第7話 俺のふぁぁぁすときぃすぅぅぅぅぅ……
海と時雨はお互い見合って困った顔をしていた。
そこへお茶とお菓子を持ってお母さんがやってくる。
「はーい、3人ともどうぞー」
「「「ありがとう(ございます)!」」」
「それで? 何の話をしていたの?」
「ううーん……」
海は悩みながら、紅茶を飲み始めた。
時雨は海の判断に任せたのであろう、紅茶を一口飲んでお菓子を食べ始めた。
俺は様子を伺いつつコーヒーを一口飲む……おいしい……インスタントばっかり飲んでいた俺からしたら、かなり上質な物に感じた。
「あら? 雪、砂糖とミルクは入れないの?」
「え?」
「いつもは砂糖とミルクを入れないと飲めないって言ってたのに」
「そ、そうなんだ。ブラックでもおいしく感じるからこのままでいいや」
「成長して味覚も変わってきたのかしらねー」
前の俺は苦いのはダメだったのか……?
「それで海はさっきから何をうんうん言ってるの?」
「……時雨姉がお兄ちゃんにキスを要求したんだけど、ファーストキスは恋人の為にとっておきたいってお兄ちゃんが言ってて……」
「あー……」
お母さんまで同じ反応をしだした。
お母さんも俺のファーストキスのことを知っているのだろう。
「待って、とりあえず確認させてくれないか? 俺のファーストキスは既に誰かに捧げてるのか……?」
「うん……そうだね……」
「そっかー……」
反応からそうだろうとは思ったが、既にファーストキスしていたらしい。
前世でも恋人の為と思って、ファーストキスを取っておいたことから複雑な気分だ。
「それで、相手は誰なんだ?」
「さぁ?」
「へ? あぁ……もしかして海とかも知らない恋人が俺には以前いたのか? それでファーストキスはその人に捧げたと以前の俺が言っていたとか?」
「違う、そうじゃない」
「じゃあなんだよ」
釈然としない答えにちょっとだけイラッとしているとお菓子を食べていた時雨がこちらを見ながら悲しそうな顔をする。
「あのね雪、さっきも言ったけど、トラウマを思い出させたくないの。だから言いづらいのよ」
「俺のファーストキスの相手はトラウマの原因なのか……」
「ううん、ファーストキスの相手がトラウマじゃないの」
さっき触れないでおこうとか思っていたのに、ここまで知ってしまったからには逆に知らないと気が済まない。
「どういうことなの?」
「……もう、知らないからね……? あのね雪、小学校2年生の頃にね、事件があったのよ」
「事件とな」
「簡単に説明するけど、小学校2年生の時に貴方が誰かにキスをしたらしいのよ」
「ほう」
「それでね、それを見ていた他の女の子達が私も私もって続いて学年中からキスを迫られたのよ」
「学年中!?」
「そう、あの頃の雪はまだ素直な子供だったから、迫ってくる女の子にキスをし続けたのよ。その時ちょうど私がいなくて……嫌な予感がしたから慌てて戻ったんだけど、その時には既に何十人もの女の子とキスをしていたの」
「おぉぅ……」
「私が見つけた時、雪は泣いてたわ……最初は素直にキスしていたんでしょうけど
あまりの多さに泣いちゃったんでしょうね……」
「あーだからトラウマなのか」
「そうよ、もしかして思い出しちゃった……?」
「いやまったく」
そらトラウマになるわな……
誰かもわからないような人にキスを迫られ続けたら流石に怖いわ……
「そう……無駄に記憶を取り戻さなくてよかったわ」
「あぁ、ということは最初にキスした子もわかってないし、トラウマだけが残ってるような状態なのか」
「そうよ。それが多分貴方の最初のトラウマでしょうね、私が知る限り」
「他にもトラウマあるのか……」
「あるわよー、じゃなければ、貴方が引きこもりになるなんてことなかったわ」
「ふーん、ちなみに海はそんな大騒ぎの時、どうしてたんだ? なんか今の海見ていると俺のことほっとかなそうなイメージあるんだが」
「私が妹になったのはその事件のあとだよ」
「そうなのか? じゃあこの事件のことはお母さんや時雨に話を聞いたのか」
「詳しくはねー、そもそもその事件が原因というかおかげで私はお兄ちゃんの妹になったんだから」
「え? そうなの?」
「うん、車でも話したけど私は男性保護省から選ばれたけど、そもそも何故選ばれることになったと思う?」
「え? 強制的に姉か妹を押し付けて女性に慣れさせる為じゃないのか?」
「間違ってはないけど、正解でもないよ」
「?」
「慣れさせる為……なんで慣れさせる必要が出てくると思う?」
「……話の流れからするとトラウマを克服させる為か」
「そういうこと、貴重な男性がまったく女性に反応しなくなるのはまずいから、姉や妹……女の子が男の子がいる家族に迎え入れられるんだよ」
「へぇー理由なく押し付けてる訳じゃなかったんだな」
「うん、まったく周りに歳の近い女性がいない人なんかは、強制的に割り当てられることもあるらしいけど、お兄ちゃんの場合、仮に何の事件もなければ、私が妹になることはなかったんじゃないかな?時雨姉がいるから」
「そうだったのか……ごめんな海……」
「え、どうしてそうなるの?」
「だって俺のトラウマを直す為に、元々の家庭から強制的にうちに来たことになるんだろ?」
「あーそこも間違いだね。姉や妹の選ばれる子って言うのは男性保護省に母親とその子供が申請を行って申請が受理されないと候補にすら入れないからね」
「そんな厳正な審査的なものがあるのか」
「そそ、誰でも通るわけじゃないし、仮に選ばれると男性保護省から母親と子供にお金が貰えたり、他にも保障がついてきたりするからWIN-WINの関係なんだよ」
「そうだったんだな」
「うん、前の暮らしってほとんど覚えてないけど小さいアパートで一人で過ごしてたような気がするから今の暮らしの方が幸せだよ?」
「そっか……」
「だから、そんな顔しないでよお兄ちゃん。私は数ある候補から選ばれたラッキーガールなんだから、お兄ちゃんが気に病む必要なんてないんだよ? 選ばれたくても選ばれない子だっているんだから」
俺は話を聞いていて、海は明るく振舞っているが、どこか寂しい思いをしているんじゃないかと考えていた。そんな考えが表情に出ていたのだろう。
「まぁ、どうしても気に病むって言うならぁ……結婚しよ♪」
「……どうしてそうなった?」
「そうやって気に病むなら私を幸せにしたらいいじゃない? お兄ちゃんは私を幸せにできる。私はお兄ちゃんと結婚できて幸せ。WIN-WINの関係だよ?」
「そうか……そう考えると俺は海を幸せに「何騙されようとしてんのよ!」」
スパーン!
いつのまにかにハリセンを持っている時雨に叩かれた。
「ちょっと! 時雨姉! 今すっごく大事なところだったよ! うまくいけば初夜までいけたかもしれないのに何するのさ!!」
「完全に雪が流されたから引き戻しただけよ。いい雪? 貴方が気に病む必要なんてないのよ。貴方は女性に襲われた被害者なんだから、余計な気をまわす必要はないの。その為に、男性保護省があるんだから」
「まったくもー……そういうことだから、お兄ちゃんは変なことは考えずに普通に過ごしてればいいのー」
「わかったよ、ありがとうな海」
「お礼は言葉じゃなくて、行動で返し「さっきその流れやったでしょ?」チッ……」
ここまで静観していたお母さんが止めに入った。
貞貞操観念が逆転した世界でのお決まりな事実を突きつけるため。
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小説を書き始めて3日目の段階で星50……!ありがとうございます!!
創作意欲に繋がるので応援、星を何卒・・・!
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