第67話 桜花七情学園


 俺たちは高校の……入学する『桜花七情学園』の校門の前までやってきた。

 ここから校舎が見えるがかなり綺麗だな。割と出来て新しいのだろうか?

 そして、校門前だが……入学する生徒や、保護者たちで溢れかえっている。


「すごい人混みだな」


「それはそうでしょう。有名な進学校だもの。この辺で唯一男性が入学できるとなれば、こうなって当然よ」


「ふーん、そんなものなのか」

 

 時雨は当然かのように言ってるが、前世ではどうだったかな……

 さすがに覚えてないわ。


 とりあえず俺たちは中に入るため、受付の列に並ぶことにした。

 列を見れば、俺以外にもチラホラと男性がいるのがわかる。

 さすがに、どういう奴らかはここからだとわからないが。

 そして、少しずつ列が進み、ようやく俺たちの番が回ってきた。


「入学者の確認をしますので、氏名と身分証明書をお願いします」


「坂間時雨と大淀雪です」


 時雨が俺の分と合わせて氏名と身分証明書の提示を行ってくれた。

 身分証明書……卒業証書か健康保険証でよかったみたいなのでそれを提示した。


「はい、確認がとれました。ご入学おめでとうございます」


「「ありがとうございます」」


「あの、大淀雪さんに一つお願いがあるのですが」


「? なんですか?」


「!? え、えと」


「ちょっと雪、返事したらダメって言ってるでしょ?」

「えっ? なんで? 俺がお願いされてるんじゃないの?」

「だから、普通の男性はしゃべらないから、私が受け答えするのよ」

「えぇ……普通に会話させてくれよ。めんどくさい」

「はぁ……もう、既にこの先が不安だわ」


「それで? なんですか?」


「……その、一度教室に集まったあと、体育館で入学式が行われるのですが、新入生男子代表として、挨拶をして頂けませんか?」


「えっ? 私がですか?」


「えぇ」


「なぜ私に?」


「一応、男子生徒全員に聞き回っているのですが……普通に会話してくれる男子生徒は貴方が初めてですよ」


 知ってはいたけど、こういう場でも話さないんだな、この世界の男は……


「私、何も準備しておりませんが?」


「あぁ、原稿はこちらで準備しておりますので大丈夫です。出来れば……原稿を読み終わったあと、何か一言、二言、頂けると助かるのですが……?」


「……わかりました。私がひきう「待って頂戴」……時雨?」


「原稿を読むのは構わないけど、雪がしゃべるのは、無くてもいいかしら?」

「えっ、しゃべらなくていいのか?」

「……雪にしゃべらせると余計なこと言って、騒ぎになる可能性あるから、極力しゃべらないで」

「ひどい言われようだわ……」


「……わかりました。引き受けて下さるなら、無くても構いません」


「ならいいわ」


「では、後ほど原稿をお持ちしますので、よろしくお願いします」


 受付が終わり、俺たちは校門を抜けた。

 外から見えてはいたが、桜が美しく咲いている。

 ここを通る他の新入生も見惚れているようだ。

 校舎に続く道を桜で囲み、舞う花弁がヒラヒラと俺の前を通り過ぎ、まるで入学を祝ってくれてるように思えた。


「桜、綺麗だな」


「私綺麗ですか!? ありがとう! 雪君」


「えっ?」


 横を見るとそこには微笑んだ桜が立っていた。


「えっ、なんでいるんだ?」


「なんでって、私もこの高校の新入生ですよ? というか、初めて女装してない雪君を見ましたが、こんな感じなんですね。かわいい♪」


「まじかよ」

「あら? 雪は知らなかったの?」

「初耳なんだが?」


「ふふふ、どっきり大成功です!」


「……そっか、友人がいると心強いな。これからよろしくな?」


「私は雪君の友達じゃありませんよ?」


「……えっ! そ、そうか、勝手に友人だと思ってた……」


「私は雪君のお姉ちゃんです!」


「いや、まだ続いてるのそれ?」


「私は認めないわよ、桜」

「あら、雪ったら勝手にお姉ちゃん作っちゃって」

「雪君、いつの間にお姉ちゃん出来たの? ちゃんと紹介しないとダメよ?」


 時雨、母さん、干菜さんがそれぞれ、反応を示す。


「あらあら、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。わたくしは神藤桜と申します。先日、雪君のお姉ちゃんになりました!」

 桜はそう言うと、丁寧にお辞儀まで加えて自己紹介をした。


「……神藤? う、うふふ、ご丁寧にどうも。私は雪の母親の大淀秋よ。よろしくね、お姉ちゃん?」

「私は時雨の母親で坂間干菜よ。よろしくね、雪君のお姉ちゃん」


「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」


「……なんで受け入れてるのよ」

「勝手に外堀が埋められていく……」


「じゃあ、私と秋さんは先に体育館に行ってるから、またあとでね?」

「じゃあ、あとでね! ねぇ、干菜さん、しん……って……」


 干菜さんはそう言うと、母さんと会話しながら、一緒に行ってしまった。


「さぁ、正面の掲示板にクラス分けが貼ってありますから、見に行きましょうか」


「そうだな」

「そうね」


 そして、俺と時雨と桜で正面の掲示板を見に向かった。

 向かった先では案の定、新入生が大勢いたが、教師の人たちが掲示板の前で長時間止まらないように指示している為、俺たちはすんなり掲示板の前まで来ることが出来た。


「んー……俺の名前は……どこだろ……」


「雪は私と同じクラス、1年C組よ」

わたくしもC組ですね」


「お、3人とも一緒か! なら、向かおうぜ」


 俺たちは靴箱で上履きに履き替え、教室へと向かう。

 道すがら、何人もの女子生徒が俺のことを見てきていた。


「今更だけど、やっぱ男ってめずらしいんだな」

「本当に今更ね。男性と接触がある人はそうでもないでしょうけど、普通はみんな物珍しくジロジロ見てくるわよ」

「動物園の動物になった気分だよ」

「動物園に犬はいないわよ?」

「俺は犬じゃないよ!」

「そうね、半分くらいは」

「それ、もう犬型の獣人じゃねぇか」


 そして、教室の前に辿り着いた。

 時雨が扉を開け3人で中に入ると、見知った顔の人物がやってきた。


「あっ! シグシグ、ユッキー、サクサク!」


「お、愛羅じゃないか。同じクラスだったのか」


「そだよ! ニシシ、これからよろしくね!」


「あぁ! よろしくな! んで、席とかどうなってるんだ?」


「黒板に張られてるよ!」


 愛羅にそう言われ黒板を見ると、確かに座る場所の一覧が張られていた。


「サンキュー! 俺の席は……ど真ん中かよ」

「私は雪の隣ね」

「私は通路側よりの前の方です」


 とりあえず、他の人の視線もあるし、さっさと自分の席に向かおう。

 一先ず、鞄を机の横にかけて、席に座ると他の3人が俺のところに集まってきた。


「ふふ、雪がクラスにいるっていうのは不思議ね」

「ユッキー、同じクラスなら、イベントも一緒に楽しめんね!」

「毎日雪君と一緒に居られるなんて嬉しいなぁ!」


「あぁ、俺もみんなと一緒で嬉しいよ!」


「それはそれとして、今のうちに見せつけておこうかしら、雪、ちょっと椅子引いてもらえる?」

「えっ?」

「いいから」


 俺は時雨に言われ、椅子を引くと、時雨は俺の膝の上に座りながら俺に抱きついてきた。


「えっ、ここで抱きつくのかよ」


「そうよ。どうせそのうち抱きついて、充電しなくちゃいけないんだから今のうちに周りに見せつけるわ」


 そう言われ、周りを見るとギョッとした顔で俺等を見ていた。

 は、恥ずかしい……


「時雨……恥ずかしいんだが……」


「抱きついてるだけじゃない。私はこのままいつものキスをしてもいいのよ?」

「さすがにそれはやめろ……」

「そうね、こんなところで爆破するわけにもいかないものね。それはそうと雪も抱きしめ返しなさいな」


 ……もうどうにでもなれの精神で時雨を抱きしめ返す。


「ちょっと時雨ちゃんずるい! 私も私も!」


 そう言うと、桜は後ろから抱きついてくる。

 頭に胸が当たってヘッドレストになっている。


「さ、桜?」

「ちょっと桜、胸が邪魔よ。私の顔にも当たってるじゃない」

「あら、ごめんなさい。雪君が喜ぶと思って」


「家でやってほしいわ」


「ちょっと雪! 私がやってあげるから余計なこと言わないで!」

「じゃあ、今度お家お邪魔するね!」


「あっはは、なんかサクサク、パワーアップしてんね?」


「えぇ、これから一緒に過ごすんですもの。弟と仲良くしたいと思うのは当然でしょ?」


「あっはは……まぁ、ほどほどに……ユッキーが大変だろうし」


「愛羅……お前はマブダチだ」


 そんな会話をしていると教室の前の扉から一人の先生が入ってきた。

 そして、俺を見つけると周りと同じようにギョッっとした顔で俺の方に近づいてくる。


「あー、君が大淀雪君で間違いないかな?」


「あ、はい、そうです。ちょっと時雨、話しづらいから」


「気にしないで頂戴」


「シグシグってユッキーがいると、ここまで変わんだね……」

「私もそこに座りたいですね……」


「……すみません、言うこと聞いてくれなくて……それでどのようなご要件でしょうか?」


「おぉ! 本当にちゃんと会話してくれるんだね!? 話は聞いてると思うが、これが新入生男子代表の原稿だよ」


 そう言って先生が俺に一枚の紙を渡してくる。


「わかりました。お預かります」


「うん、それで流れなんだけど―――」


 俺は先生から入学式の流れを聞いて、先生は必要なことだけ話すと教室から出ていった。


★********★

今日はもう一つの作品も更新してます! よかったら見てね!


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