第130話 「ただい――ゴハッ!?」

 川辺で一休みしたあと、そのまま桜を背負って川を渡り、首に巻いていたタオルで足を拭いたあと、靴を履きなおしてコンパスを頼りに歩き出した。


「雪君、何か話しながら行こうか」


「ん? どうしたんだ急に?」


「喋っていると気が紛れるし、私たちの声に気づいて熊なら離れていくし、誰か近くにいたら気づいてくれるかも知れないから」


「なるほどな。何か話題提供してくれ」


「んー……雪君って前の世界では何歳だったの?」


「25歳だな」


「そうなの!? えっ、じゃあ、お兄さんなんだ?」


「まぁ、そうだな。身体的には15歳だが、精神的には桜にとってお兄さんになるな」


「でも、寝起きは赤ちゃんみたいになるよね? 私のおっぱい吸ってたし」


「……大人になっても目の前に魅力的な胸があったら吸いたくなるんだよ」


「そうかな? 私のおっぱい吸ってる時、エッチな感じじゃなくて、すごく穏やかな顔だったよ?」


「俺を何が何でも年下にしようとしてないか?」


「雪君の精神年齢が下だったら、毎日あんなふうにして起こしてあげるんだけどなぁ?」


「ぼく、ごさーい!」


「ふふ、年齢言えて偉いねー♪」


 俺が精神的にも下になることで、あの胸を味わえるのなら安いものだ。


「お家だと、海ちゃんや時雨ちゃんからどう起こしてもらってるの?」


「俺の上に乗ってキスしながら起こされることが多いな」


「そうなんだ!」


「あぁ、最近はそのまま宇宙旅行に行くこともあるけど」


「いいなー……お姉ちゃんもまた宇宙旅行行きたいなー? そしたら今まで以上にお乳出ると思うけどなー?」


「足が良くなったら、何回でも連れて行ってやるよ」


「本当!? じゃあ24時間で何回いけるか挑戦しなくちゃね! 最低でも20回は超えたいね?」


「1日2回、3回までにしてくれ……」


「1時間2回、3回?」


「NO! DAY!」


「minutes、OK!」


「無理に決まってんだろ!」


「絶倫の民は1分間に5回出してたよ?」


「なんで桜も読んでるんだよ! というか、そんな短時間に5回も出してどうするんだよ?」


「サキュバスのご飯にしてたよ」


「サキュバス出てくるのかよ……」


「うん! あと、お家だと普段どんなことしてるの?」


「普段かー……平日だと帰ってきたら、着替えて3人で夕食の準備して、食べたら3人でお風呂に入って、終わったら寝るまで3人でイチャイチャしながらまったりしてるだけだな。休みの日は色々してるな」


「そっかー……私も雪君と一緒に過ごしたいなー……」


「休みの日は家に来いよ。恋人なんだし、俺も傍に居て欲しいからさ」


「うん! そしたら1秒に2回、3回宇宙旅行に、連れて行ってくれる?」


「俺のスペースシャトル壊れるわ!」


 そんなくだらない話をしながら、俺は歩き続けた。

 時折ベルをチリンチリンと鳴らしながら休憩を挟みつつ歩いているが、次第に休憩するペースが増えてきた。

 もう2時間近く歩いてはいるが、正直休み休みなのであまり進んでいないかも知れない。

 そして、持ってきた水も尽きてしまった。


「あー……水もう何本か持ってくるべきだったな」


「鞄とかあったなら出来たかもしれないけど、無理じゃないかな?」


「それもそうか、桜姉は大丈夫か?」


「うん、足以外は大丈夫だよ」


「そっか……良し! きっともう一踏ん張りだから行くか!」


「うん!」


 ターン!


 遠くから銃声のような音が聞こえた。

 俺と桜は顔を見合わせ、桜を背負って音がした方に歩き始めた。


「誰かいませんかー!?」

「すみませーん! どなたかいらっしゃいませんかー!?」


 俺と桜は大声を上げながら、音がした方に歩いていく。

 俺達の声が聞こえたのか、向こうからも声が聞こえてくる。


「大淀さーん! 神藤さーん!」


「こっちでーす!」

「ここでーす!」


 お互いに呼び合い、姿を確認すると―――施設の管理人さんだった。

 管理人さんと職員の数人が急いでこちらへやってきた。


「よかった! 無事だったんですね!」


「えぇ、なんとか。それより、桜が足を痛めて歩けないから、急いで病院に連れて行ってもらえませんか?」


「わかりました! 神藤さん、私の背中に!」


 管理人さんに言われて、桜を降ろしている間に他の職員は無線機で―――


「こちらAチーム、遭難者2名発見しました。1名負傷状態です」

「こちらBチーム、熊を発見して発砲。北東方面に逃げていきました」

「こちらCチーム、現在―――」


 ……遭難した俺たちを探すために何人もの人達が探してくれていたようだ。


 管理人さんに桜を任せて、管理人さんと1人の職員が急いで走っていった。


 俺は残った職員の人と一緒にゆっくりと戻っていく。

 俺が足を痛めていると知って、職員の人が俺を背負うと言ってきたが、流石に女性に背負われて戻るのは恥ずかしい。


 そこから数十分ほど歩くと総合施設が見えてきた。

 総合施設の前では2人の女性―――時雨と愛羅が待っていた。

 時雨は俺に気付くと走って向かってくる。


「時雨、ただい――ゴハッ!?」


 走ってきた時雨にそのまま押し倒された。


「何してるのよバカ! 夜の森は危険なのよ!? 帰って来れなかったらどうするつもりだったのよ!?」


 涙をボロボロと流しながら、怒った表情で俺の胸を叩いてくる。


「悪かった。どうしても桜が心配になってな?」


「雪1人が探しに行った所で見つかる可能性なんてないのよ!? むしろ二重遭難になるってこと理解できないの!?」


 時雨はそれだけ言うと、怒っていた表情から段々悲しい顔になっていき―――


「どれだけ、心配したと、思ってるのよ」


 ひっく、ひっくとしゃっくりをしながら、時雨は俺の胸に顔を埋めた。


「……本当に悪かった。今度からちゃんと相談する」


 俺の胸で泣く時雨の頭を撫でていると、愛羅もこちらにやってきた。


「お帰りユッキー! 無事で良かったよ!」


「あぁ、心配かけたな」


「本当に大変だったよ? ユッキーが1人で森に行っちゃって、シグシグもついて行こうとしたから、管理人さんに止められてさー。追いかけようとするシグシグをなんとかロッジまで引っ張ってきたんだけど、ずっと携帯見たり、繋がらないのに連絡したりして、ロッジを抜け出して探しに行こうとするから、シグシグが暴走しないようにずっと付き添ってたんだからね?」


 そう言われて、愛羅の目に意識を向けるとハッキリとクマができていた。


「あー……悪いな。付き合ってもらって。時雨を見てくれてありがとう」


「いいよー。マブダチだからさ!」


「今度シースー奢るわ」


「それ前にも言ってなかったっけ? ほら、入学式前に出会った時に」


「……言ってたな」


「にしし、じゃあ2回分だね!」


「おう、任せろ」


「前遊んだゲーセンの近くに、チョー高級のシースーがあるらしいよ?」


「せめて回ってるとこにして!」


「しょーがないなー! マブダチ価格で回ってるところにしてあげる!」


「やったぜ」


「サクサクは戻ってきて、すぐに病院に連れて行かれたけど、ユッキーは大丈夫そうだね?」


「俺も足がやばい。痛みでそろそろ産まれたての子鹿になるわ」


「めっちゃ痛いやつじゃん!」


「もう帰って寝たいわ」


「あーしも寝たいよ……とりま、先生に伝えてくんね!」


「よろしく」


 愛羅が先生に報告に伝えに行ってくれたので、俺はそのまま時雨の頭を撫で続けた。


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