第60話 高校入学前の最後の休日

 

 俺と海は駅前に来ていた。

 うん、流れとしては俺と時雨が平日にデートしたからだ―――


「私もお兄ちゃんとデートしたい! 時雨姉ずるい!」


「平日なんだからいいでしょ?」


「関係ないよ! 今度の休日は私に譲ってよ! 二人っきりでデートさせて!」


「もぅ……わかったわ。夕御飯はどうするの?」


「お兄ちゃんと食べてくる!」


「……なら、私も友人と遊んでくるわ」


「おっけー!」


 と言った具合の流れになり、俺はまた女装して海とデートにやってきた。

 場所は前回と同じ駅前ということになった。


「駅前に来たけど、何処か行きたいところあるのか?」


「うーん、お兄ちゃんとデート出来るなら何でもいいって思ってたから、行きたい場所っていうのはないんだよね」


「そうなのか」


「うん、逆にお兄ちゃんは行きたい場所ないの?」


「行きたい場所ねぇー……ゲーセンか、カラオケか……グッズ漁り?」


「グッズ漁り? 何のグッズ?」


「アニメとか漫画とか……かな」


 正直自分でも忘れがちだが、この世界に来る前はオタク趣味を持ったモテない男だったのだ。休日に漫画やグッズを買いにオタク向けのお店に月に何度か行ったものだ。


「ふーん? じゃあそれ行ってみる? 前から気になってるお店あるし」


「気になってるお店?」


「うん、そこ行こ?」


「お、おう?」


 俺は海に案内される形でついて行く。

 どこに行くかと思えば、大通りからはずれ、脇道に入っていく。

 周りを見渡すと雑居ビルが立ち並び、太陽の光が遮られ、少し薄暗く、アンダーグラウンドな雰囲気が立ち込める。

 そして、海は一つの店の前で立ち止まった。


「ここだよ」


「ここって……メンズ2Dエデンって店か……?」


 聞いたことない店だな? 男の二次元の楽園……ってことか?


「うん、お兄ちゃんがどういうのが好みかわからなかったから、一応こういうお店も調べておいたんだ」


「ふーん……? まぁ、行ってみるか」


 そして、俺と海は店の入り口の階段を登り、店内に入ってみた。

 店内には確かに漫画や小説、アニメグッズもあるが、それより目を引くのは有名な絵師が書いたであろう、萌えタペストリーや同人誌なんかも販売しているようだ。


「へぇー、こんな店あるんだな?」


「うん、ネットで調べたら出てきたよ。男性向けのオタクショップだって」


「男性向けなのか。だから飾ってあるタペストリーが二次元美少女なんだな」


「じゃないかな?」


「なんでこんな店調べたんだ?」


「お兄ちゃんが二次元にしか興味を示さなかった時のこと考えてね?」


「……ということはそういう作品なんかも売ってるのか」


「そのはずだよ? 行ってみる?」


「いや、未成年が入っちゃダメだろ」


「普通はダメだけど、私達ならいけるよ?」


「はっ?」


「お兄ちゃん忘れてない?」


「何を?」


「私が男性保護省からきた妹で、男性がいる家族はそういう物を買ってもいいってこと」


「あー……そういやそんな話前にしたな」


 そう言えば、海ってそういう本を持ってるっぽい話してたな。絶倫の民が出てくる本。

 というか、俺自身は前世では二十歳超えてたんだから精神的には問題ないんだけど、肉体年齢はまだ高校生ぐらいなんだが……店員に何か言われないのか?


「私的にはお兄ちゃんの為にそっち系見たいんだけど?」


「見てどうするんだよ。買うのか?」


「参考になるなら買うのもありかなー。お兄ちゃんは買う必要ないからね? 買っても使う暇与えないから」


「……見る分にはいいだろう」


「……見るだけで済む?」


「……済まない時は呼ぶ」


「んー……なんか複雑な気がするけど……それならいいよ」


「やったぜ」


「じゃあ、店員のところに行こうか」


「ん? おう」


 何故店員のところ?

 疑問に思うが、とりあえず海について行くか。

 そして海はレジに店員がいるのを見つけ、話しかけた。


「すみません、男性の家族なのですが、大人向けのコーナーに行かせて下さい」


 海は財布から何かカードを渡し、店員に見せている。


「拝見致します……本人で間違いなさそうですね。その手の作品はここから右奥にありますので、どうぞご自由に閲覧して下さい」


「ありがとうございます」


「何を見せたんだ?」


「あぁ、これ?」


 海が店員に見せたカードを俺にも見せてくれた。


「男性保護省家族カード……?」


「そっ、私は男性の家族ですって証明する為のカードだよ。三年に一度男性保護省で写真の更新しなくちゃいけないんだ」


「運転免許の更新かよ」


「もしかして、そちらの方は男性ですか?」


 やべ、店員の前で普通に喋ってたわ。


「あー……はい、そうです」


「綺麗なお化粧されてますね」


「えぇ、将来妻になる女性にしてもらったんです」


「! 普通に会話して頂けるとは……そうでしたか、女装用のカツラや化粧品なんかも右の方に専門のコーナーがあるので、よろしければご覧ください」


「へぇー、化粧品なんかもあるんだ」


「えぇ、女装して買いに来られる男性もいらっしゃいますので」


 まじで女装してる男いるんだな。

 時雨の読みは間違ってなかったってことか。


「一応見てみる?」


「化粧品は俺が見てもわかんないけど、カツラはちょっと見てみたいかな」


「お兄ちゃん女装に躊躇いが無くなってきてる?」


「……こう長い時間女装してると抵抗が無くなるな。なんかどんどん自分が変わってきてる感じがして怖くなったわ」


「変化を受け入れるのも大事だよ。さっ、行ってみようか」


 俺たちは店内の奥に進んでいく。

 知らない同人誌なんかもあるんじゃないか? あっ、あのフィギュアちょっと可愛いな……

 そして、俺達は大人向けのコーナーに向かったのだが……

 そこにはお客さんが一人だけいた―――


「……梓さん?」


「えっ? その声は雪君!? な、なんで!?」


 まさかの梓さんとの出会いだった。


★********★

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