第53話 卒業式①
卒業式の日を迎えた。
今日は母さん達も参列する為、俺と海と時雨と母さんと干菜さんの5人で学校へ向かう。
「卒業式かー、なつかしいなぁー」
「こっちは今回が初めてなんだから変なふうにしないでよ」
「いやー、卒業って言ってもほとんど学校行ってないし、一度卒業したことあるしで、全然実感わかねぇんだわ」
「お兄ちゃんの昔の卒業式ってどんな感じだった?」
「んー……中学のだろ……校長の無駄な挨拶があって卒業証書貰って……終わったらみんなで別れ惜しんで寄せ書きを担任の先生に送ったり……あと、イケメンとかは学ランの第二ボタンをあげたりしてたな」
「へぇー、漫画でもあったけどなんで第二ボタンなんだろうね? お兄ちゃんも誰かにあげたの?」
「……あげたことないよ……周りはみんな誰かしらに第二ボタンあげてたのに……なんなら全部のボタンあげてるやつなんていたのに……俺にはいなかったよ……グフッ」
奥底に眠っていた傷を無駄に掘り起こしてしまった……
「あら、なら雪の第二ボタン私に頂戴な」
「えぇー! 私も欲しい!」
「うふふ、なら私ももらっちゃおうかしら」
「あらあら、雪君は人気者ね。私も一つ頂いちゃおうかな」
今回の卒業式は俺にもボタンをあげる大切な人達がいるんだな……
「あぁ! 全部のボタンを捧げるぜ!」
「漫画では貰う描写あるけど、貰ったあとどうするんだろうね?」
「保管するんじゃないかしら?」
「ふーん? ボタンならアクセサリーとかにして、学校のカバンとかに付けても良さそう!」
「それもいいわね」
そんな会話をしながら歩いているといつも通る校門に辿りついた。
校門には卒業式を控える生徒や母親たちが談笑していた。
俺達は俺がいる為、そそくさと中に入ろうとするが……
「坂間さん!」
「しっぐれー!」
「シグシグー!」
時雨の友達が時雨を見つけて呼んでいるようだ。いや、それどころか、男の俺がいるのを見て向かってきている。
「わっわっわ! 男の子だ!」
「この子が噂の時雨の幼馴染?」
「へぇー、この子がシグシグのフィアンセなんだ?」
時雨の友達なら挨拶しとくべきだろうな。
「あー、初めまして、大淀雪って言います。時雨がいつもお世話になってます」
「なんで貴方が挨拶してるのよ」
「えっ、なんでって、時雨の友達だから挨拶しといた方がいいだろうって思って」
「そうやって愛想振りまくから犬って言ってるのよ」
「挨拶しただけで犬扱いとはひでぇ話だな!」
「普通の男の子は挨拶なんかせず、無視よ無視」
「えぇー……でも時雨の恋人として、ちゃんとしときたいじゃないか。俺の所為で時雨が変なふうに言われても嫌だし」
「それは……うれしいけど……その所為で他の女たちに群がられるのも嫌なのよね」
「俺はどうしたらいいんだよ……」
「そうね……いっそ犬のお面被って首に首輪とリードでも着けとく?」
「犬方面に寄せるなよ! 人間として生きたいよ!」
「ならせめて犬語でしゃべって頂戴。そしたら相手にされなくなるから」
「犬語を時雨は理解できるのか?」
「雪の言葉なら何でもわかるわよ」
「ワンワン!!」
「あら、私も愛してるわよ雪」
「その通りだけど、都合よく解釈してるだけなんだよなー……」
「あのさー、お兄ちゃんと時雨姉、校門前で漫才するのやめてくれる? すごいこっち見られてるから」
「「あっ」」
そういや、校門前だったわここ。周りを見渡すと……すっごい視線集まってるわ……
時雨に話しかけた3人も―――
「「「…………」」」
口開けてこっち見てるじゃん……
「ほら、時雨、お前が始めた物語だ。なんとかしろよ」
「貴方が私の友人に挨拶したからでしょ? 雪はこういう子だけど、気にしないで頂戴。誰彼構わず愛想振りまく困った子だから、近いうちに首輪とリードとボールギャグつけさせておくわ」
「なんでパワーアップしてんだよ! つうか高校に入ったらどうせ妻探しに女の子としゃべらなくちゃいけないだろ? そんな状態で話せると思ってんのか?」
「雪ならワンワンって言ってれば勝手に向こうから寄ってくるわよ」
「……妻を増やさせる気がないのか、その状態で俺に近づいてくる女の方がおかしいのか、わかんなくなってきたわ……」
「後者だから安心しなさいな」
「でしょうね!? まともな女の子と人付き合いさせてくれよ!」
「もう! 校門前だって言ってるでしょ! ほらいくよ!!」
そう言って俺は海に引っ張られ、校門から学校へ入っていく。
時雨と干菜さんはさっきの子達とお話するようだ。
このまま体育館に向かうかと思えば……
「あ、海ー!」
「海ちゃん!」
今度は海の友達に見つかったようだ。
そして案の定、こっちに寄ってくる。
「あ、この人が海のお兄さん?」
「わー! かっこいい人だね!」
「えっ、俺かっこいい?」
スパーン!
海にハリセンで叩かれた……今日も持ってきてるのそれ?
「お兄ちゃん反応しないでよ!」
「す、すまんつい……」
「う、海!? 男の子をそんな、叩くなんて!?」
「海ちゃんダメだよ! 暴力はダメだよ!」
「気にしないで、いつものことだから」
「なおさら悪いよ! お兄さん大丈夫ですか?」
「あっはっは! いつものことだから気にしないでくれ! 海の友達だよな? いつも海と仲良くしてくれてありがとな?」
「……へ?」
「もう! さっき時雨姉が言ったばっかりなのに! 私の友人にまで愛想振りまかないでよ!」
「会話しただけで愛想振りまくことになるのはおかしいだろ!? さっきも言ったけど、変な対応して、海が変に思われるのも嫌なんだよ」
「無言を貫いてよ無言を!」
「無言とか失礼だろ」
「なら、いっそ犬語しゃべってて!」
「ワンワンワオーン!」
「見ての通り、ちょっと頭おかしいからお兄ちゃんに話しかけないでね」
「おい! せっかくボケたんだからちゃんとツッコミ入れろよ!」
「いいから黙ってて!」
「う、海!?」
「ほ、ほえぇぇ、す、すごい……これが夫婦漫才かぁ……」
「まだ夫婦じゃなくて、恋人だけどな」
「こ、恋人!?」
「海ちゃん! 恋人ってどういうこと!? 詳しく説明して!」
「……ボールギャグ持ってきとくべきだった」
「いいじゃねぇか。二人共、今後も海と仲良くしてやってくれ!」
「は、はい!」
「えぇ、こちらこそ! 詳しく話を聞く必要がありそうですし? ちょっと海ちゃん借りていきますね?」
「どうぞどうぞ」
「お兄ちゃんのバカーーー!!」
そして海は友達二人に両脇を固められどこかへ連行されていった。
そして入れ替わりに……
「な、なんとか巻いてきたわ……あら、海はどこいったの?」
「あぁ、友人にドナドナされていったぞ」
「……私も雪を、家にドナドナしたくなってきたわ……」
「おいおい、卒業式終わったらおいしいもの食べに行く話になってるんだから、勘弁してくれよ」
「なら、その空気より軽い口をお願いだから閉じておいて頂戴」
「ふふふ、雪君と時雨は仲がいいわねぇ! 私も混ざっちゃおうかしら!」
そう言うと干菜さんは俺の腕に抱き着いて来た。
「ちょっと! 私の恋人なんだけど!」
時雨は反対の腕に抱き着いてくる。
「こうしておけば、ふらふらせずにまっすぐ体育館に向かえるでしょ? さぁ、行きましょう?」
「ふふふ、雪はモテるわねぇ! あとで私も抱き着かせてね?」
母さんも便乗するようだ。
そうして、俺は坂間親子に挟まれ、体育館へと入っていった。
★********★
書きたいこと書いてたらまた長くなりそうなので分けます……
40万PV突破しました! 閲覧して頂いた皆様、ありがとうございます!
明日新作とか記念SSとかを全部合わせると五話分上がるから、お休みにじっくり読んで頂ければ幸いです! 多分合計1万5千文字超えてるはず?
応援、フォロー、星を付けて頂き誠にありがとうございます!
創作意欲に繋がるので応援、星を何卒・・・!
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