第49話 大淀 海②
『海へ、元気に過ごしているでしょうか? 私は海のお陰でなんとか生活出来ています』
ママ……
『今後、海と再会できるかはわかりません。なので、この手紙で伝えておこうと思います』
伝えるって、病院で言ってた話かな?
『以前伝えましたが、海は自然妊娠で産れました。そして、その所為で辛い思いをすることになってしまいました』
どういうこと……?
『自然妊娠するということは私には夫が居ます。私はその夫の第三夫人でした。私は夫と性行為をして、第一、第二夫人より先に妊娠してしました。その所為で第一、第二夫人から、イジメを受け、夫から遠ざけられ、お金を持ち合わせず、一人追い出されてしまいました』
ママ……
『結婚の際に実家と一悶着あり、家に戻れず、あのアパートに住んでいました。夫への仕送りもする必要があり、満足のいく生活をするのが厳しい状況でした。それでも、海には辛い思いをさせないように、必死に働いて頑張っていましたが、身体を壊してしまい、男性保護省を頼ることにしたのです』
…………
『窮屈な思いをさせてしまい、ごめんなさい。寂しい思いをさせてしまい、ごめんなさい。私は貴方に幸せになって欲しい。きっと海は男の子と一緒に住むことになるので結婚することになると思います。だけどどうか、私と同じ様な目に合わないこと願っています』
…………そうだったんだ。
『できれば、第一夫人になって、他の妻を管理できる立場になれることを目指して下さい。そうすれば、私と同じ目に合わずに、先に妊娠してしまえば、私と同じ境遇の人ができることもないでしょう』
…………
『海の幸せを心から願っています。――――海のママより』
……私のママは第一夫人になれなくて、妊娠したから、あんなにいつも辛そうにしてたんだ……
私はママと同じようにならない為に……ママの経験を活かす為に……私はお兄ちゃんに積極的にアピールして行くことを心に決めた。
と言っても、すぐには行動には移さず、じっくりと……
でも……お兄ちゃんはそんな私の思いとは違い、どんどん女性不信を拗らせていく……。
慌ててはダメ……。いずれ妻探しをするんだから、お兄ちゃんが積極的になるまで、嫌われないように我慢我慢―――
お兄ちゃんが中学生になり、いよいよ会話すらしなくなった。
というよりも、会うことすら珍しくなる状況……
ここで慌てても、うまくいくことなんてない。どうせ高校に入れば、妻探しをするはずだから、それまで大人しくしておこう……
―――けれど、そんなことはお構いなしに、運命の歯車は回り始めた。
お兄ちゃんが階段から落ちて、意識不明になった。何日も意識が戻らない。
このまま起きなかったら、私はどうなるのだろう? 私はまた一人ボッチになるのかな……?
お願いします……お兄ちゃんの意識が戻りますように……
―――お兄ちゃんが目覚めたらしい。私とお母さんは急いで病院に向かった。
「雪!!」
「お兄ちゃん!!」
私とお母さんは病室に飛び込むように入ってた。
ベッドで上半身だけ起こしているお兄ちゃんに目を向けると―――
「えっと……おはようございます。私の……家族……なんですかね?」
お兄ちゃんは記憶をすべて無くしていた。
私の努力はなんだったのだろう? せっかく一番近くに居たのにすべてひっくり返された気持ちになってしまった。
思わず、お兄ちゃんに抱き着きそのまま泣いてしまった。
そんな私の気持ちを知らずに、慰めようとお兄ちゃんは私を抱きしめて、頭や背中をヨシヨシしてくれた。
―――ポカポカする。
誰かに抱きしめてもらうなんてママ以来だ。
私は嬉しくなった。
別に記憶が戻らなくても、こっちの方がいいんじゃないかな?
今のお兄ちゃんとなら仲良くなれる自信がある。
だから私は、お兄ちゃんが前みたいに引きこもらないように、今までの日常を上書きしようとした。
今までこう過ごしてきたようにみせる為に……
また、今まで接触できなかった分を取り返す為に接触できる機会を増やすことにした。これに関しては時雨姉も同意だったのでスムーズに事が運んだ。
―――楽しい。
ただ、お兄ちゃんを誘惑してるだけなのに、お兄ちゃんはずっと恥ずかしそうに、でもやってもらうと嬉しそうにしている。
私が胸で抱きしめてあげた時の顔ときたら……頬が緩みまくってひどい顔してた。
それにしても不思議だ。
お兄ちゃんを抱きしめるだけで、なんでこんなにポカポカするんだろ?
そのあと、お兄ちゃんが部屋に行くと言うので私は今日はずっと一緒に居られるようにベッドのシーツを剥ぐことにした。
……うん、どのみちちょっと臭いからいい機会だ。
そのあと、私は遺書を見つけて動揺してしまった。
でも、すぐに誤解は解けた……というかお兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなかった。
それでも、今のやさしいお兄ちゃんが居てくれるなら……私はそれで構わない。
今日はトコトンお兄ちゃんを誘惑する!
―――そして私は無事にお兄ちゃんから搾ることができた。
お兄ちゃん気持ち良さそうな顔してる……うれしい……
そのまま私はお兄ちゃんに抱きしめられて、眠ることにした。
暖かい……体も暖かいけど……心がポカポカしてる……
いつの間にか眠っていた私は朝起きた時、このポカポカから抜け出すのに苦労した。
それから、お兄ちゃんとの日々は楽しかった。
今までお兄ちゃんと居てこんなに楽しかった日々はなかったと思う。
お兄ちゃんが笑う顔も、恥ずかしそうな顔も、困った顔も、どれも新鮮で、見ているだけで私も楽しくなる。
でもそんな日々は束の間―――
私達がいるタイミングでお兄ちゃんを連れ去ろうとする奴らが現われた。
私はお兄ちゃんを連れて逃げ出そうとするが―――
「海! 俺は時雨のところに戻る!」
「はぁ!? 何言ってるのお兄ちゃん!?」
「時雨を置いていけるわけないだろ! 海は警察に急いで連絡してくれ!」
「……怪我したら承知しないからね!!!」
私は急いで警察に連絡して、お兄ちゃんを助ける為に現場に戻った。
戻ったけど……なんかお兄ちゃんが無双してた……
こんなコンクリの上で全力疾走のドロップキックなんてしたら痛いに決まってるじゃん。
それで……時雨姉は……どうしたの……?
私はお兄ちゃんにお願いされて、時雨姉に聞いてみることにした。
「時雨姉どうしたの? なんか昨日から変だけど」
私は時雨姉の話を聞いて恋していることに気付いた。気付いてしまった。
「だってもうそれ、恋する乙女じゃん」
それを時雨姉に自覚させてしまったことで時雨姉が止まらなくなった。
玄関でお兄ちゃんに告白して、恋人になり、時雨姉はお兄ちゃんにずっと甘えて、お兄ちゃんもそれを受け入れて、甘えさせている……
今の時雨姉を見ているとモヤモヤする……
一番側にいるのは私なのに……なんでそんなに仲良さそうなの?
なんでお兄ちゃんは時雨姉を愛おしそうに見ているの?
お兄ちゃんは……時雨姉と……先に結婚するの……?
嫌だ―――
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ―――
時雨姉が先にお兄ちゃんと結婚したら……私はどうなるの……?
私も……ママみたいになるの……?
わかんないわかんないわかんないわかんないわかんないわかんない―――
私は頭の中がぐちゃぐちゃになり、いつの間にか家を飛び出していた。
気が付けば、私は公園のブランコに座っていた。
こんなところに来ても何も変わらないのに……
私……また一人ボッチになるのかな……?
地面にずっと私の頬を伝って涙が落ちている。
ママ―――
ママに会いたい―――
「やっと見つけた!!!」
声が聞こえた。
声がする方を見ると……汗だくになっているお兄ちゃんがいた。
★********★
あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”砂糖が恋しい……
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