第55話 穏やかな日々に訪れるピンクのギャル


 さて、無事に卒業式も終わり、短い休みを満喫することになった。

 と言っても俺は、週3回しか学校に行っていなかったから大して大変だったわけではない。

 この休みの期間、主に一緒に過ごすのは時雨だ。

 夜や休みの日は海も一緒にいるが、四六時中、時雨は俺にべったりとくっつき恋人生活を満喫していた。


「ふぁ~……さて今日は何するかな」


「何でもいいわよ」


「時雨は俺に張り付いてるだけだろ」


「雪と一緒にいられるなら、何だって楽しめる自信あるわ」


「へぇー? じゃあ、ホラー映画でも見るか」


「……いいんじゃないかしら。雪、あぐらをかいてもらえる? 抱きつけないから」


「見る気ないだろ?」


「私は雪を見てれば十分だから」


 最近わかったことだが、時雨はどうも怖いものが苦手らしい。

 だが本人は頑なにそれを認めようとはせず、意地でも付き合ってくる。

 俺と海が興味を示したホラー映画を見ることになった時は、ずっと俺に正面から抱きつき、映画を見ていた。いや、見ていたというより、ただそばにいただけか。


「……どこか出かけるか?」


「さすがに私一人だと何か起きた時に対処するのが難しいわ……」


「でも、こういう平日にデート行きたくないか?」


「……それは……行きたい……海もいないし、独占できるわね」


「んじゃ、行く?」


 時雨は考えながら部屋を見渡すと、ある物に気付き、それに近寄った。


「これに着替えて頂戴」


 時雨が手に取ったのは―――


「……女装しろと?」


「それしかないでしょ」


「…………」


「安心して、ちゃんと胸があるように見せるためのパッドもあるわよ」


「そんな心配、一ミリもしてねぇんだよなぁ!?」


「仕方ないじゃない。この間あんなことがあったんだし、さすがに私一人じゃ危険だもの」


「外出るの、やめとくか」


「ダメよ。雪がデートに行きたいか聞いてきたから、行きたくなったわ」


「……ボディガードでも雇うべきだろうか?」


「毎日外に出るんだったら必要かもしれないけど……高いわよ?」


「そうなのか?」


「えぇ、専属で雇うことになるだろうから、基本年契約で数百万よ」


「……さすがに無理だな」


「男性は確かに襲われるけど、基本町中を出歩くことないから、雇う人なんてそれこそ芸能人とかお金持ちくらいよ」


「都合よく、その辺に落ちてたりしないかな?」


「落ちてたら、それはもうボディーガードだった人の亡骸でしょ」


「生きてる都合の良いボディーガードを拾えることを願おう」


「そうね、宝くじで一等を当てる確率以下でしょうけど、せいぜい探してみなさい」


「おう、拾ったら宝くじ買おうな」


「えぇ、三千円分買えば数億円になるでしょうから、拾ったら買いに行きましょう。で? 覚悟は決まったかしら?」


「まじで、着るの?」


「着なさい。手伝ってあげるから。一人でお着替えも出来ないなんて、雪ちゃんはまだまだ子供ね?」


「女装に慣れてたら怖いだろ」


「そうかしら? 基本町中で男性を見かけないけど、それって男性が女装して紛れ込んでるから、いないように見えるだけって私は思ってるわよ」


「あー、ありえなくはないな」


「でしょ? だから着替えなさい」


「はい……」


 そして、俺は時雨に手伝ってもらいながら人生初の女装をした。

 女装させた俺を時雨はマジマジと見つめ始め、急に自分の部屋に戻ったかと思えば、化粧道具まで持ってきた。

 女装に加えてメイクもされ、割と本格的に変装することになったのだが……


「ふーん? 悪くないんじゃないかしら?」


「まじかよ」


「えぇ、ほら」


 時雨がコンパクトミラーで俺の姿を見せてくれた。


「ほー? 意外と悪くないじゃないか」


 黙っていれば割と美人よりの顔に見える。化粧ってすげぇな!


「でしょ? 私の化粧技術に感謝しなさい」


「ケショウノオンジンカンシャエイエンニ!」


「感謝してるなら、することあるわよね?」


 ……「あるわよね」と言いながら目を閉じてこちらに顔を向けたら、やれって言ってるもんじゃないか。だから俺は、期待に応えるため時雨の唇に唇を重ねた。


「これでいいですか? メイク担当様」


「いいわよ。さぁ、出かけましょうか」


「どこに行くんだ?」


「駅前にでも行って適当にぶらつきましょう。あの辺りは色々あるから」


「おっけー」


 そして、俺と時雨は家を出て駅に向かって歩きだした。

 何人かの女性とすれ違ったが、バレることはなく普通に歩けている。

 こうやって歩きながら見渡すと、女性しかいないように見えるが、実は男性が紛れ込んでいたりするのだろうか?

 やがて駅近くに来たところで意外な人物と遭遇した。


「あれー? シグシグじゃん! こんこんー!」

 

 先日の卒業式で遭遇した時雨の友人だった。


「……こんにちわ、愛羅あいら


「どうしたのこんなところで? とゆうか隣の子誰? 学校の友達じゃないよね?」


 愛羅と呼ばれた子は俺のことをマジマジと見つめてくる。

 くっ……時雨や海で慣れているとは言え、美少女に見つめられるとちょっと照れるな……

 この子の見た目はピンク髪でセミロングの髪で首辺りからウェーブがかかっている。また、胸も大きめで、海と同じくらいだろうか? 目はぱっちりとしており、かわいい系の子……喋り方からして明るいギャルっぽい感じがするな。


「この子は……親戚の子よ。ちょっとしゃべるのが苦手な子だから、そっとしておいてあげて頂戴」


「親戚の子……? しゃべるのが苦手……? ……へぇー?」


 そう言うと、愛羅と呼ばれた子は俺の周りをグルグルと回りながら観察し始めた。


「ちょっと! この子に失礼よ」


 何かを察したのか、時雨は愛羅と呼ばれた子の前に立ち塞がる。


「ユッキーだよね?」


 バレテーラ……よく見分けれたな。


「雪がこんなに美人なわけないでしょ」


「普通ならバレないだろうけど、あーし、ファッションモデルとかやってるからさ、結構人の変化とか気づきやすいんだよね」


「バレたなら仕方ないな」


「あ、やっぱユッキーじゃん」


「おう、初めまして……でもないか、大淀雪って言うんだ。よろしくな!」


「この間はボタンあんがとね! あーしは、桃園ももぞの 愛羅あいらだよ! ユッキーのことユッキーって言うから、あーしのことも好きに呼んでいいよ!」


「んじゃ、愛羅って呼んでいいか?」


「もちもち♪」


 明るくてずっと笑顔で簡単にこっちのパーソナルスペースを超えてくる。コミュ力高そうな子だな。


「んでー、ユッキーとシグシグは何してんの?」


「デートよ♪」


「いいなぁ! ちょうど暇してたから、あーしも混ぜてよ! ダブルデートしよ!」


「ダブルデートって愛羅の相手がいないとできないだろ」


 俺は当然の疑問を聞き返すが……


「あーしは脳内の理想の恋人とデートってことで!」


「いいわけないでしょ!」


 時雨は愛羅が来るのが反対なのか、猛犬の如く噛みつく。


「えぇー、シグシグは高校入るまでずっとユッキーとイチャイチャしてんでしょー? あーしも混ぜてよー! 友達じゃん!」


「友達だったらデートの邪魔しないように空気読みなさいよ」


「そんな空気は、あーしが全部ぶっ飛ばしてやんよー! シュッシュ!」


 愛羅は目の前でシャドーボクシングをし始める……これはついてくる気満々だな。


「まぁ、いいんじゃないか? たまには違う人とも遊びたいし」


「ユッキーわかってんね! 遊ぼ遊ぼ!」


「雪……」


「まだ入学まで時間はあるんだ。その間にまた平日デート行けばいいだろ?」


「……朝から夜添い寝するまで二人っきりコースね?」


「それは海が許さないんじゃないか?」


「……じゃあ明日はいっぱい構って」


「お安い御用で」


「二十四時間建築と爆破繰り返すから」


「安くなかったわ。完全に詐欺じゃん」


「建築と爆破って何? 何かのゲーム?」


「愛羅、世の中には知らなくてもいいことがあるんだ……」


 そんなこんなで俺達は三人で散策し始めた。


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