第50話 私の自慢のお兄ちゃん
「よかった……無事だった……」
お兄ちゃんが肩で息をしてる……ずっと私を探していたのかな?
「お兄ちゃん……」
「あ゛ぁ゛ぁ゛ーつっかれたー」
お兄ちゃんが私の前まで歩いてくる。
「はぁ、はぁ、はぁ……あー……その……すまなかった!」
お兄ちゃんが私の目の前で急に土下座をした。
「……えっ? ……なんで土下座?」
「ずっと……時雨に構って、海のことを蔑ろに……するつもりはなかったのに、してしまっていた! だから、本当にごめん!!」
お兄ちゃんは頭を地面に擦り付けている。
「お、お兄ちゃん! 顔をあげて!」
私は慌ててお兄ちゃんの顔をあげさせた。
お兄ちゃんは顔を上げると悔しそうな顔で俯いている……
「二人と結婚するんだ……平等に扱わなきゃいけないのに……それを疎かにして、海に辛い思いをさせてしまったんだ……だから……その……」
「……お兄ちゃんは……時雨姉を第一夫人にするの……?」
「……? 別に決めてないが? 第一だろうが、第二だろうが俺は平等に接するつもりだぞ?」
「じゃなくて……あぁ、そうだよね。わからないよね……」
「?」
「ちょっとお話しようか……」
私はお兄ちゃんと一緒に公園のベンチに向かいお兄ちゃんがベンチの端に座ったので私は真ん中に座った。
「んっとね……第一夫人ってさ、他の夫人をまとめる権力があるんだよ」
「なんで?」
「なんでって……男性の意見を他の妻に伝えたり、妻の意見をまとめたりするからかな? 男性ってあんまり自主性ないから」
「ふむ? それで?」
「うん……それで、私が男性保護省に登録することになった経緯になるんだけど……」
私は自分の過去をお兄ちゃんに話すことにした。
「そっか……だから海は妹になることになったのか……」
「うん、だから……私は……第一婦人になって「じゃあ第一婦人になったらいいんじゃないか?」……えっ?」
「いや、ぶっちゃけさ、俺にとって第一だろうが、第二だろうがどうでもいいしさ? それで海や時雨に優劣つけるつもりはないし、先に妊娠しようが、あとに妊娠しようが、絶対に大事にするし、悲しい思いは……できるだけさせるつもりはない。というか、俺がそんなことで海を一人にすると思うのか? それこそ俺にとって心外なんだが?」
「でも……時雨姉は「私は別にかまわないわよ」……時雨姉!」
時雨姉が近くから出てきた。傍で聞いてたのかな?
時雨姉は近づいてきて、私の隣に座った。
「……いいの?」
「えぇ、第一夫人のことは理解してるけど、そんなことどうでもよくなったし」
「……どうして?」
「雪を好きになったからよ。雪と結婚出来るなら何番目だって構わないわ。まぁ、あんまり多すぎて雪と触れ合う機会が減るのは嫌だけど」
「多すぎるって時雨の中で俺は何人と結婚してることになってんだ……」
「ほっといたら、三桁の女性と結婚してそうよね」
「俺の体が持たねぇよ! そんなにするわけないだろ!」
「そうかしら? 胸が大きい子ばかり集めて乳暖簾着させて、チュパチュパしてる様子が目に浮かぶんだけど?」
「……それは……したい……けど! そんなには必要ねぇよ!」
「やっぱりしたいんじゃない。あとでする? 乳暖簾はないけど、吸われると大きくなりそうだし」
「よろしくお願いします」
「素直でけっこう。で、海はそれでいいかしら?」
「……いいの?」
「そもそもの話、第一夫人が権力持つのって男性が何もしないからでしょ? だから第一夫人が他の妻を束ねてるんじゃない。それに比べて、雪が何もせずに黙ってると思う?」
「……思わない」
「でしょ? むしろみんなで鎖で繋いでおかないと、本当に婚約者三桁になるわよ」
「鎖で繋ぐって、俺は犬かよ……」
「誰にでも愛想振り撒くって意味では犬と一緒でしょ。犬なら犬らしくベッドの上でも腰振って欲しいわね?」
「犬はベッドで腰振らねぇだろ」
「世の中の発情した雌犬は、ベッドの上で寝てる男の上で腰振ってるわよ」
「急に下品な話になったなぁ!?」
「まぁ、ともかく、海の過去が大変だったのはわかったけど、雪が妻を放置するなんてありえないから考えるだけ無駄よ、無駄」
「そっか……」
「まぁ、でも今後雪がどんな人捕まえるかわからないから、不安なら第一夫人になりなさいな。それで海が管理したらいいじゃない。できるならだけど」
「……お兄ちゃんが第一夫人のまとめた意見を無視するから……?」
「なんでそうなるのよ……むしろ直接妻達と関わろうとするからよ。本来の第一夫人の役割なんて、あって無いような物になるでしょうね」
「……そっか……あははは……」
私は時雨姉の話を聞いて、悩むだけ無駄だったことを理解して、乾いた笑いが出た。
「んじゃ、海もわかってくれたことだし、もう一つも終わらせるか」
「……? もう一つって?」
そう言うとお兄ちゃんは私をお兄ちゃんの方に向かせて抱きついてきた。
そのまま、お兄ちゃんは私にキスをしてくれた。
長いキス―――お兄ちゃんが自ら進んでしてくれたのは初めてだ―――
私も自然とお兄ちゃんを抱きしめ返していた。それに呼応するように、頭も撫で始めてくれる。
お兄ちゃんは私の唇を啄むようにキスをしていると舌まで入れてきた。
私は驚きながらも、同じように舌を絡め返す。
気持ちいい……頭がボーッとしてくる……
私は夢中でお兄ちゃんの舌と遊んでいると、お兄ちゃんがキスするのをやめて、私を見つめてくる。
「海……俺、海のことが好きなんだ。だから俺と恋人になってくれないか?」
「「えっ!?」」
「ダメか?」
「えっ、いや、えっ?」
「ゆ、雪!? 私は!? 私はどうなるの!?」
「えっ? 時雨とも恋人でいるつもりだぞ?」
「は、はぁっ!? 二股ってこと!? 最低じゃない!」
「なんで?」
「それは……恋人って普通一人がなるものじゃ「それ漫画の話だろ?」……」
「重婚ができるのに、恋人が一人ってのもおかしい話だろ」
「それは……そうかも?」
「お兄ちゃんから漫画の中だけの話って言われると思わなかった……」
「どうせ結婚するならちゃんと愛し合って結婚したいからな。だから……海、俺と恋人になって欲しい」
「……私が……恋人でいいの?」
「良いも悪いも、海がいいんだ。……海じゃなきゃダメなんだよ。いつも傍に居てくれて、明るくて、近くにいるだけで俺を元気にしてくれる。海がいいんだ」
私は―――私は―――
「―――はい……私を……お兄ちゃんの……恋人に……して下さい」
私の目からは自然と涙がこぼれ、お兄ちゃんの胸に顔を埋めた。
―――私が泣き止んだあと、私達は三人で仲良くお家に帰っている。
「あー……コンビニ寄っていいか? 夜食と……走りすぎて喉が渇いたから何か飲みたい」
「えぇ、寄りましょ……財布持ってきてる?」
「……忘れた」
「……私もない」
「だと思ったわよ。そう言うと思って私が持ってきてるから出してあげる」
「ありがとう時雨もん!」
「流石だな時雨もん!」
「雪と海の中でそれは共通認識なの……?」
「「うん!」」
「はぁ……まぁいいわ。さっさと買っちゃいましょ」
そして私達はコンビニに入り、飲み物を選び、夜食を選んでいると……私は懐かしい物を見つけたので、それを選んだ。
会計を終えて外に出ると……
「ゴクゴクゴク……ぷはぁー! 生き返るわー。さてさて……」
お兄ちゃんはペットボトルの飲み物を一気に半分飲んだあと、そのまま夜食のパンを食べ始める。
「今食べるの? お行儀悪いわよ」
「いやー走りすぎてお腹空いちまってな」
……私も今日はあんまりご飯食べなかったからお腹すいちゃったな……私も食べちゃお!
「お、海はドーナッツ買ったのか」
「うん、懐かしくなって」
「懐かしく?」
「まだ、ママと一緒に住んでた時、唯一の楽しみが菓子パンだったんだけど、ドーナッツが一番好きだったの」
「そっか……なぁ、海」
「ん?」
「今度みんなでドーナッツ食べに行こうな?」
「うん? うん」
「好きな食べ物食べる時はさ、笑顔でいるべきだと思うんだ」
……私今どんな顔してたんだろ?
「だからさ、好きな物を食べる時に笑顔でいられるような思い出を、これから作っていこうぜ!」
そう言ってお兄ちゃんは私に笑いかけてくれる―――
あぁ、今日はもうダメだな……簡単に涙が出てきちゃう……
「……うん……お兄ちゃん」
「ん?」
「……大好き!」
「あぁ、俺も大好きだぞ!」
私はドーナッツを頬張るが、久しぶりに食べたドーナッツは頬を伝う涙のせいで、少しだけしょっぱく感じた。
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