第123話 神藤 桜①
「よく出来ました、それでこそ神藤家の妹よ」
「さすが私達の妹ね!」
そう褒めてくれるのは私のお姉様。
私には、姉が二人います。
神藤家はいくつものビルを持ち、数多くの企業に投資をしている資産家。
大手企業の株をいくつも持っており、企業の社長が家に来ると、いつも母にペコペコしている。
そんな母の後を継ぐべく、私たちは幼い頃から努力している。
一番上の姉とは十歳差、二番目とは八歳差と私とは年齢が少し離れていて、優秀だ。
常に学力は学年一位、運動神経も抜群。
文武両道という言葉が歩いているような存在。
私も二人に負けず、優秀な方だとは思う。
何度か学年一位だったこともあるし、運動神経もかなりいい。
色々習い事も頑張ってきた。
……でも、それだけ。
私はお姉様達から見たら一歩劣っている。
けれど、それでお姉様達から蔑まれている訳では無い。むしろ……
「よくやったわね、桜」
「この調子で頑張りましょうね!」
一歩足りない私のことを褒めてくれる。
純粋な気持ちで褒めてくれている……と思う。
でも、私はちょっと捻くれているから……
心の何処かで、お姉様達に追いつけない自分に、鬱憤を抱えている。
頑張っても、頑張っても一歩足りない。
その鬱憤を解消する為に、気分転換で漫画や小説に手を出したんだけど……
その時に出会ったのが一冊の姉弟物の漫画だった。
ひょんなことから唐突に姉弟になった二人。
血が繋がっていない姉弟。
何でも出来る完璧な姉が弟を甘やかして、弟はお姉ちゃんに可愛らしい笑顔でお礼を言って、好き好きと甘えている。
姉も弟のことが大好きで、抱きしめたり、頭をヨシヨシしたりして、イチャイチャしている。
こんな日常が羨ましいと、何度思ったことか……
お姉様たちもこんな気分なのかな?
私が弟みたいな立ち位置で…………ズルい。
ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい―――
私にも弟が欲しい!
笑顔で大好きと言ってくれる弟が!!
でも、現実はそんな夢物語のようにはならない―――
男の子が生まれる確率なんて、かなり低い。
ましてや、母は既に私含め三人も産んでいる。
年齢も今から妹を望んでも無理だと思う……
そんな現実に打ちひしがれながらも、あの漫画の姉弟に思いを馳せ、日々を生きていく。
そもそも男の子に合う機会は何度もあったけど、みんなイメージと違った。
話しかけても、こっちを見ずに無口になる子、怯える子……果てには、不遜な態度で急に、妻にしてやろう! とか言ってくる子……どの子も理想とは程遠い。
私の理想が高いのかな……?
いいえ、世界は広いって言う位だから、どこかに私の理想の弟がいるはずです!
大きくなって、ある程度お金を自由に使えるようになったら、色々な所を巡ればきっと出会える!
もしかしたら、出会ってないだけで、近くにいるかもしれない!
私はそのことを希望に今日も頑張ります。
お勉強や習い事がない日に、男の子が居そうな場所に出かけては男の子を探しているけど……見つからない。
そして、月日は流れて中学校を卒業した。
卒業したあとは高校入学まで何もない。
だから、このタイミングで少し遠くに行って探したいけど……
普通卒業したら、高校入学するまでお休みじゃないのかな?
毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日―――
お勉強、習い事、お勉強、習い事、お勉強、習い事―――
うんざり!!!
少しは自由があってもいいんじゃないかな!?
習い事の為に入ったビルで、私はスケジュールを管理してくれている教育係の人に今後の予定を聞いてみた。
「丸一日休みは……今のところありません。強いてあげるなら、明後日は15時以降は夕食までの時間は自由に出来るかと」
………………私の中で静かに、何かがキレる音が聞こえた気がしました。
「そうですか。あっ、少々お手洗いに行ってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、ここから一番近い所だと……「では、行って参りますわ」――えっ?」
私はその場から何も考えずに走り出した。
幸い通路に人通りは少なく走りやすい。
「ちょ! 桜様! どちらに行かれるのですか!?」
「お手洗いですわ! お腹が痛いので、急ぎますわー!」
「お腹痛いのにそんな全力で走れる訳ないでしょ!!」
私の足と教育係の足では、それほど速さに差はありません。
私は何かないかと辺りを見渡しながら走り―――
一か八かの賭けに出ました。
現在いるのは二階。
一階に降りるまでの階段はここから少し離れています。
ここから降りれば飛び降りれば、時間を稼げて、逃げ切れる!
私は何も考えずに開いている窓から勢いよく飛びました。
大丈夫、この窓の先は道路です。
変なものがあったりはしません。
……道路ということは、人通りもあると言うことを何故気付けなかったのでしょうか?
こういうところが私の抜けているところなのでしょう。
飛び降りた先には―――通行人がいました。
★********★
お待たせしました。
大事な話なので四話ほど毎日更新です。
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