第54話 卒業式②

 俺達は体育館に入り、それぞれの席に着いた。

 俺の隣には時雨が座っている。

 というよりも、俺と時雨しか座っていない……


「なんで、ちょっと離れたところに席があるんだ?」


「普通は男の人が嫌がるからよ。私は雪の保護者としてここに座ってるの」


「……普通の場所でいいのに」


「雪を普通の場所にすると混乱が起きるからやめて頂戴……」


 そして待っていると、ポツポツと俺の周りにも似たような人達が座り始める。

 この学校で初めて男を見たな。

 見た感じ全員、大人しい系の子っぽいな。変にうるさい奴いなくてよかったわ。

 そして、卒業式が始まった。


 開式の言葉から始まり、卒業生による国歌・校歌斉唱が行われた。

 うん、国歌はわかるけど、校歌なんぞ初めて歌うし、なんとなくで歌う。時雨が隣にいてよかったよ。

 そして、卒業証書授与が行われる。


「俺も受け取りに行けるのか?」


「えぇ、私と一緒に行くわよ」


 他の生徒が順番に壇上に上がり、卒業証書を受け取るのを眺めていると、いよいよ俺達の番が回ってきた。


 俺と時雨は、壇上に上がるため、時雨、俺の順番で階段を上るが……


「あっ!?」


 恐らく、緊張して胸を張って階段を見ずに登ったからだろう。

 時雨が階段を踏み外した。


「〜〜〜〜つぅ……」


 俺は慌てて時雨に駆け寄った。


「大丈夫か、時雨?」


「え、えぇ、大丈夫よ。くっ……!」


 踏み外した時に捻ったのだろう。歩けなくはなさそうだが、痛そうだ。

 ここで、立ち往生しても迷惑になるだろう。ならやることは一つだ。

 俺は問答無用で時雨の背中と膝に腕をまわし、お姫様抱っこした。


「はっ、ちょ、雪!?」


「痛いんだろ? さっさと終わらせて友梨佳先生のところに行くぞ」


 俺は時雨をお姫様抱っこしながら、校長先生がいるところまで移動する。

 その間、周りからざわざわと声が聞こえる気がするが無視だ無視。

 校長先生の前まで移動し、一旦時雨を下ろす。


「さ、坂間時雨、卒業おめでとう」


 校長先生の顔が引きつっているが、なぜだ?

 時雨は足を引きずりながら、卒業証書を受け取り、一歩下がる。


「スゥー……大淀雪、卒業おめでとう」


 引きつっていたがなんとか持ち直したようだ。

 俺も卒業証書を受け取り、そのままさっきと同じように時雨をお姫様抱っこして壇上を下りた。

 すごい視線が集まっている気がするが、どうしようにもないので、無視をする。

 時雨はお姫様抱っこの間両手で顔を隠していた。


 なんとか自分たちの席に戻り、時雨を座らせると、友梨佳先生が目立たないようにしながらやってきた。


「いやー、魅せつけちゃったねー雪君」


「別に魅せつけたかったわけじゃないんですけどね」


「それはそうだろうけどね? それで時雨さんは大丈夫かい、足を捻ったみたいだけど?」


 時雨は余程恥ずかしかったのか、まだ顔を両手で隠している。


「足より、精神的ダメージの方が痛いです……」


「まぁ、あの場面で足踏み外すのは恥ずかしいよな」


「そのあと、あなたがお姫様抱っこしたからよ!?」


「しょうがないだろー? んで、友梨佳先生、湿布貼ったりお願いできますか?」


「あぁ、保健室に来れば、包帯付きでやってあげるよ」


「なら、途中ですけど、今からいいですか?」


「もちろんだとも!」


「えっ、えっ、えっ? 今からなの?」


「もう卒業証書も受け取ったしいいだろ。ほら、いくぞ」


 俺は立ち上がり、再度時雨をお姫様抱っこする。


「あ、歩けるから! 歩けるから、下ろして!?」


「無理すんなって、ほら、いくぞ」


 そして、俺はまた時雨をお姫様抱っこして、友梨佳先生と共に体育館を出て保健室に向かった。

 ――保健室に着いた俺達は時雨を椅子に座らせ、友梨佳先生がテキパキと処置を施す。


「軽めの捻挫だろうから、数日はあまり動かさないようにね?」


「えぇ、わかりました。ありがとうございます」


「じゃあ、今日はずっとお姫様抱っこしとくか?」


「……私を社会的に殺す気かしら?」


 時雨が頬を赤くしながら、ジト目で俺を見てくる。


「そんなつもりはねぇよ。動かさない方がいいんだろ? じゃあ、おんぶがいいか?」


「……雪にされるとどっちも恥ずかしいんだけど」


「あきらめろ。他の人に任せるわけにもいかないし、二択だよ」


「そうだねー。今日明日くらいは安静にしといた方がいいと思うよ」


「……おんぶして頂戴」


「あいよ!」


 俺は時雨に背を向け、腕を後ろにやると、時雨は俺に覆いかぶさってきたので、そのまま時雨の太ももを持って、一気に立ち上がった。


「いやー、男の子にそうしてもらえるのはうらやましいなぁ! 雪君今度私にもしてくれないかい?」


「いいですよ。じゃあ高校で会った時にしてあげますよ」


「そうか! 楽しみにしてるよ!」


 そして、俺達は保健室を出て、体育館に向かうが……


「おや、もう終わっちゃったみたいだね」


 生徒や親御さんが既に外に出て談笑しているようだった。


「ですね。じゃあ俺達は母さん達を探すんで、この辺で失礼します」


「あぁ! また高校で会おうね雪君!」


「えぇ! ではまた!」

 

 そう言って、俺達と友梨佳先生は別れた。

 さて、どこにいるかな?


「時雨、どこか、合流する場所とか決めてたか?」


「いいえ、決めてないわ。その辺りぶらぶらして探すしかないんでしょうけど……」


 俺は近くにいないか周りをキョロキョロするが……


「すっごい見られてるな」

「……そうね」


「坂間さん!」

「しっぐれー!」

「シグシグー!」


 校門で会った三人組が俺達に近づいてきた。

 時雨と話すんだろうと思い、一旦時雨を背中から下ろした。


「大丈夫、坂間さん?」

「えぇ、大丈夫よ、心配してくれてありがとう」

「時雨、派手にやったね! みんな羨ましがってたよ!」

「……私このまま帰ろうかしら」

「あっはは! シグシグちょー恥ずかしそうだったもんね! お姫様抱っことか、羨ましい! ねね、雪君だっけ? 私のこともお姫様抱っこしてくれない?」

「勝手に私の恋人でお姫様抱っこを体験しようとしないで頂戴」


「わー! 恋人だって!」

「時雨言い切ったね!」

「シグシグヤバ! チョーアツアツじゃん!」


「そうよ? 私は雪と結婚するんだから熱々のラブラブよ」


「「「キャーーー!!!」」」


 完全に捕まっちまったじゃねぇか……

 逆に母さんとか海が来てくれねぇかな?


「あぁ、見つけた見つけた。ごめんね雪君。娘をお姫様抱っこしてもらって」


 横から声をかけられ、横を見ると干菜さんが立っていた。


「いえいえ、大切な恋人ですから。それより、見つけて頂いて、ありがとうございます。母さんと海は……どこですか?」


「秋さんならさっきの雪君のお姫様抱っこ見て、必要だろうからって車を取りに帰ってくれたわ。海ちゃんは……どっかに連れてかれたかな?」


「そうですか」


「そうですか、じゃないよ!」


 今度は、後ろから声が聞こえてきた。連れてかれたって話だったが、逃げてきたのかな?


「おう、海、お帰り」


「お兄ちゃん暴れすぎじゃないかな?」


「慎ましく生きてるつもりだぞ?」


「お姫様抱っこはひどいよ! お陰で私の友人達から私もしてもらいたいって要望がひどかったんだから!」


「全部断ってきたのか?」


「断ってきたよ」


「じゃあ、その後ろの子達は?」


「え?」


 海の後ろには、朝出会った二人がニコニコしてこちらをみていた。


「お兄さん、こんにちわ!」

「海兄、こんちわ!」


「おっす!」


「……なんでいるのかな?」


「いやー、普段すました顔した海がお兄さんの前だとイキイキしてたから、気になっちゃって」

「うんうん! 海ちゃんのお兄さん兼恋人さんと話してみたくて!」


「……お兄ちゃん頭悪くて、日本語理解出来ないから、会話しようと試みるだけ無駄だから大人しく帰ろう?」


「今普通に会話してたよね?」

「海ちゃん流石に無理があるよ……」


「普通に会話するくらいいいじゃないか?」


 海は苦虫を潰したような顔で俺を見ている。


「お兄ちゃんが会話すると絶対碌な目に合わないから……」


「お兄さんお兄さん!」


「ん? どうした?」


「今日で卒業するんですよね? 第二ボタンくれませんか?」

「あ、あたしも欲しいー!」

「お兄ちゃんのボタンは私のだから!」

「全部はいらないでしょ?」

「そうだそうだ! 独占はんたーい!」


 ……別にまだ余ってるからあげていいんじゃないか?


「悪いが、第二ボタンは、先約があるんだ。だからこっちで我慢してくれないか?」


 そう言って俺は左袖のボタンを二つ引きちぎり、二人に渡した。


「やったー!」

「海兄ありがとう!」

「お兄ちゃん……」


「海はここな」


 そう言って俺は第一ボタンを引きちぎり海に渡す。


「第二じゃないのー?」


「時雨の方が言うの早かったからな。それに第一夫人だから第一ボタンってな?」


「えぇ! 海ちゃん第一夫人なの!?」

「ちょ! 海! また、事情聴取の時間だよ!」


「お兄ちゃんのばかあああああああ!」


 またもや、海は二人に連行されていった。

 さて、言われないうちにさっさと渡すか。

 第三と第四は母さんと干菜さんに渡すように引きちぎり……


「時雨」


「ん? 何?」


「ほれ」


 俺は目の前で第二ボタンを引きちぎり、時雨に渡した。


「! ありがとう!」


「さ、坂間さん?」

「え、ちょ! 時雨ずるい!」

「いいなーシグシグ、雪君……いや、ユッキー! 私にも余ったボタン頂戴!」

「え、私もいいかしら?」

「私も下さい!」


 俺のことをユッキーと呼ぶ子に第五ボタンをあげ、他の二人には右袖のボタンを二つちぎり、渡した。

 完売御礼。人生で初めてボタン全部あげたよ……! ちょっと愉悦感があるな!


「まったく、すぐサービスするんだから」


「別にいいだろ? 人生で初めてボタン全部あげたぜ!」


 そのあとみんなで写真を撮ったりしていると、母さんが迎えにきたので

 俺達は車に乗り込み、おいしいものを食べに出かけた。


★********★

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