第14話 雪の部屋


 扉を開けるとまっくらだ。何も見えない。


 とりあえず、電気をつけようと思い、入り口付近を手探りで探すとスイッチがあったので押してみたら部屋に明かりがついた。


「ここが俺の部屋なのか」


 部屋の中を見渡すと思ったより中はきれいだった。

 定期的に掃除していたのだろうか?

 他にも引きこもりの為か暇潰しの道具には困らなそうだ。


「割ときれいね」

「そうだね、思ったよりきれいだったけど……」


 部屋の隅を見るとゴミ袋が2つ溜まっており、勉強する為の机にはカップ麺の空が重ねてあり、その横には空のペットボトルが5本ほど置いてあった。


「ゴミ袋の中身は……本当にただのゴミのようだな」


「雪、カップ麺ばっかりじゃ体に悪いわよ?」


「いや、今の俺にそう言われても……」


「お兄ちゃん、ベッドちょっと臭い……」


「だから今の俺にそう言われても……」


 前の俺よ、言われ放題だぞ。


「ちょっと息苦しいから窓あけるわね?」


 いつの間にか窓際まで移動している時雨がカーテンを開けることにより窓からの景色が目に入る。


「隣の家とずいぶん近いな、普通に跨いで部屋を渡れそうだ」


「そうよ、窓から見えるのは私の部屋で昔夜にこの部屋に遊びに来たことだってあるんだから」


「そうなのか」


「えぇ、小さい時は渡る時ハラハラしてたけど……今なら簡単に渡れそうね」


「……渡るご予定がおありで?」


「朝一緒に学校行くときに起こしてあげられるわよ?」


 幼馴染が朝部屋の窓から起こしに来るなんてどこのテンプレラブコメだよと思うが、前世で幼馴染などいなかった俺としてはうらやましいイベントだったので、ここで断るなどと言う選択肢はない。


「よろしくお願いします」


「素直でよろしい」


「お兄ちゃんシーツとかマクラカバーとか洗濯に出しちゃうね」


 見てみると返事をする前にすでに俺のベッドからシーツなどが取り払われていた。


「あぁ、ありがとう。予備はあるのか?」


「……無いよ」


「えっ、無いのかよ」


「うん、無い。無いったら無い」


 なんでそんな無いことを強調してるんだ。


「そっか、まぁ一日くらい無くてもいいか」


「そのまま寝るつもり?」


「そうだが?」


「ダメに決まってるじゃん」


「一日くらいそのままでも問題ないだろ」


「お兄ちゃんの汁がマットレスに染み付いちゃうでしょ?」


「汁ってなんだよ汁って! 普通に汗って言えよ!」


「お兄ちゃん寝るときよく涎垂らしてたから」


 前のおれええええええええええええええ!!


「ま、まじか……でも病院では涎垂らしたりしてないから大丈夫だよ」


「チッ……うるさいなぁ……」


「海さん!?」


「いいから! お兄ちゃんはここで寝たらダメ!」


 この部屋に入ってから海の機嫌が悪い気がする。


「なんで怒ってるの!? わかった、わかったよ。じゃあどこで寝たらいいんだ? リビングのソファで寝たらいいのか?」


「そんなことさせるわけないじゃん。お兄ちゃんは私と一緒に寝るの」


「一緒に!?」


「うん、今までも女の子慣れの為に一緒に寝てたから問題ないよ」


 なんか嵌められている気もするが、海を怒らせたくないので言う通りにすることにしよう。


「わかった、お世話になるよ」


「うんうん! たっぷりお世話してあげる♪」


「それにしても今の雪の部屋は色々な物があるのね」


 時雨の方に振り向くと、時雨はダンベルを持っていた。以前の俺はこの部屋で筋トレでもしていたのだろうか?


「確かにそうだな、というかさっきから気になってるんだが、あれなんだよ」


 俺はあれに近づき手に持った。


「俺はコスプレ趣味でもあったのか? 女物の服に金髪のカツラって……」


「あぁ、それは雪が外に出る時の変装用よ」


「変装!?」


「そうよ、前の雪は女性恐怖症だったから、下手に女性に近づかれないように変装していたのよ。男ってわかったら声掛けてくる人だっているし、最悪の場合そのまま連れ去られることだってあるんだから」


「oh……」


「今は大丈夫そうだけど……念の為それは残しておきなさい」


「あぁ、そうするよ」


 この世界に来てちょくちょく男性が襲われる話を聞く限り、今の話も冗談ではないのだろう。かといって、俺も普通の男なので女装することに抵抗がある。これは様子を見て使用することにしよう。


「それで、こうやって見回してみて、何か思い出すことはあるかしら?」


「いやーとくに思い出すことはないなー」


「そう。思い出さないなら、それならそれでいいわ。ゆっくり思い出していきましょ?」


「うんうん。下手に刺激してお兄ちゃんのトラウマが蘇るのも嫌だからね」


「あぁ、そうだな。ありがとう時雨、海」


 そう言いながら微笑んでくれる二人に、俺ははっきりと罪悪感を覚える。


 少し前から罪悪感はあった。気にしてもしょうがないと思い、頭の片隅に捨ててただけだ。


 前の雪と今の俺は違う。


 なんで前の雪の代わりに俺がここにいるのかわからない。


 それ自体は別にいい、いや、よくはないだろうがこの際どうでもいい。


 一番気掛かりなのは海と時雨のことだ。


 海と時雨は以前の俺のことを慕ってくれている。


 俺ではなく、以前の俺だ。


 だから今の状況は以前の俺からしたら疑似NTRプレイと言っても過言ではないだろう。


 そんな状態で俺は今後二人と結婚して普通に暮らしていけるだろうか?


 答えは否だ。


 俺は前の世界で死ぬ前に確かに恋人を作って童貞を捨てたいと思った。


 だか、こんな形で捨てたいと思うほどクソ野郎ではない。


 だから俺は―――


「ねぇ……お兄ちゃん……これ何……?」


 震えた声の海の声が耳に届く。


「ん? これって?」

「これ……」


 海が机で何かを見つけたのか、それを俺と時雨に見せてくる。

 それは白い封筒だった。

 白い封筒には正面に一言だけ書かれていた。


「遺書―――」


「「「…………」」」


 急に重たい空気が部屋を包み込んだ。


「お兄ちゃん……」

「雪……」

「…………」


 なんと答えたらいいのか、わからない。否、答えようがない。

 だが、それが前の俺の意思だとしたら……

 俺は読まなければならないだろう。


「なぁ、俺が読んでもいいか?」

「……私も読んでいいかしら?」

「……私も……読ませて……?」

「わかった。3人で読もう」


 そして、俺は海から封筒を受け取った。

 封筒から折りたたまれた一枚の紙を出していると二人は俺の両隣で一緒に読もうとしている。


 ふぅー……


 緊張する中、俺は折りたたまれた手紙を開いた。


 その瞬間まばゆい光が俺を襲い、目を閉じた。


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