第5話 退院と海について

 濃密な3日間を過ごし、いざ退院となってこの病院……というよりも男性の待遇について気付いたことがあった。


 退院の準備をし、梓さんと一緒に廊下に出た時のこと……


「そういえば、昼間廊下に出たことありませんでしたが、全然人がいる気配がありませんね?」


「それはそうだよぉ。このフロアは男性専用なんだから。ちなみに入院している男性も今は雪君だけだよ?」


「男性専用フロア?」


「うん、じゃないと雪君は今頃、貞操なんて一瞬で散らされてたよー? 寝ている間に経験人数3桁になってたかも」


 寝ている間に経験人数3桁はさすがに嫌だな……


「あれ、じゃあなんでこのフロアのトイレは女性用しかないんですか?」


「トイレ? 部屋にトイレあるのに外に出る必要ないでしょ? このフロアにあるトイレは従業員用しかないよ?」


「あぁ……そうだったんですね……どうりで……」


「そうそう、知らない人がこの階に来て部屋に入ってきてもすぐにわかるようにセキュリティもばっちりしてあるんだから」


「えぇ……そこまでしてあるんですか?」


「そうだよぉ? 知らない間に経験人数3桁になって何十人もの子供のパパはさすがに嫌でしょ?」


「それはそう」


 この世界の女性はどれだけ男に飢えているんだ……


「あとこれ渡しておくね?」


 小さな紙を俺の服のポケットに突っ込んでくる。


「なんですかこれ?」


「私の連絡先だよー。電話番号と、メッセアプリのアカウントと、SNSのアカウントが書いてあるから必ず連絡してねー?」


「ありがとうございます! 必ず連絡しますね!」


「うん! 絶対だよ!? 毎日でもいいからね!?」


 そんな会話をしながらエレベーターに乗り病院の入り口まで行くと母親と妹と小鳥遊先生まではわかる……


「なんか人多くないですか?」


「雪君が退院するから、みんな別れを惜しんでるんだよぉ」


「雪!」

「お兄ちゃん!」

「「「雪くーーん!」」」


「皆さん、お世話になりました。」


「雪君、何かあったらすぐに病院に連絡してね? あと、伝えたと思うけど、しばらくは一週間に一回病院で診察するから忘れないでね?」


「はい、わかりました」


「雪君雪君!」


 看護師の1人が俺のことを呼びながら1枚の紙を渡してきた。


「これは?」


「私の連絡先だよ? なにかあったらすぐ連絡してね♪」


「ありがとうござ「「「雪君! 私の連絡先も受け取って!!」」」!?」


 隙を伺っていたのか看護師の人達が一斉に連絡先を書いた紙を渡してくる。

 すべて受け取ろうと手を伸ばした瞬間、割って入ってきたのは母親と妹だった。


「はーい、こちらで受け取りまーす」

「お兄ちゃんは受け取らないでね? それも没収」


 受け取った紙を奪われ、看護師達の紙をさっさと回収していく母親と妹。

 あとでちゃんと渡してもらえるのだろうか。


「さぁ、雪、帰るわよ。車に乗って?」

「お兄ちゃん後ろに乗ってね?」

「はいよ。それでは皆さん、ありがとうございましたー」


「「「雪君まったねーーー!!!」」」


 手を振って見送ってくれる看護師さんたちに車から手を振り返した。


 車から看護師さん達を見ているが、こちらが見えなくなるまで手を振ってくれていた。


「お兄ちゃん、入院中何事もなかった? 貞操は無事?」


「お前は急に何を言い出した? 何もなかったよ」


「ふーん……他に連絡先とかもらってないよね?」


 海の目が怖い……梓さんの紙は出さない方がいいだろう。


「本当にどうしたんだ? というかさっきの連絡先書かれた紙くれよ」


「は? あげるわけないでしょ? 何言ってるの?」


「えっ」


「余計な雌犬の連絡先なんて不要でしょ? お兄ちゃんの交友関係の管理は私がしてるんだから」


「えっ!? じゃ、じゃあ俺の小学校や中学の友達とかは……?」


「発情した雌犬は時雨姉が睨み効かせてるから、連絡先とかも破棄してるはずだよ?」


「俺……友達いないのか……?」


「私と時雨姉がいれば十分でしょ? そもそも男なんだから、学校にもほとんど行ってないよ?」


「は? じゃあどうやって俺は勉強してたんだよ? 自己学習?」


「週2で学校の保健室に行って、プリント貰って学習だよ」


「それでよく高校受験合格したな俺は……」


「受験なんてしてないよ? 男は無条件で入れるから」


「まじかよ……まさか男子校なのか?」


「違う、共学だよ、かなり偏差値高い学校」


「なんでそんな状態で偏差値高い高校行けるんだよ」


「この近くだとそこしか男がいける学校ないからね」


「俺の偏差値とか関係ないのか……授業についていけるのだろうか……」


「必要なくない? どうせ私と結婚して私が養ってあげるんだから」


「はぁ? 実の妹と結婚できる訳ないだろ」


「え? 結婚できるよ?」


「まじかよ……」


「実の母親以外となら結婚できるから、というか私と結婚する約束も忘れたの?」


「それは嘘だろ」


「……なんでそう思うの?」


「時雨が恋人やら結婚の約束やら言って海がツッコミ入れてただろ? 海とそんな約束してたら時雨もあんな簡単に引き下がらないんじゃないか? 勘だけど」


「……勘のいいお兄ちゃんは嫌いだよ」


 こいつも既成事実を狙ってやがった……!


「そもそも学力があったとしても、男性が働ける場所なんて限られてるんだから気にしてもしょうがなくない?」


「俺……働けないのか……ひもになる道しかないの……?」


「男性保護省からお金貰えるから働く必要ないし、芸能人とかなら働けるだろうけど、私TVに出てくる男の人って嫌いなんだよね」


「そうなの?」


「うん、TVに出る男の人って顔はいいけど男って理由で傲慢だし、演技も下手だから見るだけ不快なんだよね」


「へぇーそんなもんなのか」


「そそ、そういう訳でお兄ちゃんは学力とか気にしなくていいから」


 前の世界の感覚が残ってるせいか、ひもになれと言われてもどうも受け入れがたい


「というか、お兄ちゃん記憶喪失なんだよね?」


「うん? そうだよ?」


「男子校とか漫画の中にしか存在しないし、実の妹と結婚できる訳ないとかどこで得た知識なの? こんなの一般教養だよ? 記憶喪失はわかるんだけど変な知識が備わってる気がするんだよね」


 勘のいい妹は嫌いだよ……


「にゅ、入院中に漫画とか読んでたからそうなのかなって思ったんだ!」


「ふーん、まぁ別にいいんだけどね、あ、じゃあ私が血が繋がってない妹って言うのも覚えてないの?」


「!? 海は義妹なのか!?」


「そうだよ、男性保護省から選ばれた女の子だよ」


「男性保護省から選ばれた女の子???」


「男性保護省から男性は守られるけど、女性に慣れる必要もあるから歳が近い女の子が男の子の家族になるんだよ」


 つまりこの世界には子供は男の子1人という家庭はないということか


「だからそのうち姉か妹が増えるんじゃない?」


「そんなポンポン姉妹が増えるもんなのか……」


「法律なんだからそんなもんだよ。それに私のこと妹扱いしてるけど、お兄ちゃんの誕生日は1月で私は同じ年の5月だから学年は違うけどほぼ同じ歳だよ?」


「はぇー……」


「ほら、貴方達、もうすぐ家に着くわよ」


「「はーい」」


 そんな会話をしていたら、自分の家に着いたようだ。



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