第18話 攻めの海


 風呂場に行く前に、俺はポケットに突っ込んだままの梓さんの連絡先を机の上に置いて一階へ向かった。


 家の間取りを知らないのでとりあえず、適当に部屋を開けると脱衣所についた。

 それで? 俺の服は……


「着替えの服どこだよ……」


 色々棚を漁っていると……


「何してるの? お兄ちゃん?」


「俺の着替えの服ってどこよ?」


「あー、ここに入ってるよ」


「ありがとう、というか俺の着替えの服って脱衣所にあるもんなの?」


「うん、前のお兄ちゃんお風呂入る時しか着替えなかったから」


「……外に出ないからここに置かれてるのか」


「そうだねー、あとで部屋に持っていく?」


「入れる場所も見たいから明日にするわ」


「おっけー」


「……で、海さんや」


「何?」


「そこにいると俺服脱げないんだけど?」


「私は脱げるよ?」


「羞恥心とか持ってないの?」


「貞操観念がないお兄ちゃんがそれ言う?」


「……女性として羞恥心は必要だぞ?」


「お風呂だとお互い裸になるんだから別によくない?」


「……平行線だな」


「……平行線だね」


「「…………」」


「もーめんどくさいなぁー! じゃあ私が先に入るから、あとから来てね」


「まじでか……」


「来なかったら、お兄ちゃんのMY SONがどうなってもしらないから」


「息子を人質に取るとか、正気の沙汰とは思えねぇなぁ!?」


 海はこちらの意思を無視して服を脱ぎ始める。

 慌てて後ろを向き衣擦れの音が無くなるまで待機する。

 やがて扉が開閉する音が聞こえたので、俺は服を脱いでいく。

 脱いだ服を脱衣かごに入れようとして、海の下着が目に入ってしまった。

 すぐに目をそらし、下半身にタオルを巻き意を決してお風呂場に入った。


 お風呂場に入り、チラリと海を見ると湯船に浸かっているようだ。

 なら俺から体を洗わせてもらおう。


 椅子に座り、シャンプーを……どれがシャンプーだ?


「シャンプーはこれだよ」


「あぁ、ありがっ!? ちょ! おい!」


 いつの間にかすぐ横に来ていた海が目に入った。

 この子タオル巻いてないんですけど!?


「体洗ってあげる」


「いや、だいじょ「うるさい!」……」


 もうわかった。今の海には下手に逆らっちゃいけない。いや、逆らえない。


「……よろしくお願いします」


「はーい♪」


 そう返事すると海は背中を洗い始めた。

 抵抗する気のない俺は自分の髪を洗い始める。


「……私ね、男の人ってちょっと苦手だったんだ」


「そうなのか」


「うん、幼稚園の時かなー男の子がいたけどわがままな子でね、女の子叩いてたりしてたから、いい印象なかったんだ」


「あーそれはいやだな」


「だから、男性省保護省に登録したのはいいけど、そういう人に当たったらいやだなーって思ってたんだけど……前のお兄ちゃんはそういう人じゃなかったから、よかったって思ってたんだけど……」


 背中を洗ってくれていた海の動きが止まる。


「仲良くしようと頑張ってたんだけどね……小学生の頃はまだお話できてたんだけど、少しずつ会話する機会が減っていって、中学生入った位からほとんど会話もしなくなったんだ……」


 海なりに仲良くなろうと努力はしていたのだろう。

 だが、雪自身に色々ありすぎて身内すらも拒絶するようになったから海の努力が報われることは……


「でも、将来結婚することになるだろうしさ、嫌われないようにはしようって考えてたんだ。高校に入ったらお嫁さん探しもするだろうし、その時に仲良くなればいいかって……」


「…………」


「そしたらさ、お兄ちゃん階段から落ちて、入院して、記憶喪失になって……せっかく他の女性と違って近くにいたのに、全部無くなったことになって……悲しくなって……病院で泣いちゃったんだ……でも――」


 海が後ろから抱きしめてくる。


「泣いた私を慰めようとお兄ちゃんが抱きしめてくれてさ、今までそんなことしてくれたことなかったから、すごくうれしかったんだ……。初めて男性に抱きしめてもらえて、うれしくて……うれしくて……すごく暖かかった……。だからね、お兄ちゃんが退院したら今度こそ仲良くなろうって今日必死だったんだ……」


「そっか……」


「それなのに……遺書見つけて、お兄ちゃんが座り込んで、何か思いつめた表情してるの見て、記憶戻ったんじゃないかって……遺書なんて見たらそのまま死んじゃうんじゃないかって……怖かった……」


「海……」


「だからね、前のお兄ちゃんからは信用してもらえなかったのは悲しいけど、やさしいお兄ちゃんが居てくれて私はうれしいんだ」


「……なぁ、海は……海は雪のこと好きじゃなかったのか……?」


「好き? 好きって、家族的な意味で? それともお兄ちゃんの言う愛を育む……恋愛的な意味で?」


「恋愛的な意味でだ。結婚するんだろ? 好きな相手だから結婚するんじゃないのか?」


「んーそういう意味だと好きとかでは別になかったかな。時雨姉も私と同じだと思うけど……というかお兄ちゃん勘違いしてるよね?」


「何を?」


「お兄ちゃんの言う恋愛ってこの世界だと漫画の中でしか聞いたことないよ?」


「えっ?」


「前のお兄ちゃんも言ってたじゃん。傲慢な人と臆病な人しか男はいないって。そんな人達とどうやって愛を育むのさ? 普通の男の人がいっぱいいる漫画の世界にしかないよ恋愛なんて」


「彼氏彼女のラブラブな関係はこの世にないんか……」


「彼氏彼女の関係なんて漫画の読みすぎ……って言いたいところだけど、前の世界だとそれが普通だったの?」


「あぁ、基本はそんな感じだ」


「ふーん、お兄ちゃんは彼氏彼女の関係になって何がしたかったの? 結婚するのとどう違うの?」


「何がしたいってそりゃ、好きな女の子とドキドキイチャイチャしたいから……かな? 結婚って彼氏彼女の関係を経てずっと一緒に居たいって思える相手とするもんだからな」


「へぇーまさに漫画の中の世界って感じだね」


「まぁ、海達からしたらそうなのかもな」


「うん、でもそっかー、ドキドキイチャイチャしたかったんだ?」


「そうだな」


「じゃあこういうのはドキドキする?」


 そういうと海は抱き着いた体を上下に動かし始めた。


「海!?」


 待て、真面目な話をしていたから意識していなかったが海は裸だ。

 裸で俺の背中に抱き着いているということは……!


「あの海さん!? 胸がですね!? 生の胸がですね!?」


「ふふふ、どうお兄ちゃん? ドキドキする?」


「と、とてもドキドキしますので、そろそろやめていただけると!」


「んーどうしてー?」


「いや、そりゃ!?」


「んー? 海わかんなーい♪」


 こいつ確信犯だ!

 もうね、今日は俺の脳内天使死んでるの、こんなことされたら……

 今の俺はタオル一枚だけ、薄っぺらい布一枚を巻き付けているだけだ。

 俺はお風呂場でタープを張ることになった。


「私さ、彼氏彼女の関係はどうでもいいんだけど、お兄ちゃんと結婚したいとは思ってるからね? ……やさしいお兄ちゃんとさ」


「そ、それはとても光栄です」


「だから、お兄ちゃんがずっと一緒にいたいと思ってもらえるように私頑張るから」


「……ありがとう」


 そう答えるとやっと海は動きを止めてくれた。

 動きを止め、後ろから俺のタープを覗き込んできた。


「あは♪ ちゃんとドキドキしてくれたみたいだね!」


「するに決まってるだろ!」


「うんうん♪ こうやってイチャイチャして愛を育んでいこうね?」


「……出来れば、もう少し緩やかにして頂けませんかね?」


「い ・ や ・ ♪」


 俺の理性のHPが増えてくれることを願うしかない。


「というか、お兄ちゃんが女の子とイチャイチャしたいって言ったじゃん? 私じゃダメなの? 私に魅力ない?」


「そんなことはない、海はとてもかわいくて、魅力的だ」


「じゃあいいじゃん!」


「俺にも心の準備ってもんがだな……?」


「そんな悠長にしてたらまずいと思うよ?」


「え、なんで?」


「お兄ちゃん高校に行くことになったら、色んな雌が今まで以上にグイグイよってくるだろうから耐性付けとかないと、外でテント張るつもり? 発情した雌犬に見つかって、そのまま攫われちゃうよ?」


「……そんなグイグイくるのか」


「お兄ちゃん女の子のこと舐めすぎ」


「そ、そうなのか……」


「だから頑張ろうね?」


「お、おう」


「うん! 言質取ったから!」


「え?」


「お風呂から上がったら早速練習だよー」


「練習? 何するの?」


「むふふー!」


「……」


 俺は何をされるのだろうか……というか今までの流れからして耐えられるのだろうか……


「じゃあ、さっさとお風呂あがっちゃおうねー!」


「あの、今日はもうじゅぶ「うるさい!」……」


 今日の俺に選択権はないようです。


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