第43話 溢れ出す思い
俺と海は母さんに土下座をしてたが、思ったより怒られることはなかった。
「そこまでしなくていいわよ。確かにけっこう使ってるみたいだけど、たまにする分には許します」
よかった……怒られずには済んだようだ。
「以前の雪もそんなに浪費してなかったし、男性保護省からもお金貰ってたから、多少は大丈夫よ」
「ならよかったよ」
「さ、ご飯食べましょ。時雨ちゃんは自分の家で食べるの?」
「そうみたい」
「なら、家族水入らずで食べましょうか」
そして、家族でご飯を食べて、海とお風呂に入り、海と一緒に寝た。
その日、時雨と会うことはなかった。
**********
翌朝目を覚ますと海もベッドで寝ていた。
流石に昨日は歩き疲れたのだろう。
このままゆっくり寝かせておこう。
俺は海を起こさないようにゆっくり起き上がり、顔を洗うため洗面所に向かう。
顔を洗い、歯を磨いたあと……何しようか?
一人で朝飯食うのも味気ないし……部屋で漫画か何か読んでるか……
俺は部屋に戻ったのだが……そこには時雨がいた。
「おっ! おはよう時雨」
「! え、えぇ、おはよう」
時雨は俺から顔を逸らし髪を弄りながらモジモジしている。
「あー、今日は適当に家でゴロゴロするつもりだが、時雨はどうする?」
「えーっと……そ、そう、私ものんびりするわ」
「あぁ、あとで炭酸ジュースでも買いにスーパー行くが、時雨も来るか?」
「え、えぇ!? また外に出るの!?」
「外でないと買い物できないだろ。ネットで注文も出来るだろうがすぐ来るわけじゃあるまいし」
「怖くないの……?」
「外出るのがか? 別に怖くはないけど……。まぁ、なんかあったらまた守ってやるから安心しろって」
「……そ、そう。私も買い物についていくわ」
「おう」
そんな話をしていたが……
母さんに止められた。
「雪、病院行くわよ」
「えっ、別に病院行くほど痛いわけじゃないんだけど?」
「何言ってるの? 記憶喪失ってことで経過観察することになってたじゃない」
「あっ」
すっかり忘れてたわ。
「行かないとダメでしょ? もしかしたら脳の異常があるかもしれないし」
「そうだね。一緒に来てもらっていいかな? 流石に病院は遠いから」
「えぇ、わかったわ」
「ちょっと海と時雨に伝えてくる」
そう言って俺は部屋に戻った。
「あ、お兄ちゃんおはよう」
「おはよう。悪いダラダラするつもりだったけど、病院行くの忘れてたわ」
「あーそういえばそうだったね。じゃあお兄ちゃんが帰ってきてダラダラできるように飲み物と追加のお菓子買っといてあげるよ」
「あぁ、頼んだ。あと……時雨のことも頼んどいていいか? なんかまだ様子おかしかったし」
「あーりょうかーい」
海に時雨のことをお願いして、俺は母さんと一緒に病院へ向かった。
**********
<SIDE 時雨>
雪が病院に行ってしまった為、私は海と一緒にダラダラする為のお菓子と飲み物を買いに行くことになった。
雪と離れ離れになってしまった……さびしいけど、今はそれでいいのかもしれないわ。
「はぁー……」
「時雨姉どうしたの? なんか昨日から変だけど」
「なんか……雪を見ると胸が痛くなるのよね……」
「胸が……?」
「えぇ、なんというか、こう……見てると心臓がドキドキして、正面から見れなくなって、傍に居たいけど……どうにかなっちゃいそうで……」
「……? お兄ちゃんのこと嫌いになったとか?」
「そんなことないわよ!」
「……他には何かある?」
「他……朝雪に見られた時に、ちゃんと身だしなみ整ってるか気になったり……雪に触って欲しいけど、触られるだけでドキドキしたり……? 昨日雪にお姫様抱っこされた時は心臓が止まるかと思ったわ」
「ほえぇー……」
「な、何よ……」
「なんか時雨姉、漫画のヒロインみたいになってない?」
「漫画のヒロイン?」
「だってもうそれ、恋する乙女じゃん」
私は海の言葉を聞いてその場で立ち止まり、昔読んだ恋愛漫画のヒロインと照らし合わせた。
彼のことが気になってしまう → YES
彼の前でおしゃれや髪型を気にしてしまう → YES
彼に会いたいと思ってしまう → YES
気がつけば彼のことを考えてしまう → YES
etc...
あれ―――私―――雪に恋してるんだ。
なんで―――
『なんでって、俺の所為で時雨が危ない目に合ってるのに逃げれるわけないだろ? 大切な人を身代わりにして逃げるなんて俺にはできねぇよ。むしろ普段は時雨に助けて貰ってるんだ。こういう時ぐらい俺に時雨を守らせてくれよ』
雪は私が大切―――雪が私を守る―――
私は今の雪と出会ってからのことを思い出す。
私がアピールするたびに、恥ずかしそうにしながらも受け入れる雪。
私が適当にボケると丁寧にツッコミを入れてくれる雪。
私と会話して楽しそうにしてくれる雪。
私を見て褒めてくれる雪。
私と――――
私の―――雪に対する気持ちが―――好きな気持ちが―――私の中ですごい勢いで溢れていく。
会いたい……
雪に会いたい―――
雪に抱きしめてもらいたい―――
あぁ―――そうなんだ―――これが―――恋なんだ―――
**********
<SIDE 雪>
うん、病院の検査では案の定何もなかった。
いや、わかってはいたけどね?
頭の怪我も何ともないし、むしろ昨日のドロップキックした影響で体の方が痛いわ。
うん……検査では何もなかったんだが……
「と゛ほ゛し゛て゛れ゛ん゛ら゛く゛し゛て゛く゛れ゛な゛い゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛」
一週間振りに会った梓さんから抱き着かれ泣かれた。
「す、すみません! ちょっと忙しかったものですから!」
俺の責任である……梓さんから貰った連絡先は机の上に置きっぱなしのままだ。
なんとか宥めようと抱きしめ返し、頭を撫でてあげた。
「ずっと待ってたのにぃぃぃぃぃ!」
「ほ、本当にすみません! 悪気はなかったんです!」
「携帯! 持ってきてるよね!」
「はい! ございます!」
俺は携帯を取り出すと問答無用で奪い取られ、Beamと電話番号の登録をされた。
「今日絶対に連絡するからね! ちゃんと出てね!」
「わ、わかりました!」
それから梓さんにされるがままだった。
梓さんの胸に抱きしめられたり、俺の胸に抱きついたり、頬にキスし合ったりと前回よりスキンシップが多いが、悪い気はしないのでそのままやりたいようにやらせた。
つ、疲れた……まだ昨日の疲れが抜けきってないな……帰って二度寝したい気分だ……
どうせ帰ったらゴロゴロすると決めているのだ。昼寝でもするか。
病院の検査が終わり、俺は母さんの車に乗り病院をあとにした。
家に帰りつき、玄関を開けた。
「ただいまー」
俺が帰ってきた挨拶をすると二階からドタドタと足音がした。
いつものハグとキスをする為だろう。
そこまで急がなくてもよくないか?
足跡が近づいてきたと思ったら時雨が俺に飛び込んできた。
「おぉ、時雨、ただい――んんっ!?」
時雨は俺に抱き着くとキスをしてきた。
いつもの短いキスではない。
長めのキスだ。
そのまま俺の唇を啄むようにキスを繰り返す。
急に情熱的なキスをされ戸惑うが、俺の気持ちなどお構いなしに時雨はキスを繰り返す。
落ち着かせる為に、時雨を抱き寄せ、頭をゆっくりと撫で始めた。
「し、時雨姉……?」
海も来たようだが、時雨は気にもしない。
流石に長すぎると思い、時雨の背中をポンポンと叩き、少しだけ顔を離した。
「し、時雨、ただいま。今日は随分と情熱的なんだな」
「……雪」
「ん?」
「雪、雪、雪、雪……」
時雨が今度は俺の胸に顔をこすりつけ始めた。
「海よ……時雨はどうしたんだ……」
「あー……」
海もどう説明していいかわからず、固まっている。
「雪……」
「ん? どうした時雨」
「私―――私!!」
時雨が決意と不安を合わせた様な顔で俺を見つめている。
「私、雪のことが好きなの! 私と恋人になって!!」
「「えっ、えぇぇぇぇぇぇ!?」」
俺と海の叫び声は玄関で響き渡った。
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