第86話 変わった雪の日常

 

 休み明けの月曜日、今日からまた学校だ。

 いつもの朝を迎え、母さんと海と別れて学校へ向かった。

 時雨と学校に向かう途中……


「あっ! ユッキー、シグシグ! おっはー!」


「おはよう愛羅!」

「おはよう、朝から元気ね」


 愛羅とばったり出会い、一緒に登校する。

 他愛ない話をしながら学校へ向かい、近くまで来たところで、横を黒塗りの車が通り過ぎ、俺たちの近くで止まった。

 何事だ? と思い立ち止まると、車のドアが開き、中から人が出てきた。


「皆さん、おはようございます!」


 桜かよ。

 随分と高そうな車に乗っているが……桜の家は金持ちか何かなのか?


「おう、おはよう桜」

「サクサク、おっはー!」

「おはよう桜、朝は送迎なのね?」


 桜を降ろした車はドアが閉まり、そのまま去っていった。


「えぇ、朝は色々と時間が掛かりますから。雪君! おはようのチューしよう!」


 そう言って桜が俺に走り出してきたので、俺は反射的に受け止めようとして……


「させないわよ!」


 時雨が先に正面から抱きついてきて、桜の場所を奪った。


「ケチッ!」


「何がケチよ」


 正直、女神様の試練で、女神様が桜に化けて散々色々やったから、何の抵抗もないな……


「キスぐらい、いいんじゃないか?」


「雪!?」

「ユッキー!?」


「雪君!」


「いや、この間王様ゲームで色々したし、キスぐらい今更だと思ってな」


「……桜を妻にするつもり?」


「んー、ありだなとは思ってるけど、出来ればもうちょっと仲を深めたいところだな」


「雪君、今日は学校休んで、今からちょっと遠くに行こうか? 車呼び戻すね」


「行かせないわよ! 雪もバカなこと言ってないで、学校に行くわよ!」


「行くには時雨が抱きつくのをやめてくれないと、歩けないんだが?」


「お姫様抱っこして、百メートル走の世界チャンピョン並みの速度で移動しなさいな」


「無茶振りすぎんだろ……」


「へぇー、ユッキーってサクサク狙ってんだ……! ユッキー、あーしは?」


「桜と同じでありだと思ってるぞ」


「やっぱユッキーに狙われてた!」


「愛羅ぐらい可愛ければ、みんな結婚したいって思うだろ」


「……にしし! あんがと!」


「ちょっと雪……なんで以前にもまして愛想振りまいてるのよ……」


「……なんでって言われても素直な気持ちを言ってるだけなんだがな」


 あれだな、あの試練から割と自分に素直に? なれた気がするな。


「……早く鎖と良い手錠注文しないと大変なことになるわ」


 鎖でどうする気ですかねぇ……?


 そのまま俺たちは4人で学校に行き、校門を抜け、下駄箱を過ぎ、自分たちの教室までやってきた。

 教室に入り……挨拶はしたほうがいいよな?


「みんなおはよう!」


「「「雪君おはよーーー!」」」


 バタバタと何人かが俺の方に走ってくる。


「雪君おはよう! 気持ちのいい朝だね! ぎゅ~!」


 一人の女の子が挨拶と同時に俺に抱きついてきた。

 俺は受け止め、抱きしめ返す。


「あぁ、おはよう。今週から授業頑張ろうな?」


「キャー! 嬉しい! 一緒に頑張ろうね雪君!」


「ちょっと雪! 何してるの!」

「雪君! 雪君! お姉ちゃんとハグしてないよ!」

「ユッキー、朝からやってんねぇ?」


 俺は抱きしめた女の子を離し、桜に近寄り同じように抱きしめてあげた。


「これでいいか? 桜」


「うん! あとキスとナデナデコースを二時間お願い!」


「長いよ!」


「じゃあ、あと五時間!」


「あれ、逆ドアインザフェイスしてる? とりあえずこれで許してくれ」


 そのまま俺は桜の顔に顔を近づけ、軽く唇を重ねて頭をヨシヨシしてあげた。


「ゆ、ゆ、雪君からチューしてくれたーー! 今日は雪君との初チュー記念日にするね!」


「ちょっと雪! 本当にどうしたのよ! 今までそこまで大胆じゃなかったでしょ!」

「もう何度も言ってるけどユッキーって他の男と違うなぁ……」


 ニッコニコになった桜は俺から離れて近くで小躍りしてる。


「ゆ、雪君! 私にもおはようのハグして?」


 また別の子が俺のところにきたので、ご要望通りにハグと追加でナデナデもしてあげると、クラスの流れが変わった。

 流れが変わったと言うより、流れが出来た。


「雪君私も!」

「雪様! 私にも!」

「お兄様、私もお願いします!」

「魂で繋がった盟友よ。我も所望するぞ!」

「ご主人様、私も所望します」

「私も雪とのハグをお願いしてもよろしくて?」


「わかったわかった! 順番に並んでくれ!」


 そのままクラスの中で俺の前に列が出来上がった。

 この列で不可解な人物がいるとすれば二人……


「なんで紗理奈先輩がいるんですか?」


「ふふふ、雪君に朝の挨拶に来たら、おもしろそうなことやってるから並んじゃった! 私もいいよね?」


「もちろんですよ」


 紗理奈先輩にも皆と同じように、ハグ&ナデナデをしてあげる。


「ふふふ、朝から良い経験が出来たよ! じゃあまたね雪君!」


 満足した紗理奈先輩は教室から去って行き、もう一人は……


「なんで七橋先生もいるんですか?」


「朝のHRに来たら、貴重な体験が行われていたから思わず並んだの! 先生もいいですよね?」


「えぇ、いいですよ」


 七橋先生にも皆と同じように、してあげると……


「うぅぅ……この学校の教師になってよかった……」


 なんで微妙に泣いてるんですか……


 そして、全員との挨拶が終わりHRが始まるが……

 横で時雨は頭を抱えていた。


★********★

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