 会いたいです。


 会って抱きしめてヨシヨシして甘やかしたいです。


 ……逆でしょうか?


 抱きしめてヨシヨシと甘やかして欲しいです。


 ……会いたいです。


 雪君の妻になることは出来ましたが、雪君と会えるのは学校と休みの日だけ……


 休みの日も習い事やお姉様達のお手伝いなどがあれば、会うこともできないでしょう。

 学校でも他の子達がいますし、何より授業を受けに行くのですから雪君と触れ合う時間がほとんどありません。


 …………それでいいのでしょうか?


 普通の妻の関係であれば、それが普通なのかもしれませんが……


 私は我慢できるでしょうか?


 ……どうしようにもないから、考えても仕方ありませんね。気分転換に漫画でも読みましょう。


 そういえば、私の原点とも言えるあの漫画は続巻は出たのでしょうか?


 出会った時に何度も何度も読み返して、違う姉弟物の作品を漁り始めてから、ここ一、二年読んでいませんでしたが……


 私は暇潰しに準備していたノートパソコンを開き、大手ネット通販サイトのNile Riverにアクセスして、あの漫画を探すと―――


「5巻も新刊がありますね……早速注文しましょう!」

 

 注文をして翌日、早速届きました。


 昨日の内に読み返したので、予習もバッチリです!


 ―――やはりこの漫画は素晴らしいですね。

 

 姉が色々な方法で弟を甘やかして、弟も照れながら喜んでいます。


 そのまま読み進めていると、私はとあるエピソードで目を奪われました。


 それは、姉と弟が二人でショッピングモールに行き、弟がトイレに行って姉が外で待っていると、一人の男が姉に近寄り妻にならないかと言い寄り始めました。

 姉は拒絶していますが、男は引き下がりません。

 そんなところにトイレから帰ってきた弟が自分の鞄を男の顔に叩きつけ、姉の手を引いてその場から、逃げ出しました。


《ありがとう、弟君! 助けられちゃったね?》


《いいんだよ。普段はお姉ちゃんに助けてもらってるんだか、こういう時くらい僕がお姉ちゃんを守るよ! お姉ちゃんが笑顔でいられるように!》


 そこに描かれていた弟の笑顔があの日の雪君と瓜二つの様に思えました。


 ―――私も雪君に会いたい。


 ―――あの雪君の笑顔が見たい。


 ―――ずっとずっと、雪君の傍に居たい。


 あの笑顔をもう一度―――


 …………どうすれば、ずっと雪君の傍に居られるでしょうか?


 …………どうすれば、またあの雪君の笑顔を見られるでしょうか?


 私は必死に頭を回しますが……いい方法が思いつきませんね。

 だからと言ってあきらめきれるものではありません。

 何か……何か……


 私は再び漫画に目を落とし―――これです!!


★********★

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