第13話 普通に晩御飯…な訳ねぇよなぁ!?

「はーい?」


 海が返事をすると扉が開き、母親が姿を現した。


「そろそろ、晩御飯にしましょ? 時雨ちゃんも食べていくわよね?」


「ありがとうございます! ご馳走になります!」


「うふふ、いいのよ、いいのよ! 未来の息子のお嫁さんなんだから!」


「はい♡」


「それじゃ、降りてらっしゃいねー」


 扉が閉められ、外から足跡が遠ざかっていく。


「じゃあ、今日はここまでにしよっか?」


「またやろうね雪?」


「あ、あぁ、またよろしくお願い致します」


「なんで敬語になってるの? 変な雪」


 クスクスクスと時雨と海が笑いながら、部屋を出て行こうとするので、俺は慌てて追いかけた……両手でテントを隠しながら……


 リビングに近づくに連れ、腹の虫を刺激するいい匂いが漂ってきた。


 この匂いは……ハンバーグ!


「さぁさぁ、みんな座って座って!」


 母親に促され、それぞれ席に着く。


 ハンバーグの他にサラダにスープもついて最高だな!


「「「「頂きまーす!」」」」


 考えてみるとお店以外で誰かが作ったご飯食べるのは久しぶりだ……


 まずは一口ハンバーグを食べる。


 う、うまい! 肉汁溢れるハンバーグは最高だねぇ!


 俺がパクパクごはんを食べていると、視線を感じて顔を上げると3人がこちらを見ている。


「ど、どうしたんだ?」


「おいしそうに食べてるから見てただけよ」


「えぇ、気にしないで頂戴」


「うんうん、見てるだけだから」


「見られてると恥ずかしいんだが……」


「おいしい雪?」


「あぁ、めちゃくちゃおいしいよ、お母さん」


「そう! よかったわ!」


 気にしててもしょうがないので、そのまま食べ続けようとしたがそこに待ったが掛かった。


「ほらほら、お兄ちゃんいつものやろうね」


「なんだよ唐突に」


 そう言って、一口サイズに切られたハンバーグを俺の方に近づけてきた。


「はい、お兄ちゃん、あーん」


「えっ!?」


「大淀家で食事する時は、お兄ちゃんがみんなにあーんしてみんながお兄ちゃんにあーんするルールがあるんだよ?」


「何そのルール!?」


「いいからほら、あーん?」


「あ、あーん」


 差し出されたハンバーグを食べる。


「おいしい?」


「あぁ、おいしいよ」


「次はお兄ちゃんね! ほらほら!」


 ほんとにそんなことやってたのか疑問は残るが、やってもらったのなら、やり返してあげるのが礼儀だろう。


 自分のハンバーグを一口サイズに切り分け海の方にハンバーグを差し出した。


「あ、あーん?」


「あーん♪」


 俺から差し出されたハンバーグを食べるとニッコニコの笑顔で味を答えてくれた。


「いつもよりおいしく感じるよお兄ちゃん♪」


「そうか、よかったよ」


「「雪! 私にも!」」


 当然かのように母親と時雨が続いてくる。ここでやらないなんて選択肢は俺にはないので二人にも海と同じようにあーんをしてあげた。


 3人はニコニコしながら食事を続けている。


「そういえば、明日から学校なのか?」


「そうよ。雪は明日学校に行かなくていいから、部屋で学校で渡されたプリントしておけばいいわよ。」


「そっか、わかったよ」


「学校が終わったらまた遊びに来るからね?」


「あぁ、楽しみにしてるよ」


「お母さん明日遅くなるから、ご飯はいつも通り先に食べてていいからね?」


「はーい! お兄ちゃんと一緒に食べとくね。お兄ちゃん明日何が食べたい?」


「ん? 海が晩御飯作ってるのか?」


「そうだよー?」


「ふーん、じゃあ明日は俺が作ってもいいか?」


「「「えっ!?」」」


「いや、どうせ俺明日家にいるだけだし、海は学校行くんだろ? それで帰ってきて晩御飯作るの大変だろうからさ」


「お、お兄ちゃん、ご飯作れるの?」


「まぁ、このハンバーグほどおいしくはないけど、普通に作れるぞ?」


 これでも大学生時代から一人暮らししていたのだ、普通の料理ぐらいはできる。


「な、何を作るのかしら?」


「んー冷蔵庫の中身を確認して、何を作るか決めるかな? あとで冷蔵庫確認しとく」


「足りない物があったら連絡してね? 買って帰るから」


「わかった、ところで俺の携帯ってどこにあるの?」


「部屋にあるんじゃないかな?」


「ふーん、あとで探しとくよ」


 そんな会話をしながらご飯を食べ終えた。


「ごちそうさまでした!」


「お粗末様」


 俺は立ち上がって食器を流しに持っていく。


「流しに置いとくだけでいいわよ。あとで洗っておくから」


「わかった。ありがとう」


 流しに食器を置くと慌てて食器を持った海がやってきた。


「お兄ちゃんこれからどうするの?」


「とりあえず、自分の部屋に行ってみようかなって」


「そっか……私も一緒に行っていい?」


「私もいいかしら?」


 遅れて時雨も食器を持ってきた。


「あぁ、いいぞ」


 そして、3人で階段を上がり、雪の部屋の扉の前に着いた。


「あ、お兄ちゃんちょっと待って」


 そう言うと、海は自分の部屋に戻り何かを持ってすぐに帰ってきた。


「はいお兄ちゃんこれ」


「ルームスプレー?何故?」


「お兄ちゃんが外に出ることって滅多になかったんだけど、お風呂もあんまり入ってなかったんだよね、ちょっと匂ったりしてたから、部屋ももしかしたら……」


「そういえば、雪って滅多に外に出なかったけど、お昼とかどうしてたのかしら?」


「惣菜パンとかカップ麺食べてたはずだけど……私、お兄ちゃんの部屋からゴミ回収したことないんだけど、どうしてたんだろうね?」


 おい、部屋に入るのが急に怖くなったぞ。


「俺の部屋は汚部屋なのか……?」


「私お兄ちゃんの部屋入ったことないからなんとも……」


「私も小さい頃に入ったことはあるけど、今はどうなってるかちょっと……」


「「「……」」」


「まぁ、ここでウダウダしてもしょうがないか」


 俺は扉のドアノブに手をかける。


 俺に霊感なんてものはないが重たい空気を感じる。部屋が汚部屋かもしれないというだからではない。他者を拒絶するようなイメージがドアノブを通じて自分自身に流れ込んでくる気がした。


 ドアノブに手をかけ、固まっていると両脇から暖かさを感じた。


「お兄ちゃん?」

「雪?」


 二人がこちらを見ながら腕に抱き着いている。


 まぁ、二人が入ればなんとかなるだろう。


 そう思い、ドアを開けた。



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