第48話 大淀 海①


 私は海。

 名字は……知らない。


 私に意識が芽生え始めたのは幼稚園の年長位……なのかな?

 

 私は世にも珍しい自然妊娠で生まれた子らしい。


 でも、そんなことはどうでもいい。

 私はずっと寂しい思いをしていた。


 ママは私を幼稚園に送り迎えする以外はほとんど家にいることはなかった。

 だから私はいつもボロアパートで一人ぼっちだった。

 夜遅くにママが帰ってきても、ママはさっさと寝るだけ。


 どこで何をしているのか知らない。でもいつもママは疲れ切った顔をしていた。

 私はそんなことお構いなしに、傍にいてよと泣きながら言ったこともあったが、返ってくる言葉はいつも一緒だった。


『ごめんね……ごめんね……私の所為でごめんね……』


 私は泣いていたが、ママも泣いていた。

 そしてまた、私を置いてママはどこかへ行く。


 さびしい……


 この部屋には何もない。


 ゲームも無ければ、漫画も、テレビもない。


 寝床しかない空間で私は日々を過ごしていた。

 唯一の楽しみはママが晩御飯用に買ってきてくれていた菓子パンだけ。

 特にドーナッツはおいしい。ドーナッツを口いっぱいに頬張りながら食べるのが好き。


 そんな楽しみさえもない日が唐突に訪れた。

 ママが帰ってこない。

 どんなに遅くても、必ず帰ってきてたのに。


 朝を迎えても、ママは帰ってこない。幼稚園はどうしたらいいの?

 一人で出歩くのは怖いから、私はこの小さな空間に閉じこもったままになった。

 

 そして、また夜を迎えるが、ママは帰ってこない。

 お腹が空いた……

 昨日から何も食べていない。

 私は水道のお水だけでお腹を満たす。

 

 今日はママ帰ってきてくれるかな―――


 けっきょく、その日もママが帰ってこないまま朝を迎える。

 私はこのまま死んじゃうのかな?

 もっと菓子パンお腹いっぱい食べたかったな……


 ピンポーン


 部屋の呼び鈴が鳴った。

 本当は開けちゃ駄目って言われてるけど、もしかしたらママかもしれないと思い、私は扉を開けた。

 だけど、扉の前に立っていたのは知らない女の人だった。


「貴方は海ちゃんで間違いないかな?」


「……うん」


「貴方のお母さんが今入院してるの。一緒に来てもらってもいいかな?」


「……ママに会える?」


「えぇ、会えるわ」


 お姉さんは私を怖がらせないように優しい笑顔で手を差し出してくれている。

 私はママに会いたかったので、お姉さんの手を取りアパートを出た。


 お姉さんの車に乗り、連れて来られたのは大きな病院だった。

 

 私はお姉さんに手を繋がれ一緒に病院内を歩いていく。

 

 そして、病室の前でお姉さんは立ち止まり、扉を開けた。


 そこにはベッドに横たわり、腕には点滴が繋がれたママがいた。

 

「ママ!」

 

 私は思わず、叫び、ママの元へ駆け寄った。


「……海」


「ママ! ママ!」


 私はママにまた会えて思わず抱き着き泣いた。


「ごめんね、海。心配かけて……」


「ううん……ママ帰ろう? お腹空いた」


「……海、よく聞いて?」


「うん?」


「これから、海には男性保護省の姉妹プログラムに登録してもらうの」


「姉妹プログラム?」


「えぇ、これから海には別の家族の所に行ってもらうの」


「どう……して? ママは!? ママはどうなるの!?」


「私のことは気にしなくていいの」


「なんで! ママと一緒がいい!」


「私と一緒に居たら、海が幸せになれないから……」


「……どうして?」


「……海がもう少しだけ大きくなって、理解できるようになったら教えてあげるから」


「……ママ」


 そう言ってママは私を抱きしめてくれた。


 それから私は一緒にきたお姉さんと姉妹プログラムに登録した。

 私を連れてきてくれた女の人は男性保護省の人だった。

 そこで私は姉妹プログラムの内容を知った。

 私は歳の近い男の子と一緒に暮らすことになるらしい。

 私はその男の子に色々誘惑をして男の子が女性に慣れるようにしつつ、女性に興味を持つ……所謂性行為に興味を持つように促すのが役目だそうだ。


 それから私は別の場所に少しの間引っ越しを行い、男性保護省のお姉さんと一緒に暮らしていた。

 そこで私は幼稚園が終わったあと、お姉さんから姉妹になることの説明を受けつつ、男性の興味を引かせる方法や、恋愛漫画などを読んで色々な知識を蓄えた。


 そして、私は小学1年生になり、いよいよ男性の住む家に引っ越すことになった。


「いい海ちゃん? 今日から貴方は大淀家の新しい家族になるの」

 

「新しい家族?」


「そう、家族構成としては母親と男の子の2人家族よ。お隣に幼馴染の女の子がいるわ。そこに暮らす男の子が先日事件に巻き込まれてね、ちょっと女性不信になってるみたいだから、貴方はそれを癒す必要があるの」

 

「そうなんだ」


「えぇ、だから打ち解けて、信頼を得るところから始めるようにしてね」


「わかりました」

 

 そして私は、お姉さんに連れられ、大淀家にやってきて玄関で対面した。


「貴方が海ちゃんね……私は大淀秋って言うの。よろしくね?」


「よろしくお願いします」


「……今後は家族になるんだし、気楽にいきましょ? いずれ貴方は家の子……雪と結婚することになるんだろうし。堅苦のは辛いもの」


「……はい、マ―――お母さん」


「えぇ……ふふ、今後ともよろしくね? さぁ、雪にも挨拶にいきましょう」


 私とお姉さんと秋さ……お母さんと一緒に家の中に入った。

 リビングに案内され、そこに一人の男の子がいた。


「ほら、雪、新しく家族になる妹よ。仲良くしてね?」


 この子が私のお兄ちゃんになるんだ? えっとー、可愛らしく挨拶したらいいんだよね? 出来るだけ可愛く笑顔で……


「初めまして、お兄ちゃん! 私、海って言うんだ! よろしくね♪」


「……よ、よろしく……」


 思ったより反応が薄いなぁー。こんなものなのかな? 女性を信じられないって話だもんね。これから頑張ればいいか! 以前幼稚園で見た男の子みたいじゃ無くてよかったー。


 そして、次の日、時雨姉とも挨拶を交わし、お兄ちゃんの女性不信を治す為に、時雨姉と協力して、お兄ちゃんの傷を癒やすことに専念していた。


 ―――そんな日々が二年経った頃にママから手紙が届いた。



★********★

すみません、5000文字超えたので一旦ここで切ります。


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